小井土「全然。秋から留学するつもりだったし。周囲の勧めもあって、結局、留学を延期して参加することに」
そして見事栄冠を勝ち取り、3月の受賞者演奏会ではベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番から第2~3楽章を演奏する。
小井土「特に第2楽章をぜひ弾きたくて。僕は、緩徐楽章のきれいなところが好きなので」
吉見「そういうところが本当に上手なんですよ」
小井土「自分のいいところが出せて、かつオーケストラでやる良さがある曲を選びました。単純に、あの第2楽章のオーケストラの美しい間奏を、ソリストとして間近で聴けたら幸せかなというのも理由です。いろんなキャラクターが出てきて、色彩の豊かな曲だと思います」
小井土は岩手県釜石市出身。8年前の3月11日は中学の卒業式直前だった。
自宅は被害を免れたが、50メートル先まで迫る津波を呆然と見つめていたという。「人生の中で、もうあれ以上の衝撃はないですよね。でも、あの体験がなかったらピアノを弾いていなかったかもしれません。失ったものも大きかったけれども、それを取り戻そうという力も働いた。もちろん今でもあの光景を思い出すのはつらいですが、そんな自分の内側を表現できる手段がある僕は運がいいと思います。