2023年10月26日 17:00
「ヨーヨー・マ&キャサリン・ストット デュオリサイタル2023」名古屋公演レポート
と絶望に近い悲劇性の同居がすでに存在している。ヨーヨーが若い作曲家の才気を漏れなく引き出すうち、キャサリンのピアノはどんどんテンションを上げ、ヴィルトゥオーゾ(名手)の面目を躍如とさせる。2人の息はぴったり。諧謔がだんだん狂気を帯び、絶望に近づく瞬間も自然の摂理に身を委ね、生きる力を再発見する。
人生の素晴らしさに目を向け、力強い響きで今度は不屈の「蝶」を舞い上がらせた。
後半冒頭ではキャサリンが英語で、アルヴォ・ペルト「鏡の中の鏡」について説明した。「1978年に旧ソ連時代の母国エストニアを離れる際に書いた曲です。それまでの作風を一変させたメディテーション(瞑想)。
人生すべてのものは不要で、ただ単純さだけが存在します」。ピアノが和音を奏で、チェロが延々と素朴な旋律を歌う反復を通じ、美しくゆったりした時間が過ぎゆく中、世界に向けた2人の強いメッセージを感じた。
セザール・フランクの「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」チェロ編曲版にも、ペルトからシームレスで入った。フランクが名ヴァイオリニストで作曲家の友人、ウジェーヌ・イザイの結婚祝いに書いた名曲だから幸せな気分に満ち、時に男女の性愛を思わせる官能性も漂わせる名曲中の名曲だが、ヨーヨーとキャサリンは熱に溺れず、早めのテンポでしっとりと語り合う。