ルールを破った者に非情な判断をくださなければならない王もルールを破った側も、どっちも悲劇なんですよ。でも、それがこの世界なんだと。だからこそ、この作品は時代を超えて世界中で上演されているんだと思うんです」。
その普遍的な内容を体現するために生瀬が大事にしたいのは、“行間”だ。膨大なセリフ量で構成されている戯曲だけになおさらその思いは強い。「セリフが多いのは、それだけ話さないと納得してもらえない状況があるから。そして、それを舞台にかけるということは、生身の人間がどう話して説得するかということがポイントになってくるわけです。だから、『あれだけのセリフをよく覚えましたね』なんて褒められるのがいちばん悲しい(笑)。
王のなかの逡巡もきちんと表現して、アンチゴーヌと丁々発止し、リアルで危うくて緊張感のある芝居にしたいと思うんです」。
十字状の舞台を四方から観客が取り囲むという特設ステージも、緊張感を高めるものになるだろう。「僕たちを間近に観て、『蒼井優ちゃんがかわいそう』『いやいや生瀬さんの言ってることもわかる』と自由に受け止め考えてもらえたらいいなと思います」。常に硬軟自在に作品のなかに生きる生瀬、伝えてくれるものは様々にあるはずだ。