いたるところにルバートがあり、それはトゥーマッチです。プッチーニはチョコレートのように甘い音楽を書いたわけではありません」
よりスコアに忠実にというアプローチは、師のジョルジュ・プレートルから大きな示唆を受けている。「プレートルの《トスカ》は、スコアにとても忠実で、歌手に余計なスペースを与えていません。勝手に『解釈』するのでなく、作曲家の書いたスコアのしもべとなったうえでマジックを起こす人でした」
今回《トスカ》を初めて指揮するにあたって、スコアをゼロから見直した。「歌い上げるのではなく、ほとんどが会話で成立しているようなオペラです。だから無理に盛り上げず、抑えたほうが効果があるのです。すべてはスコアに書いてあるのですから」
そういうと彼は《トスカ》のドラマ構造を、調性や音程関係から分析してくれた。詳細は割愛するが、たとえばオペラ冒頭の3つの和音の連結(変ロ長調-変イ長調-ホ長調)は、多くの解説が「スカルピアの主題」と論じるところだが、彼はそうではないという。
また、「神」という単語に対応する変ロ長調の使用を重要と指摘する、新鮮な、しかし非常に興味深い解釈は彼独自のものだ。
真面目に静かに語る知的な口調はとても魅力的。