粒揃いのキャストで隙のない上演に興奮。新国ボエーム開幕!
まっすぐな声が運命に立ち向かう意思の強さも感じさせる。METなどで活躍するスティーヴン・コステロも甘く軽やかなテノールで、ロドルフォの“若さ”をリアルに表現していた。〈冷たい手を〉のハイCはたっぷりフェルマータで!
もう一方のカップルのヴァレンティーナ・マストランジェロ(ムゼッタ)と須藤慎吾(マルチェッロ)、さらに親友の駒田敏章(ショナール)、フランチェスコ・レオーネ(コッリーネ)もすこぶる好演。共に青春を送るリアルなチーム感さえ通う。親密なアンサンブルが楽しく、高水準だ。
大野の音楽ドライブは絶妙。気持ちよく歌わせすぎてもたれることも、流れに重きを置くあまりに性急になることもなく、歌手陣と東京フィルハーモニーをリードした。終幕のミミの臨終シーン。
力なくつぶやくミミの背後で、オーケストラが二人の出会いの〈冷たい手を〉を回顧する。徐々に楽器が減っていき、最後に残ったソロ・ヴァイオリンが途絶えると、ミミが眠るようにこと切れる。客席の全員が知っている結末なのに、あちこちからすすり泣きが聞こえる。音楽の力。オペラを観る醍醐味だ。
《ラ・ボエーム》はこのあと7月8日(土)まで残り4公演。なお上演の模様はインターネット配信でも視聴可能(新国立劇場のオペラ公演では初の生ライヴも)。詳細は劇場サイトへ。
文:宮本明