幸四郎がシェイクスピア戯曲を翻案した『花の御所始末』で魅せる
数年が経ち、父や兄の亡霊に毎夜苦しめられる義教は……。
幸四郎は、暴君と怖れられた義教を大胆かつ繊細に表現。前半は、邪魔者を次々と殺め、ベッタリと付いた返り血も鮮やかに欲望のまま突き進む“悪の華”を舞台に立ち昇らせる。将軍の座についてからの後半は、義教の恐怖政治に不満を訴える大名や農民へ冷ややかな態度を保ちながらも、どこか惑うような、虚ろな表情で心情を垣間見せる。最期は炎に包まれ、ドラマチックな幕切れ。義満役・権十郎の器の大きさ、義教の妹で運命に翻弄される入江役・中村雀右衛門の芯の強さと儚さ。満家役・芝翫のしたたかな色気と、その息子で謀略に巻き込まれる左馬之助役・市川染五郎の清廉さも印象に残った。
そのほか第二部は、『~十段目』のひそかに赤穂浪士に協力する廻船問屋の天川屋義平役に、芝翫。
“男の中の男一匹”、“天川屋義平は男でござる”の名ゼリフを聞ける貴重な機会だ。さらに尾上松緑の大名・右京と中村鴈治郎の奥方玉の井で、チャーミングすぎるふたりのやりとりが文句なしに面白い『身替座禅』。
夜の第三部は、大正から昭和期の歌人・吉井勇の原作で、こちらも61年ぶりの上演となる『髑髏尼』のタイトルロールに、坂東玉三郎。