自分はヨーロッパの伝統の中で勉強してきた人間なので」
決勝のインターネット生配信。ときおり見せる幸せそうな笑顔がとても印象的だった。
「それが一番かなと思います。10年間お世話になったパウル・バドゥラ=スコダ先生が亡くなる3か月前に、ウィーンのご自宅で最後にレッスンしていただいたのがあの曲でした。2日間のレッスンのあと、先生はウォッカを、僕はお水を飲みながら(笑)、先生の師のエトヴィン・フィッシャーがフルトヴェングラーと弾いたCDを一緒に聴いて、その演奏解釈について話し合ったのは忘れられない思い出になりました」
そんなさまざまな音楽体験の、現時点での集大成になったという手応えもあるのだろう。コンクールを、「これまでの音楽人生の分岐点だった」と振り返る。
7月のリサイタルは、コンクールでも弾いたベートーヴェンのピアノ・ソナタ第15番《田園》と、リストのピアノ・ソナタ ロ短調を軸にしたプログラム。「《田園》は大好きなソナタで、コンクールでも演奏会でも何度も演奏しているものの、日本の演奏会で全楽章を弾くのはたぶん今度が初めてです。
けっして華やかではないのですが、本当に純粋に美しい。ベートーヴェンの、人間的な心の優しさが前面に出ている作品です。