ムソルグスキーが埋め込んだ苦しめられた者たちの暗喩。
「叡智と示唆に溢れる文学や絵画から作曲家たちが何を読み取り、何に共鳴して音にしたのか。いま生きている私はそこに何を感じるのか。これはけっして昔の話でなく、生きたリアルな言葉です」
いま私たちは、「音楽に何ができるのか」という問いにあらためて向き合っている。
── 音楽に戦争をやめさせることができるか?たぶん無理ですね。でも聴く人に「戦争をやめさせなくちゃ」という気持を起こさせることは、きっと音楽にもできるはずです。──
これは村上春樹の最近の言葉。仲道はそれを引いたあと、次のように言った。
「人が心から共感するのは悲しみなのだと思います。人間の業、悲しみはすべての人が背負っている。そして正義は怒りや悲しみから生まれる。それを描いている作品は私たちの心を動かす。音楽はそれをちゃんと伝えることができる。演奏家にはそれを伝える責務があります」
一人の記者が「共感しかない」と感想を口にした。まさに。ベテランのファンなら、少女時代の可憐な印象で彼女をイメージする人も少なくないかもしれない。
しかし近年の彼女の表現の深さにはすごみすら感じる。いま最も聴くべきピアニストだと思う。
(宮本明)