すっきりとした立ち姿に余裕のある微笑みもさることながら、時折顔をかすめる怜悧な表情に、ただ者ではないオーラが香る。
雪姫には若手の中村米吉と中村児太郎がダブルキャストで挑んでいる。取材した初日は米吉で、これが初役。吹輪(ふきわ)のかつらに雪輪と桜があしらわれたトキ色の振袖がよく似合い、その美しさには客席からため息が。大膳が父の仇と知り、嘆き悲しみつつも、けして屈しないと力強く決意する場面や、縄に縛られながらも大膳に引き裂かれた夫・直信(尾上菊之助)を必死に見つめてあふれる想いを表すシーンなど、観る者をグイグイと引き込んでゆく。桜の花びらを爪先でかき集め、ついに奇跡を起こす“爪先鼠”の場面では、観客から思わず拍手が沸き起こった。
昼の部は他に、松本幸四郎が緩急自在に魅せる『土蜘』や、加藤清正(松本白鸚)と豊臣秀頼(市川染五郎)のやりとりが、実際に祖父と孫である演者の関係性を思わせて味わい深い『二條城の清正』。夜の部は、中村又五郎、歌昇、種之助親子の『車引』、菊之助と丑之助が親子で初めて挑む『連獅子』。
幸四郎と中村雀右衛門の世話物で泣かせる『一本刀土俵入』まで、見応え充分の九月となった。
取材・文:藤野さくら