柚希礼音が女スパイを熱演!『マタ・ハリ』東京公演開幕
そして「生きろ」と叫ぶ彼らの中に、誰よりも鮮やかな朱色の衣裳で、マタ・ハリが舞い立つ。柚希は、しなやかかつダイナミックなダンスが美しいだけでなく、女性らしい腰まわり、筋肉、すべてが美しく妖艶。何よりも“生”のエネルギーに溢れている。まさに、この閉塞した時代に舞い降りた女神といったインパクトだ。
演出の石丸と柚希はしかし、マタ・ハリをただ“謎めいたカッコいい女スパイ”とは描かない。凄絶な過去を抱え、それでも人生に立ち向かうけなげな女性、必死に生きる普通の女性として、誰もが共感し得る感情を繊細にすくい上げる。マタ・ハリの、アルマンに恋し、普通の暮らしを望むと語る笑顔が柔らかく、可愛らしい。柚希は女性の弱さも強さもとても自然に演じる。
彼女だからこそのマタ・ハリを生み出し、彼女にとって本作が女優としてのターニングポイントになるに違いないと確信させた。
一方でその恋の相手であるアルマンを演じる加藤も、マタと同じく心に抱えた孤独と傷を丁寧に描く。だからこそ、彼女と自然に心を寄り添わせつつ、最初は策略で彼女に近付いた事実に苦しむのだ。色気と少年の純粋さを同居させた加藤のアルマンは、マタが恋に落ちる説得力が十分だったが、それゆえにもうひと役、マタにスパイ活動を強いるラドゥーを加藤がどう演じるのかも気になるところ。