壮麗な舞台に目を奪われずにはいられないが、音楽だけとってもヴェルディ円熟の極みにある傑作。前奏曲が鳴り始めた瞬間から、シンフォニックで有機的な音楽の線が次々に紡がれて緊張感が途切れることなく、4時間弱(休憩含む)の上演時間があっというまに感じる。
キャストも充実。アイーダ役のセレーナ・ファルノッキア(ソプラノ)は、リリックで細身の声がこの役では新鮮。第2幕のアリア〈私のふるさとよ〉の、コントロールされた繊細なピアニッシモの高音(C)がじつに印象的に響いた。豊かでふくよかな声と表現に引き込まれたのが、アムネリス役のアイリーン・ロバーツ(メゾ・ソプラノ)。感情の振り幅の大きいこの恋敵あってこそのアイーダ。両者の理想的な対照だった。
そしてラダメス役のロベルト・アロニカ。新国立劇場芸術監督の大野和士が「今イタリアで3本の指に入る美声」と賞するテノールは、圧倒的な声量、輝かしい高音。のみならず、中域までつややかな響きを失わない。一本気な勇将の情熱と絶望を見事に歌った。1998年初演時のオリジナル・キャストで、ほぼ全回ランフィス役を歌っている妻屋秀和(バス)ら日本人歌手陣も贅沢な適材適所だ。
深い感動を、じつに率直に得られる名プロダクション。