〝男の子〟が、愛を知って〝男〟として成長する。それがワーグナーにもちゃんと受け継がれているのですね」
10年前、二期会創立60周年の《パルジファル》でも同役を演じた。
「10年経って、ワーグナーの意図を、より明確に感じられるようになった気がします。ワーグナーの作品にはいつも、相対するものとして神と人間が登場するのですが、それはワーグナーが、人間の多様性を、より深く描き切ろうとしたから。だからこそ、演じる私たちが人間という存在をよくわかっていないと、なかなか表現できません」
上演はダブル・キャスト。もう一方の組でパルジファルを演じるのは、若手のホープ伊藤達人だ。
「いいですよ!いい声で、元気で溌剌としていて。人間的にもチャーミングで、パルジファルにぴったりじゃないですかね。
すごく期待しています。もちろん私も、彼のような若い人たちに、何かを見せられたらなと思いながらやっています。自分自身も、先輩方からそうやって授けられてきたのですから。でもね、若い人にはついていくのがやっとですよ(笑)」
「彼だけでなく、どの役をとっても、みんな個性が違うので面白いですよ。たぶんそれぞれの組で、まったく違う《パルジファル》になっていくんじゃないかなという期待があります。