読者のみなさんは、実際のフランスの首都パリはともかく、そんな隠喩的な意味での「パリ」に、行ったことがあるでしょうか。私はこの小説を読んだとき、まだ海外に行ったことがなくて、それがちょっとコンプレックスだった10代後半の頃を思い出しました。日本以外の世界を見てみたくて、初めての海外旅行へと1人で旅立ったのは20歳のとき。旅先の台湾で地下鉄に揺られながら、「1人で海外なんて絶対に無理だと思ってたのに、こんなに簡単に行けるんだ」と、何だか拍子抜けしてしまったことを覚えています。
パリもそうだったし、ロンドンもそうだったし、ニューヨークもそうでした。行く前は遥か遠くの幻想都市のように思っていたのに、行ってしまったらすぐだった。海外旅行はあくまでたとえ話ですが、そんなふうに憧れの場所を現実に訪れることをくり返していると、「本当に、実際に、行けるんだ!」という、手応えのようなものが掴めてきます。私にもまだまだ隠喩的な意味での「パリ」が心のなかにいくつかありますが、具体的な計画に落とし込んでしまえば、案外簡単にそこに行けるということを、肌で理解しているつもりです。
逆にいうと、だからこそ自分に言い訳が効かないんですけどね。