思わず傍聴をしたくなる!? 多彩な法廷ドラマが登場
三方を客席で囲まれた法廷のセットをメインに、物語は主人公である北尾の視点で展開。難しい法廷用語も、多彩な裁判のケースとダンディさんらの解説で自然と理解できる仕掛けだ。中村は、ウラオモテのない性格だが少々頼りない駆け出しのライターを素直に演じて好演。覗き見気分で始めた傍聴が、次第に自分自身を振り返るきっかけになる過程を無理なく見せる。またトラウマをもつ日向役の石田は、可憐なたたずまいに明瞭な滑舌が印象的。緊迫感の続く舞台でホッとする存在だ。
クライマックスは、乖離性同一性障害(多重人格)をもつ橘秋介(藤田)と、妹・春子(仁藤/佐藤とダブルキャスト)の公判だろう。尺は短いものの、演技派の藤田と仁藤の熱演で、事件に至らざるを得ない人間の愚かさや切なさがしっかりと伝わってくる。
また、人情派の小田島裁判長(嶋村太一)、実直そうな田村弁護士(西嶌亮)、一見冴えない弁護士の浅野(浅倉一男)らが個性を表すことで、裁判の駆け引きの面白さが浮き彫りに。なかでも、クールで無表情な市原検察官役・水木ゆうなが、言い逃れをしようとする被告人に内なる炎を燃え上がらせるシーンは、胸がスッとした。機械的に進むのではなく、あくまで有機的に決着を探るのが裁判と知り、思わず傍聴を経験したくなる1本となった。公演は10月23日(日)まで。
取材・文佐藤さくら