未練や後悔のない人生はあり得る?『うせもの宿』が問う人の生き方
私たちは未練や後悔を残さずに生きられるか
(c)Валентина Павлова
宿に来る客は、マツウラという男性に導かれてやってきます。彼が何者なのか語られることはなく、謎のひとつです。宿の女将は、10代の少女です。宿の従業員は全員、うせものが見つからずそのまま居着いている人ですが、女将には過去の記憶がありません。彼女が何者なのか、何を探しているのかも、もうひとつの謎です。
最終巻では、宿に来る前の女将の半生が語られます。彼女がなぜ「うせもの宿」にいるのか、なぜ記憶をなくしてしまったのかが、わかるんです。
「うせもの宿」に来る客たちは全員、亡くなってしまった人たち。
焦り、嫉妬、執着、憧憬、矜持、欲望、恋……そういったものがあると、うせもの宿に来ることになるそうです。
全体に漂うムードは重く切ない物語ですが、ある意味幸せな設定です。亡くなってしまったら、言えなかった思いを伝えることはできません。誤解があっても解くことはできません。やりたかったことがあっても、もうできません。人が「死後の世界がある」と信じているのは(あるかもしれないけど)、亡くなってしまった人への後悔や思慕があるからでしょう。