初期の作品に関しては弦の数を減らしますし、バロックのティンパニを使います。でも私たちはモダン楽器を使っていますし、ピリオド・アプローチを試みるわけではありません。健康的な現代オーケストラのパフォーマンスが持つ力強さを感じていただきたい。最終的にその大きなパワーの可能性が手元にあるのは、とてもドキドキすることです」
たとえばベートーヴェンの時代には用いていなかった弦楽器のヴィブラートに関しても、ありかなしかの二者択一ではなく、音色を引き出すパレットの一つとして、オーケストラと一緒に時間をかけながら、そのポテンシャルを最大限に引き出すことが大切だという。
「イマジネーションが必要ですが、ツールのひとつなので、まったく使わないというのは自分にとってはあり得ません」
こういう交響曲全曲演奏のようなプロジェクトが、コアなクラシック・ファンのための、マニアックな視点だけで捉えられがちなことには注意をうながす。
「とくに第5番(運命)。有名な作品ですが、初めて生演奏で聴く人もつねにいます。その方たちに、ベートーヴェンの当時の聴衆が、初めて聴いて椅子から転げ落ちるほどびっくりしたのと同じインパクトを感じてもらわなければいけません。