シェアしたくなる法律相談所がお届けする新着記事一覧 (18/28)
*画像はイメージです:話題の新SNSマストドン(Mastodon)、あなたはもう使い始めてますか?この4月からユーザー数が急増中で、ポストTwitterとも目されているそうです。スマホの普及やサービスの充実によって多くの人が様々なSNS活用するようになった現在、中には「こんな変な人がいた!」と街中などで見つけた他人の写真をアップする晒し行為も見受けられます。このような行為は、法的に問題ないのでしょうか?パロス法律事務所の櫻町直樹弁護士に質問しました。 ■無断撮影やネットにアップは肖像権侵害の可能性あり電車内など公共の場で目立っている人の写真や動画を撮影し、SNSやYouTubeにアップする行為は、何か罪に当たりますか? 該当する罪があればその法律の内容や成立要件などを教えてください。「まず前提として、撮影行為自体が犯罪となる場合があります。例えば、東京都の『公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例』では、『(略)公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影(略)』すること(いわゆる「盗撮」)が禁止(条例5条1項2号)されており、違反した場合は『1年以下の懲役または100万円以下の罰金』に処せられる(条例8条2項)ことがあります。そうした『盗撮』にあたるものではなく、例えば、電車内でお酒を飲んでいる人を撮影するといった行為は、犯罪にはあたりません」(櫻町弁護士)盗撮という罪は、下着姿や裸でなければ成立しないのですね。ということは、ちゃんと服を着ている人なら他人を勝手に撮影してもOKということでしょうか?「いいえ。人には『みだりに自己の容ぼう等を撮影され、これを公表されない人格的利益』(最高裁平成17年11月10日判決)がありますので、対象者に無断で撮影をした場合には、『肖像権侵害』として違法とされることがあります。そして、撮影が違法な場合には、画像等をSNSにアップロードする行為も違法となります」(櫻町弁護士)無断撮影自体を禁止する法律はありませんが、無断撮影は肖像権の侵害にあたるのです。なお、撮影について承諾を得ていた場合でも、SNSへのアップロードはまた別。撮影は許可されていてもアップロードが許可されていなければ、肖像権侵害とされる可能性があるそうです。 ■晒されたら損害賠償請求できる!晒された人はこの行為に対し、訴えたり損害賠償請求したりできますか?その際に必要な手続きや、すべきことなどを教えてください。「無断撮影及びSNSへのアップロード(=不特定多数への公表)について、撮影・アップロードをした人物に対して肖像権侵害を理由とする損害賠償請求や、画像等の削除請求をすることができます。また、画像等の削除については、画像等がアップロードされている媒体のサービス管理者(コンテンツプロバイダ)に対しても請求することができます。なお、撮影・アップロードした人物が誰か分からない場合は、まずはその人物を特定する必要があります。手続としては、コンテンツプロバイダに対しIPアドレス等の開示を請求し、IPアドレスが開示された場合には、そのIPアドレスを管理しているプロバイダ(インターネット接続事業者)に対し、当該IPアドレスを使用して画像等をアップロードした人物の氏名・住所等の開示を請求します。そして、氏名・住所等が開示された場合には、その者に対して損害賠償や削除を請求する、という流れになります」(櫻町弁護士)知らないうちに撮影され見世物にされるのは不愉快なものですし、それがもとになって生活や仕事に悪い影響がもたらされることも考えられます。自分がおもしろいと感じたものを不特定多数と共有することもインターネットやSNSの楽しみのひとつではありますが、誰にでも肖像権があり安心して暮らす権利があることを忘れず、節度を持って活用していきたいものです。 *取材協力弁護士:櫻町直樹(パロス法律事務所。弁護士として仕事をしていく上でのモットーとしているのは、英国の経済学者アルフレッド・マーシャルが語った、「冷静な思考力(頭脳)を持ち、しかし温かい心を兼ね備えて(cool heads but warm hearts)」です。ブログ「ネットイージス.com」)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月30日*画像はイメージです:月に、大阪府警天王寺署は、某有名企業の偽名刺を見せて「荷物を積んだクルマを別の社員が乗っていって帰れない、あとで返すので交通費を貸してもらえないか」と見ず知らずの他人から金をだまし取っていた40歳の男を詐欺容疑で逮捕しました。同様の被害は警察や同社に寄せられただけでも20件、190万円にのぼるということです。これ以外にも西日本を中心に60件以上被害があるとみられ、男は指名手配されていました。この男のように偽名刺を作成し、金をだまし取ると、刑法上はどうなるのでしょうか?男は詐欺の容疑で指名手配されていました。桜丘法律事務所の大窪和久弁護士にお話を伺います。 ■偽名刺で相手を騙して財産を処分させれば詐欺罪!「その場合はやはり詐欺罪に問われます。詐欺罪が成立するためには、相手を騙して財産を処分させたと言えることが必要ですが、“信用ある会社の社員からの申し出で交通費を貸す”ということが事実でなければ、言われた方もお金を見ず知らずの人間に渡すということは通常ないでしょうから、偽名刺で社員を名乗り交通費名目に金を受け取ろうとすることは、相手を騙して財産を処分させる行為にあたることになります」男が社員であることを偽名刺で偽った企業は、今は世界中で知られるブランドです。国内ならどこでも知らない人はいないでしょう。その知名度とブランドイメージを、この男は利用し、さらに傷をつけたわけで、同社が損害賠償を請求することもあり得るのでしょうか?「会社の偽名刺を犯罪に使われ、それが大きく報道されたということで会社の信用が毀損したということはあると思います。 ただ実際に損害賠償をするにあたり、信用棄損をどう損害額として評価するかは難しいところがあるかもしれません」確かに損害が大幅な株価下落などを招いていたなど明確な事実や、逮捕前にネットで噂が広がり不買につながる風評被害があったかなど、検証は難しそうです。男は無事に逮捕され、社員でなかったことがはっきりしたことで、社の信用は揺るぐことがなく収束したとも言えるでしょう。 ■偽名刺で合コンでモテようとしたら罪になるのか?では、ここで、視点を変えて、偽名刺を別の目的に使った場合はどうなるのかについて考えてみましょう。たとえば、合コンに偽名刺を持っていき、ブランド名を利用してモテようという最も浅はかなケースです。「偽名刺を合コンで配ることは、相手を騙して財産を処分させるための行為とは言えないため、これだけでは詐欺罪には該当しません。名刺は作成者の意思・観念を表示しているものではないため、私文書偽造罪の文書にあたらず、私文書偽造罪にも該当しません」私文書偽造にも該当しないのは意外ですが、だからといって調子に乗って偽名刺で身分を偽るのはモラルに反する行為です。「偽名刺を使うことは仮に罪に問われない場合でも、なりすまされた相手から信用や名誉を棄損されたとして損害賠償責任を問われるリスクはあります。当然のことながらお勧めすることはできません」 大窪弁護士の忠告をキモに命じて、悪用せず、素の自分で勝負してください。 *取材協力弁護士:大窪和久(桜丘法律事務所所属。2003年に弁護士登録を行い、桜丘法律事務所で研鑽をした後、11年間、いわゆる弁護士過疎地域とよばれる場所で仕事を継続。地方では特に離婚、婚約破棄、不倫等の案件を多く取り扱ってきた。これまでの経験を活かし、スムーズで有利な解決を目指す。)*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。Twitterアカウントはこちら)【画像】イメージです*kuro / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月29日先日、居酒屋を営む男性がTwitter上で「予約のあった29名の団体客に連絡がないままキャンセルされた」と被害を訴える事案が発生。店は29人入るといっぱいになるようで、事実上貸し切り状態。料理も人数分用意し、準備万端で到着を待っていましたが、時間になっても客は来ず。連絡先に電話をしても出ないそうで、「バックレ」られたそうです。Twitterで来店を呼びかけたところ、同情した常連やネットユーザーが多数来店。料理を無駄にすることなく、なんとか赤字は回避することができたようです。このケースはネットでの訴えにより様々な人々が協力したため、難を逃れたようですが、居酒屋などではこのような団体客予約客による「バックレ」が頻発しています。店側としては、このような行為については厳しく接したいところ。損害賠償を請求することはできないのでしょうか?Q.予約を「バックレ」た団体客に損害賠償を請求することはできる?*画像はイメージです:予約が確定している場合はそこで契約が成立していますので、賠償は可能であると思われます。団体客が予約を入れ、店との間で開始時間とスペースの確保を合意した時点で契約が成立しています。そのような状況で時間になっても姿を現すことなく、店側に損害が発生した場合は、「契約不履行」ですから、当然ながら損害賠償を請求することは可能であると思われます。しかし、今回のケースのように団体客側との連絡手段が途絶えてしまえば、賠償を請求することは事実上不可能です。予約時に電話番号だけではなく、住所などを聞いておいたほうが良いでしょう。もちろん、それも全てウソである可能性も否定しきれません。店側としては、団体客の予約については身分証明書の提示させたうえ、事前にキャンセル料や損害賠償請求の可能性があることを取り決めるなどして、自己防衛しておく必要があります。悲しいことではありますが、人を簡単に信用せず、常に不測の事態を想定した行動が求められます。それが、店を守ることになります。 *記事監修弁護士:冨本和男(法律事務所あすか。企業法務、債務整理、刑事弁護を主に扱っている。親身かつ熱意にあふれた刑事弁護活動がモットー。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月28日*画像はイメージです:ロックバンド「ONE OK ROCK」が4月8日に幕張メッセで開催したコンサートで、熱中症や過呼吸などの体調不良を起こす観客が続出したそうです。50人以上が症状を訴え、21人が病院に搬送されました。このように、コンサート会場で熱中症や怪我などの事故があった場合、観客は治療費などを支払ってもらうことはできるのでしょうか?あすみ法律事務所の高野倉勇樹弁護士にお伺いしました。 ■主催者には観客の安全確保義務がある「“事故が起きる可能性を予測できたのに、対策しなかった”という場合には、請求できます。コンサートの主催者は、観客との間で、コンサートを提供することを内容とする契約を結びます(=チケット購入)。この契約には、契約条項として明示されていなくても、観客の安全を確保する義務が付随します。“事故が起きる可能性を予測できた”場合において、“対策しようと思えばできたのに、対策しなかった(=過失がある)”というときは、この義務に違反したということで、損害賠償責任が発生します。ただし、以下のふたつの問題があります。(1)どのような場合に「事故が起きる可能性を予測できた」と言えるのか。(2)対策はとれたのか(対策できるような事故だったのか)例えば、“野外や熱のこもりやすい構造の建物内での開催”“気象庁から「高温注意情報」が発表されていた”“熱中症を発症しても非難できないほど観客が多かった”などの場合は、熱中症を発症する可能性を予測できます。また、“救護活動の準備をしていない”“飲み物や避難場所を確保していない”“熱中症注意のアナウンスをしていない”などがあれば、とれるはずの対策をとっていないと言えるでしょう」(高野倉弁護士) ■治療費や休業補償など請求できる?コンサートで熱中症や怪我などを負った場合、治療費を始め、タクシー代や休業補償、慰謝料などを請求できますか?「可能です。ただし、“熱中症になったから、その出費=損害が発生した”といえるだけの因果関係がなければなりません。熱中症になって、タクシーで病院まで行ったという場合には、タクシー代は認められると思われます。どうしても具合が悪く、タクシーで帰宅せざるを得なかったという場合も、認められやすいと思います。休業損害は、それによって本当に損害が発生している必要があります。給与所得者は休んでもお給料が出るので難しいかもしれませんが、個人事業主であれば、比較的認められやすいと思われます。また、入院するなど重症化した場合には、慰謝料も認められると思います。ただし、金額はさして高くありません。死亡した場合には、1,000万円単位での慰謝料もあり得ると思います」(高野倉弁護士)主催者の過失によって被った損害には、費用を請求する権利があります。ただし、損害額を立証するためには、診断書や領収書などの資料が必要です。また、休業損害を請求するのであれば確定申告書などから1日あたりの利益を計算して損害額を算出します。 ■覚えておきたい!損害賠償請求の条件コンサートだけでなく、その他のイベント会場、公共施設、飲食店などで過剰な混雑や運営者の不手際などにより被害を被った場合も、費用などを請求することは可能ですか?「可能です。場所毎に、事故が発生する可能性を予測できたかどうかや対策の内容は異なりますが、予測すべきを予測せず、対策すべきを対策しなければ責任が認められるという基本的な考え方は変わりません。例えば、サッカー場で落雷の可能性があるのに試合を続行させ、落雷事故が発生した場合について、運営者の責任を認めた裁判例があります。また、明石市の花火大会で、歩道橋を渡っていた人たちに死傷者が出た事故でも賠償責任が認められています。見物客の誘導計画について、他の計画を丸写ししたいい加減なもので済ませ、事故発生にも気が付かないといった杜撰な運営をした事例です。運営会社、明石市、警察がそれぞれ賠償責任を負いました」(高野倉弁護士)どんなイベントでも、開催する者には安全に運営する義務があります。そもそも責任があるのか無いのか(事故を予測できたのか、対策はとれたのか)という点を見極めるのは少し難しいところですが、万が一事故などあった場合には損害賠償を請求できる可能性があることを知っておきたいものです。 *取材協力弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。)【画像】イメージです*graphicalicious / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月27日世界的な普及を見せているスマートフォン。総務省が発表した平成28年度「主な情報通信機器の普及状況(世帯)」によると、同年のスマホ普及率は7割を超えていることがわかっています。考えてみれば、手のひらサイズの端末にパソコンとほぼ変わらぬ機能が搭載され、あらゆる情報が簡単に引き出せるわけですから、人々が夢中になるのも無理はありません。そんなスマートフォンの唯一の泣きどころが、電池消費量の早さ。長く使えば使うほどバッテリーが消耗するため、長年使っている端末であれば、あっという間に電池が切れてしまいます。そのため、新幹線やカフェなどで、スマホを充電している様子をよく目にします。コンセントの管理者が使用を許可していれば問題ないのですが、店が許可していないと思われるそれで充電している様子を見かけることもあります。そのような行為は違法ではないのでしょうか?Q.許可されていないコンセントでスマホを充電する行為は違法?*画像はイメージです:違法です。窃盗罪になる可能性があります。刑法245条に、「電気は財物としてみなす」と明記されています。したがって、許可なくスマートフォンを充電することは、物品や金銭を盗むことと同じ扱いとなり、窃盗罪が適用されます。“充電する側”にとっては、「大した電力ではないし、いいじゃないか」と思うかもしれません。しかし、コンセントの管理者にしてみれば、勝手に充電されることで電気料金を請求されますし、その光景を目にした人が次々に充電すれば、莫大な金額になってしまいます。ですから、無断充電を目撃した管理者が、“窃盗”として電気を盗んだ者を訴える可能性は十分に考えられます。軽い気持ちで勝手にコンセントに充電器を差し込むと、あとで後悔することになります。仮にどうしても充電したい場合は、店員に「このコンセントで充電しても良いですか?」と尋ねるようにしましょう。そして、断られた場合は、充電を諦めてください。電池切れが頻繁に発生する場合は、バッテリーの交換やモバイルバッテリーを購入し、持ち歩くようにしましょう。 *取材協力弁護士:河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活6年目を迎える。敷居の低い気軽に相談できる弁護士を目指している。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*HiroS_photo / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月26日*画像はイメージです:月を迎え、新入社員や大学入学等の歓迎会が各地で開かれていることかと思います。そんな中、毎年のように目にするのが、急性アルコール中毒による事故のニュースです。ひどいものでは、死亡に至るケースもあり、社会問題となっています。本日は、飲酒につきまとう法律問題についてお話しします。 ■飲酒を強要するとどんな罪になる?もし、脅して飲酒を強要するようなことがあれば、強要罪(刑法223条)が成立する余地があります。また、酔い潰す(急性アルコール中毒などを引き起こす目的で)お酒を飲ませた場合に傷害罪(刑法204条)、さらにその上死亡してしまうと傷害致死罪(刑法205条)が成立する可能性があります。さらに、酔い潰れた人を放置して立ち去った場合には、保護責任者遺棄罪(刑法218条)、その人がそのまま亡くなってしまえば保護責任者遺棄致死罪(刑法219条)が成立する余地があります。このように、飲酒の強要等から派生して様々な犯罪が成立することがあり得ます。 ■飲酒を強要した結果死亡した場合の法律問題例えば新歓コンパ等で新入生にイッキ飲みを強要した結果、急性アルコール中毒となり死亡したケースで考えてみます。この場合、上記のとおり、刑法上傷害致死罪(3年以上の有期懲役)が成立し逮捕される可能性があります。また、民事上も損害賠償請求の対象となります。就業前の学生が亡くなった場合、将来得られるべき逸失利益が非常に大きくなる可能性が高く、高額な損害賠償義務が生じえます。 ■未成年が自主的に飲酒した場合の罰則についてここまでは、飲酒を強要した場合についてお話ししてまいりましたが、新入生などの未成年者が自ら積極的に飲酒をした場合はどうでしょうか。まず、その結果何が起きても、これまでお話ししたような第三者に何らかの責任が発生する可能性は低くなります。自ら飲酒をした未成年者は罰せられるのかと言われると、そういうことも無いといえます。「未成年者飲酒禁止法」という法律はありますが、未成年者を罰する規定はありません。これは、未成年者の飲酒を知りながら止めなかった親権者らやお酒を提供したお店などが罰せられる法律です。 ■最後に楽しいはずの飲み会が、飲酒の強要等により急性アルコール中毒などの事故、事件により一転トラブルに発展します。死亡者が出る可能性もあるということを十分に自覚して、楽しい集まりになるようにしてください。そんな筆者は全くお酒が飲めない下戸です。大学に入りたての時は、「飲まないとしらけられる」という空気が非常に気になりました。お酒を飲める人は、全くお酒が飲めない人もいるということをご理解いただき、無理な飲酒の強要やそれに至らなくても飲めない人にとって気兼ねがしない雰囲気づくりを心掛けるようにしていただきたいものです。 *著者:弁護士 河野晃 (水田法律事務所。兵庫県姫路市にて活動をしており、弁護士生活7年目を迎える。敷居が低く気軽に相談できる弁護士を目指している。)【画像】イメージです*jazzman / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月25日*画像はイメージです:インターネット上の掲示板サイトで、「旦那がゲームに1,200万円の課金していることを許せるか」という内容のスレッドが立てられ注目を浴びていました。このスレッドでは、母親の生命保険金800万円、他の口座の預金400万円の合計1,200万円を夫がスマホゲームに課金していたことが明らかになったため、離婚すべきか許すべきかをある女性が相談していました。「べき論」で言えばどうしたほうがよいかは明らかだとは思いますが、はたして夫が離婚を拒んだときでも離婚することが可能か、また、夫からお金を返してもらうことができるのかについて、一般論を交えて解説したいと思います。 ■離婚事由として認められるためには行動が必要今回のケースを一般化すると、「配偶者による多額の借金や使い込みを理由とする裁判離婚が可能か」という問題です。そして、これに対する一般的な回答としては、配偶者による多額の借金や使い込みの一事のみでは、裁判離婚が認められない可能性が相当程度あるということになります。ご存じの方も多いように、民法は離婚について破綻主義を採っており、婚姻を継続し難い重大な事由により夫婦生活が破綻したと認められる場合にのみ裁判離婚を認めています。ですので、多額の借金や使い込みが発覚しても同居を継続し、かつ、満足に食事もできないほどに困窮していないのであれば、裁判所はいまなお夫婦生活が破綻していないと判断してしまうことがあります。したがって、夫を許すことができず離婚したいという決断をしたならば、早急に別居をすることを勧めます(ただし、下記お金の返還との兼ね合いで別居時期を選択したほうがよいでしょう)。 ■夫に対するお金の返還請求の可否今回のケースで使い込まれた金銭の返還請求の可否については、生命保険金800万円(妻の特有財産)と他の口座の預金400万円(夫婦共有財産)とで扱いが異なります。まず、生命保険金800万円については妻単独の財産ですから、離婚と一体的に解決せずとも単独で800万円の返還請求訴訟を提起することができます。他方、他の口座の預金400万円については夫婦の共有財産ですから、離婚に伴う財産分与の際に考慮されることになります。すなわち、この400万円だけについていえば、200万円は妻に分与されるべき財産ですから、夫から200万円を分与してもらう(≒200万円の返還を受ける)という処理になります。理屈としては上記のとおりなのですが、1,200万円を費消してしまった夫にはおそらく返済する資力がないと思います。不動産がある場合には不動産の売却または不動産を担保とした借入れにより金銭の回収を図ることが考えられるのですが、夫が任意に協力しない場合や、不動産等のめぼしい資産がない場合には、督促方法・態様によってはかえって回収や離婚そのものができなくなる可能性が出てきます。個々の細かいケースについては弁護士に相談してください。 金額の小さいものは別として、配偶者に家計の使途などの収支を明らかにしないことは、離婚時に夫婦間でもめる原因のベスト3に入ってきます。配偶者を信頼していても、定期的に収支の開示を求めたり、配偶者の預金状況を(こっそり)確かめたりするほうがよいですね。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】イメージです*sasaki106 / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月24日*画像はイメージです:このところ国会で森友学園問題の証人喚問や、都議会では百条委員会での官僚、石原元都知事の証言で連発された「記憶にございません」。これほど質問者を、また国民がイラつかせるセリフはありません。思わずTVに向かって「うそつけーー!覚えてないわけ無いだろう、覚えていないということ自体が嘘だ!偽証罪だ!」とツッコんだ方も多いはず。これは今に始まったことではありません。日本でこのセリフが有名になったのは田中角栄元首相に米ロッキード社が自社の航空機を導入してくれるよう賄賂を送った「ロッキード事件」。1976年、予算委員会の証人喚問に召喚された国際興業の小佐野賢治氏が連発、その年の流行語大賞になりました。事件は大物フィクサーや大手商社が絡み、さらには戦後から続くアメリカ側の意図も見え隠れする魑魅魍魎の世界。2017年は久しぶりに注目の事件で「記憶にございません」が連発されましたが、やはり魑魅魍魎としかいいようがない登場人物・組織が絡んでいます。 ■絶対おぼえているはずなのに、記憶にないなんて嘘じゃないの?そう昔のことでもあるまいし、そう簡単に忘れてしまうようなことではないはずなのに、「記憶にございません」という発言自体が偽証罪に問えないのでしょうか?星野法律事務所の星野宏明弁護士に伺ってみると……。「偽証罪は、法律により宣誓した証人が“虚偽の陳述”をしたときに罰せられる罪です(刑法169条)。ここでいう“虚偽の陳述”とは、証人の主観的記憶を基準として自らの体験と異なる内容を陳述することを意味します。要するに、証人が主観的に記憶している事実と異なる事実を証言することが偽証罪とされます」(星野弁護士)主観的記憶、つまり証人本人の記憶を基準とするというわけですね。それなら、本当は覚えているはずなのに覚えていないというのは嘘になるのでは?「『記憶にございません』という供述は、自己の記憶に反する虚偽の事実を証言するものではないため、虚偽の陳述という偽証罪の要件をみたしません。本当は記憶があるのに、“記憶がない”と嘘をつくこと自体は偽証罪によって罰せられていないためです。偽証罪が成立するにはあくまで、“記憶に反して、虚偽の事実の陳述をする”必要があります。記憶にないと嘘をつくこと自体は、直接偽証罪で処罰対象とされていないのです」(星野弁護士)そ、そんな……!法律の抜け穴を突いたよくできたセリフだなんて!! ■それならウソ発見器で白黒ハッキリつけてはどうでしょう!?では、証人喚問中にウソ発見器や精神科医による分析で白黒をハッキリさせることをしないのは何故なのでしょう?そのほうがスッキリしそうですが。「そもそも記憶にないと嘘をつくこと自体は、直接偽証罪で処罰対象とされません。また、裁判や証人喚問、刑事の取り調べで、本人の意思に反してうそ発見器を使用することは、違法な捜査となるおそれがあります。他方、偽証罪で処罰できる場合も、主観的に記憶した事項として供述した事実が虚偽であったことが立証されればいいので、精神鑑定やうそ発見器は不要です」(星野弁護士)ちなみに、後から思い出したり、記者会見や手記、取材などで「思い出しました」と話し出しても偽証罪の対象にはならないそうです。 ■証人喚問でなく、一般の弁護ではどうなのでしょうか?星野弁護士に、一般の弁護でこの「記憶にございません」に悩まされるケースがあるかも訊いてみました。「悩まされたことはありません。そもそも『記憶にありません』では偽証罪に問われませんが、虚偽陳述を偽証罪に問わなくても、証言内容が虚偽であることが他の証拠で立証できれば、裁判に影響はないからです。裁判の証人尋問での不自然な沈黙や『記憶にありません』との供述はそれ自体証人の証言の証明力を疑わせ、裁判所がそれを考慮して判決を出すので、わざわざ偽証罪の問題を持ち出すことの実益は基本的にありません。むしろ裁判の証人尋問では、相手方の主張内容を固める虚偽の証言をされるくらいなら、『記憶にない』『はっきり覚えていない』と証言してもらった方がよい場合もあります」(星野弁護士) なるほど、証人喚問では次々と有罪を示すような証拠や行動記録、証人が出てくるわけではありません。そして裁判長がその場で有罪を示す裁判とも異なります。法廷とはまた別の場であるということですね。悪質な場合、事件性が高ければ、「記憶にありません」で弁明できない場に舞台が移ることでしょう。 *取材対応弁護士:星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)【画像】イメージです*freehandz / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月23日*画像はイメージです:月5日、兵庫県西宮市に住む86歳の女性が、近所に住む61歳の女性会社員に対し、「嘘つきババア」などと繰り返し叫んだとして、県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕されたことが判明。警察発表によると、今年1月から2月中旬まで被害者の女性に対し「嘘つきババア」、「謝れ」などと罵声を浴びせ続けたといいます。動機については、7年前に被害女性が自治会長時代にごみ収集場所を自宅前に移設したからだそう。相談を受けた警察が加害女性に何度も注意したものの、罵声を浴びせ続けたため、逮捕に踏み切ったということです。このように「悪口」を言い続けて逮捕されることは、かなり異例といえます。なかには「自分も人の悪口をよく言ってるし、逮捕されてしまいそう……」などと不安になっている人もいるかもしれません。どこまでが許容範囲で、どこからが法に触れるのでしょうか? ■悪口はどこまでいくと法に触れる?今回の事件の場合は兵庫県迷惑防止条例に「著しく粗野又は乱暴な言動をすること」を禁止しており、これに反しているための逮捕ということになります。「悪口」ということになると、「名誉毀損罪」を連想することでしょう。名誉毀損は、社会的評価の低下をもたらすものであれば成立するとされています。しかし、相手を貶めるような言葉を浴びせ続けた場合といっても、本人が気分を害することはあっても、必ずしも社会的評価の低下まであるわけではありません。程度問題ではあるものの、名誉毀損罪とはならないことも多いことでしょう。侮辱罪という罪もあり、これに当たるのではないかと考える方もいるでしょう。しかし、侮辱罪の保護法益も人の外部的名誉であると考えるのが一般的であり、つまり、社会的評価の低下がある場合に成立し、感情を害したから成立するというものではありません。この点は、一般の方のみならず警察官も含めて誤解している場合が多いと感じます。 そうすると、名誉毀損と侮辱はどこで区別するかですが、事実摘示の有無によって区別することになります。たとえば、・「Aさんは女性の胸を揉んでいた」・「Aさんはいやらしい」という例を挙げるとすれば、前者は「女性の胸を揉む」という事実があるのに対して、後者にはそれがない、という形で考えます。そのため、前者であれば名誉毀損、後者であれば侮辱により検討するということになります。 このように、一言で「悪口」といっても、その行為の性質や程度によって、適用できる法律が異なり、また、民事上の問題と刑事上の問題という点でも考え方が異なります。仮に自分の悪口を言われていて困っていると感じ、名誉毀損での提訴を考えている場合は、弁護士に相談したほうがいいかもしれませんね。 *記事監修弁護士:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*hirokoji / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月22日*画像はイメージです:最近はスマホで楽々出品・購入できるフリマ系アプリが大人気です。TVCMも盛んに流れていて、実際に利用すると即座に高値で売れていくとか。クロネコヤマトのキャパオーバーが問題になっているネット通販大手のAmazonでも、本やCD、DVDなどをマーケットプレイスで売ることができます。そんなネットオークションやフリマ系アプリ、また、中古売買店もそこら中にある環境で、離婚した夫が養育費を払わず、子どもの教育費に困窮した元妻が元夫の置いていった私物を勝手に売ってしまったらどうなるのでしょう? ■勝手な財産処分は窃盗罪や横領罪に問われる場合も!離婚問題に詳しい高島総合法律事務所の理崎智英弁護士によると、有罪になる場合があるとのことです。「元夫が家を出て行く際に置いていった物であっても、元夫がその物の所有権を放棄しない限りは依然として元夫の所有物なので、元妻は勝手に処分することは許されません。そのため、元妻が元夫のものを勝手に売って換金する行為は、形式上は窃盗罪あるいは横領罪に該当します」ということは、元夫が元妻を訴えたら?「元夫は、自分の所有物を元妻に売られたことによってその物の価値相当額の損害を被ったことになります。なので当該損害の賠償を求めて元妻を訴えれば、元夫が勝訴する可能性は高いでしょう」 ■置いていった物の所有権を放棄させることが必要通常、離婚時には共有財産、私物など家の中にある物をしっかり分け合いますが、家出同然に夫が出ていったまま、別居状態を経て離婚した場合など、荷物放置の場合もありえます。そんな場合は置いていったままの元夫が悪い気がします。「元夫が出て行ってから長期間が経過していて、その間に元夫から元夫の所有物を送ってこいとか何も言われていないような場合には、元夫が出て行く際に置いていった物について、元夫はその所有権をすでに放棄していると評価できますので、元妻が処分して換金したとしても罪に問われる可能性は低いでしょう。元夫としては、必要のないものだから家に置いていったのでしょうから(価値のあるものであれば出て行く際に持っていくはずです)、仮に元夫の承諾を得ずに元妻が元夫の物を処分してしまったとしても、あとで元夫から文句を言われる可能性は低いと思います」これは立場が逆転しても同じことです。荷物に関してはメールやLINEでもいいですから、相手に「置いていった荷物はそちらでどう処分してもかまわない」などのメッセージを送ってもらえば最小限、証拠になります。その場合は大手を振って売りさばきましょう! ■養育費の不払いは許されない!とはいえ、この先も養育費を払ってもらえないのは困りますね。元夫の給料や財産を差し押さえられないものでしょうか?「元夫が養育費を支払っていない場合であっても、元夫の財産を勝手に処分して養育費の支払いに充てることは許されません。元夫に連絡を取って所有権を放棄させ、売っていいことを認めさせる必要があります。養育費を回収するためには、裁判上の手続き(養育費の支払いを求める裁判、強制執行等)をとる必要があります」なるほど、養育費の回収には然るべき手続きが必要なのは理解できます。この場合は離婚と同じく家庭裁判所ですね。「養育費の支払いは親としての義務なので、養育費を支払えないほどの生活に困窮している場合であっても、養育費を全く支払わなくても良いということにはなりません。また、一度決まった養育費を勝手に養育費を減額することはできません。養育費の減額を求める時、相手の同意が得られない場合には、家庭裁判所に対して養育費減額の調停や審判を申し立てる必要があります」離婚後に金銭関係で問題があれば、まずは家庭裁判所や弁護士に相談してみることです。 *記事監修弁護士:理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)【画像】イメージです*tomos / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月21日日本の公共交通機関は時間にかなり正確です。とくに電車は秒単位の正確性を誇っており、人身事故や天候不順などがないかぎり、ほぼ遅れることはありません。そんななかで、どうしても時間にブレが出てきてしまうのが、道路状況に左右されてしまう路線バス。渋滞が発生すると動けないため、遅れることも多々あります。これは仕方のないことで、利用者側からすると諦めるしかありません。それでは、遅延の反対、早発はどうでしょうか。『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』では、蛭子能収さんが「運転手さんの心理として最後のバスは帰りたいから早くでちゃうんだよ」と持論を展開していましたが、そのようなことは法的に許されるのでしょうか?Q.バスが定刻より早く発車することは法的に許されていますか?*画像はイメージです:違法です。旅客自動車運送事業運輸規則に早発の禁止が定められています。旅客自動車運送事業運輸規則の第十二条に以下のような条文があります。「一般乗合旅客自動車運送事業者は、第五条第一項第三号及び第二項第三号の規定により営業所及び停留所に掲示した発車時刻又は同条第一項第四号若しくは第五号の規定により営業所に掲示した発車時刻前に、事業用自動車を発車させてはならない」つまり、『ローカル路線バス』内で蛭子さんが言ったように、「早く帰りたいから時間前に出てしまえ」という行為が明るみに出た場合は、法律違反ということになります。最近はドライブレコーダーを搭載したバスが増えているため、利用客から申し出があれば、すぐに発覚することでしょう。バスの早発は、法的に許されないようです。 *当初掲載された画像に誤解を招く内容が含まれていたため、差し替えをいたしました。*取材協力弁護士:小野智彦(銀座ウィザード法律事務所代表。手品、フルート演奏、手相鑑定、カメラ等と多趣味。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*R-DESIGN / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月21日*画像はイメージです:自分の夫(又は妻)が不倫をしていて、それが判明し、自分から夫(又は妻)や不倫相手に対して、「不倫を止めろ」と要求すれば止めるものと思われがちですが、意外と開き直って、その不倫関係を継続する人たちもいます。このような場合、請求される慰謝料の金額が変わるかどうか、気になるという方も多いのではないでしょうか?そこで、今回は、不倫関係が発覚してから、継続した場合、慰謝料は増額するのかという点についてお話ししようと思います。 ■1. 不貞行為を止めるよう要求されたのに不貞行為を継続している場合不倫関係に気づき、「関係を終了し、二度と接触しないように」と求めることはよくあるケースであり、私も内容証明郵便等でこうした点を求めることはよく行っておりますが、こうした忠告を無視して不貞行為を継続している場合には、そうした事情は慰謝料の増額要素となります。こうした点を考慮した裁判例としては、東京地判平成19年2月21日があります。この裁判例は、「被告は、A(配偶者)に原告という夫がいることを知りながら、Aを繰り返し誘って頻繁に密会するなどの交際を続け、肉体関係を持つに至ったのであり、その間、それに気付いた原告から何度も、Aと別れるよう申入れがあったにもかかわらず、被告は、自分からは別れる気がないことを告げ、Aに対して自己を選ぶよう積極的に求め続けたものであって、これにより、原告とAとの夫婦関係は悪化し、原告は食欲不振、睡眠不足等に陥り、精神的、肉体的に疲労した結果、離婚を決意するに至ったものである。……被告は、自らの行為が許されないことを十分に理解しており、原告からも繰り返しAとの交際を止めるよう注意をされていながら、それを全く意に介することなく、なおもAを誘惑して交際を続け、自己を選択するよう求めていたものであって、その行為態様は悪質といわざるを得ない。」と述べ、慰謝料の増額要素として考慮しております。 ■2. 提訴された後も不貞行為を継続している場合原告が、不貞相手に対して慰謝料を請求するため訴訟を提起した後も不貞行為を継続しているという場合もありますが、このような事情も慰謝料の増額要素となります。この点を考慮している裁判例としては、東京地判平成21年7月23日(「被告は、本件訴状の送達後、Aとの交際を絶った旨主張するところ、現実には、Aとの関係を継続している」)、東京地判平成22年5月13日(「交際を解消して自宅に帰った同人方に赴き、不貞行為を再開させ、本件訴訟が提起された後も継続していることからすると、被告の行為は、欲望の赴くまま結果を顧みずにした身勝手な振る舞いであったといわざるを得ず、Aが勤務先の上司であることを考慮しても、強い非難に値する。」)等が挙げられます。 ■3. 約束を破って不貞行為を継続している場合不貞行為が発覚した段階で、不貞相手などに対して、「もう関係を解消します」「二度と会いません」などと約束をさせるケースもあります。こうした約束に違反して、不貞行為を継続する場合には、このような事情も慰謝料の増額要素となります。この点を考慮している裁判例としては、東京地判22年11月30日(「原告とAの婚姻関係がほぼ破綻した状態となっている主たる原因は、被告とAの不貞関係にあること、また、被告は、一旦は話し合い等により、Aとの不貞関係を終了させたにもかかわらず、平成18年4月10日から不貞関係を再開し、現在もこれを継続していることからすると、被告の責任は重いといわざるを得ない。」)、東京地判平成22年12月22日(「被告は、Aと被告とが平成10年春ころから継続的に不貞行為を行っていると原告が主張して慰謝料の支払を求めた前回訴訟において、慰謝料を支払うとともに、原告に対し、不適切な行動をしたことに謝罪の意を表し、さらに、原告やその家族に一切接触しないことを約束しておきながら、漫然と不貞行為を継続したものであって、その違法性の程度は大きなものがある。」)等が挙げられます。 以上から、不貞行為発覚後に忠告・訴訟提起・約束等があったにもかかわらず、それを意に介せず不貞行為を継続する場合には、慰謝料の増額要素になります。その態様は極めて悪質ですから、当然のことといえるでしょう。不倫のケースでは、両者の対応の誠実さ、逆に悪質さなどが重要な要素になってきます。ご自分で話し合いをするケース、弁護士をいれるケース等がありますが、慰謝料の増額を求めるのであれば、対応も含めて、経験豊かな弁護士に相談された方がよりご希望に沿う結果になる可能性が高いと考えます。 *著者:弁護士 伊倉吉宣(伊倉綜合法律事務所。離婚・男女問題をはじめ、労働トラブルや交通事故問題など幅広く取り扱う。)【画像】イメージです*beeboys / Shutterstock
2017年04月20日昨今、重要文化財への「液体染み」事件が相次いでいます。おもなところでは、沖縄県那覇市の重要文化財、「旧崇元寺」、東京都渋谷区の明治神宮の第2鳥居、東京都港区の増上寺などで、油のようなものがかけられたと跡と思われる染みが発見されました。日本にとって重要な建造物を汚すということは、日本の歴史に泥を塗る行為と同じこと。許しがたい犯罪であるだけに早期逮捕が望まれますが、現在のところ犯人は特定されておらず、捜査は難航しているようです。ところで、仮にこの犯人が捕まった場合、どのような罪に問われるかご存じでしょうか?Q.重要文化財や建物を汚した場合、どのような罪に問われる?*画像はイメージです:建物は器物損壊罪、重要文化財は文化財保護法違反に問われます。建物を汚した場合は、刑法261条の器物損壊罪となります。他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。(刑法261条)「損壊」と聞くと、油を撒いて汚す程度では該当しないようにも思えますが、器物損壊における「損壊」とは、物の本来的な効用を害する行為を指しますので、建造物に容易にとれない油染みを生じさせた行為も器物損壊に該当します。また、旧崇元寺のように重要文化財を怪我した場合は罪が重くなります。文化財保護法違反となり、5年以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。ご覧の通り、決して軽い罪ではありません。文化財はもちろん、公共物や私有物などに「落書きくらい良いや」などと考え、実行するのは絶対にやめてください。処罰されるということのみならず、先人たちが培ってきた歴史をも否定するような行為は、あまりに悲しいものです。そして、一連の「油染み」犯人が早期に逮捕されることを願いたいものです。 *記事監修弁護士: 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*kuro / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月19日*画像はイメージです:新年度が始まり、進学・就職のためお子さんが一人暮らしを始めるご家庭も多いと思います。部屋に余裕があれば、子どもが残していった荷物をそのままにしておいて問題ありませんが、そうでない場合は、子どもの荷物でも不要なものは捨てたいと思うところではないでしょうか。実際にインターネット上では、子どもの私物であるカードをネットオークションで売却しようとしていたという例があり、話題になっていました。(参考:『ねとらぼ』)親であれば子どもの荷物を捨てたり、売ったりすることに問題が無いのか、民事上・刑事上の観点から解説してみたいと思います。 ■1.子ども(成人)の所有物を子どもの代理として親が売った場合参考の記事の事例からは離れますが、これが基本形です。親が、子どもから「代理人として物を売って」と依頼され、親が「代理人として売ります」と表示したのであれば、当然、売買は有効です。売主は所有者である子どもです。売買に代理人を使った、というだけです。何も違法なことはありません。この記事の事例では、子どもからの依頼、つまり、代理権の授与がないようです。しかも、親が代理人であることも表示されていません。通常の代理人による売買という理屈では正当化できません。このことを踏まえて、さらに考えていきます。 ■2.未成年の子どもの所有物を子どもの代理として親が売った場合息子さんは、カードを売ることを母親に依頼してはいなかったようですので、参考の記事の事例は、2.のような場合ではないかと思われます。ですが、未成年者の親(親権者)は子どもの財産を管理・処分する広い裁量をもっています(民法824条)。子どもの依頼がなくても自動的に子どもの代理ができる状態です。なので、子どもの依頼がないのに「子どもの代理です」と言って売買をした場合であっても、親は子どもの代理人として売っただけ(売主はあくまで子ども)ということになります。よって、子どもの所有物は、代理人による売買によって買主の所有物になります。違法ではありません。この場合、子どもは(本人の知らない間ではあるものの)売主になるので、売買代金を受け取ることはできます。しかし、売られたものを取り返すことは難しいでしょう。ただ、たとえ代理する権限があっても、「代理です」と表示しなければ、子どもの所有物は子どもの所有物のままです。この記事の場合、商品説明などからも母親は息子さんの“代理”だということは読み取れませんから、「代理です」という表示はないと考えられます。よって、子どもは、買主に対して、買ったものを返すよう請求することができます。ですが、事情を知らない買主としては、知らない事情に基づいて買ったものを取り返されたのではたまりません。そうした買主を保護するため、即時取得というルールが用意されています(民法192条)。即時取得のルールは、「この商品は売主の所有物ではない」ということを知らず、気付くこともできなかったという買主は所有権を取得することができる、というものです。逆に、他人の所有物だと気付くことができるような場合には、所有権は取得できません。先ほどの記事の場合だと、息子さんのカードを勝手に出品したということは出品者の説明から分かります。なので、即時取得は成立しないと思われます。よって、落札者は所有権を取得できず、息子さんは落札者に対してカードの返還を請求できます。なお、即時取得が成立してしまった場合でも、売られたものを取り戻せる可能性はあります。盗難の場合、所有権は元の所有者(子ども)にまだ残っているという理屈で、買主に返還を請求することが可能です。ただし、売買されてから2年以内に請求しなければいけません(民法193条)。また、買主から弁償を請求されたら支払う必要があります(民法194条)。 ■3.成年・未成年を問わず、子どもの所有物を親自身が売主となって売った場合他人の所有物を売るという契約、いわゆる『他人物売買』も、有効な契約です(民法560条)。一見奇妙ですが、『買主を確保した上で仕入れをする』という場合を考えれば、他人物売買も合理的な方法です。とはいえ、当然のことですが、他人物売買の契約が締結されても、所有者には何の影響もありません。息子さんのカードという「他人物」を、母親が勝手に「売ります」と言ったところで、息子さんがカードの所有権を失うことはありません。なので、勝手に売買の対象にされた物が、勝手に買主に引き渡されたとしても、所有者は返還を請求できます。ただし、ここでも即時取得のルールが適用されて、買主が所有権を取得できる可能性があります。即時取得が成立してしまった場合でも取り戻せる可能性があることは既に述べたとおりです。さて、以上は「カードは誰の所有物になるか」という民法上の問題でした。 ■刑法上の問題は?2.及び3.のように、子どもの所有物を勝手に処分した場合であって、代理とも言えないときは、窃盗罪(刑法235条)又は横領罪(刑法252条1項)が成立する可能性があります。しかしながら、家族間の窃盗・横領は刑が免除されます(刑法244条1項、255条)。犯罪だけれども処罰されない、ということです。 冒頭の記事のような事例では、仮に落札されてしまったとしても、カードが手元に戻ってくる可能性はあります。母親が処罰されることもなさそうです。ですが、法律に頼らず、普段から親子のコミュニケーションをとっておくことが、予防策としても、家族の幸せとしても、一番だと思います。 *著者:弁護士 高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)【画像】イメージです*深澤カラス / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月18日カルビーや湖池屋は、台風10号によるジャガイモの収穫不足の影響でポテトチップスの販売を休止・終了することにしました。インターネット上では販売休止・終了を嘆く声が相次ぎ、休売日の前日までに大量購入をしていた人も珍しくなかったようです。自分で食べるために大量購入することは何ら問題ないですが、今回は、もし転売目的でポテチを大量購入し、高額で転売した場合には違法となってしまうのかという疑問にお答えしたいと思います。 ■古物営業法違反やダフ屋行為にはならないか中古品の転売を反復継続的に行う場合は古物商許可が必要になります。もっとも、そもそも新品の商品の場合は「古物」に当たりませんから、上記設例のように転売目的であっても、(1)新品の商品(ポテチ)について、(2)仕入れたポテチの賞味期限が切れる前までの間一回的に行うのであれば、古物商許可は不要です。また、各都道府県の条例ではダフ屋行為を禁止していますが、ダフ屋行為として転売が禁止されているものは乗車券やコンサートチケットなどに限定されていますので、ポテチの転売はダフ屋行為にはなりません。 ■食品衛生法や食品衛生関連条例違反にもならない食品衛生法は全ての食品を対象とした規制を行っていますが、未開封の新品のポテチを転売する場合には食品衛生法上の許可取得及び報告は不要です。また、各都道府県により、販売(転売)のみでも食品衛生関連条例上の許可・届出が必要になる場合がありますが、少なくとも東京都の場合には、未開封の新品のポテチを転売するだけであれば許可・届出は不要です。 ■転売目的購入それ自体の違法性転売目的でお店から大量購入することそれ自体も、お店側が「おひとり様○点まで」と上限を設け、それに反して購入しない限り、購入や店舗への立入りが違法となることはありません。以上のように、転売目的でポテチを大量購入して高額で転売しても、通常は違法となることはありません。もちろん、大量購入者の影響で買えなくなってしまう人が出かねないため、マナー違反ではないかという声もあるでしょうが、震災時等のトイレットペーパーやおむつ、飲料水等の生活必需品を買い占めるケースとは異なりますから、許容範囲だといえるでしょうね。 *著者:弁護士 木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)【画像】イメージです*bee / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月17日*画像はイメージです:ここ数年、日本は空前の猫ブームといわれており、巷には猫の本や猫グッズが溢れています。外を歩いていて猫に出会うとつい近寄りたくなるという猫好きな方も多いのではないでしょうか?外で保護した猫を飼っている方も多くいます。しかし、外で保護して飼い始めた猫が野良猫ではなく本当の飼い主がいる迷い猫だということもありえます。このようなケースでの猫の所有権について、三宅坂総合法律事務所の伊東亜矢子弁護士にお聞きしました。 ■所有権はどちらにある?野良猫を飼い始めて数年後、元の飼い主が現れ「返してほしい」と言われた場合、法的には猫の所有権はどちらにありますか?「法律上、“家畜以外の動物”であれば、飼い始めるときに“他人が飼育していたもの”であると知らず、かつ、その動物が飼い主のもとを離れたときから1カ月以内に飼い主から返してくれと言われなかった場合は、権利を取得することができます(民法195条)。ただし、この“家畜以外の動物”とは“人の支配に服さないで生活するのを通常の状態とする動物”を指すと解されており、猫はこれには当たらないと考えられます」(伊東弁護士)まず、法的には猫は家畜ではありません。法律では「ペット」を定義しておらず、「物」として扱います。このことから、このケースで所有権について根拠となるのは動物に関する法律ではなく、遺失物法ということになります。「猫に限った話ではありませんが、拾った物を遺失物として警察に届け出たが遺失者が分からない。そんな場合には、警察が公告の手続をとり、3カ月以内に所有者が判明しなければ拾得者が所有権を取得できます(民法240条、遺失物法)。この手続をとっていれば、数年後に元の飼い主が現れても、所有権は現飼い主にあるといえます」(伊東弁護士)この手続を取っていなかった場合は、所有権は元飼い主のままと考えることができます。ただし、所有権の時効取得を定めた民法162条にもとづき、現飼い主が所有権を取得できる可能性もあるそうです。しかし、民法162条には「20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有」、「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と、善意無過失で他人の物の占有を開始」などの条件があるため、このケースで考えるとあまり現実的ではありません。実際には、遺失物の手続きをとっていれば所有権は現飼い主、とっていなければ所有権は元飼い主ということになりそうですが、解釈が難しいところです。後の紛争を避けるためには、猫を拾った時点できちんと手続をとっておくのがよいと考えられます。「なお、『拾ってください』と書かれた段ボール箱に入れて置かれていたなど“捨て猫”であることが明らかな場合は、民法239条1項の“所有者のない動産”(所有者が所有権を放棄した)と考えられ、自ら飼おうと思って飼い始めたときに所有権を取得することが可能となります」(伊東弁護士) ■飼うつもりなら必ず警察で手続きを!ところで、もし話し合いなどの結果、猫を元の飼い主に返すことになった場合、世話をしていた期間の餌や病院などの費用を請求することはできますか?「費用の請求は可能と考えられますが、そのためにも、きちんと前述の手続をとり、3カ月間は“現れるかもしれない元の飼い主のために預かっている”という形を明確にしておくことが望ましいと考えられます」(伊東弁護士)元の飼い主に費用を負担してもらうことはできそうですが、共に暮らし愛情を注いだペットとの別れはつらいものです。猫を拾ったらまずはしっかり飼い主を探すこと、そして飼う場合は所定の手続きをとることが大切です。また、飼い猫がいなくなってしまった場合もすみやかに警察や動物愛護センターに連絡しましょう。猫を「物」として扱うのは違和感があるかもしれませんが、法律的には、財布を落としたり拾ったりした場合に警察に届けるのと同じことなのです。 *取材協力弁護士:伊東亜矢子(三宅坂総合法律事務所所属。 医療機関からの相談や、 人事労務問題を中心とした企業からの相談、離婚・ 男女間のトラブルに関する相談、 子どもの人権にかかわる相談を中心に扱う。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。【画像】イメージです*Malcon / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月15日*画像はイメージです:昨年、自己破産の申し立て件数が13年ぶりに増加したそうです。手軽な銀行カードローンの普及の影響ではないかとも言われています。それだけお金を借りるのが簡単になっているのだと言えそうです。カードローンや消費者金融などからの借金の他、住宅ローンや奨学金、クレジットカードのリボ払いなども含めると、実際に借金がある状態の人はかなりの数にのぼるでしょう。借金が珍しくない現代、これを残したまま亡くなる方も少なくはありません。もし自分の親が借金を残して亡くなったら?子としてこれをどうすればよいのでしょう?和田金法律事務所の渡邊寛弁護士にうかがいました。 ■借金も財産とともに相続される親が亡くなった後に貸金業者から督促状が届いた場合、子には支払いの義務はありますか?「支払う義務があります。親が亡くなった場合、その子は法定相続人になり、プラスの財産とともにマイナスの債務も相続します。この時、借金のように分割可能な債務は、相続分に応じて分割して相続します。不動産などの分割しにくい財産がある場合も、相続人同士で話し合って財産を分け合う遺産分割を行うことができますが、借金のようなマイナスの債務は遺産分割の対象にはなりません。そのため、他の相続人の方が多く遺産を受け取っていたとしても、貸金業者に対しては法定相続分の借金について返済の義務を負うことになります」(渡邊弁護士) ■保証人としての債務も相続対象亡くなった親が誰かの借金の保証人、連帯保証人になっていた場合はどうでしょうか?子が保証人としての債務を負う可能性はありますか?「借金と同様に保証債務として法定相続分に応じて相続するのが原則です。ただし、身元保証のような特に個人的な信頼関係に基づく保証や、継続的取引についての限度額のない包括的な信用保証は相続されません。そのため、保証の内容や、対象となる借入が親の生前になされたものか死後になされたものかで責任の有無・範囲が違ってきます」(渡邊弁護士) ■借金を相続したくなければ相続放棄とはいえ、いくら親のものだといってもマイナスを受け継ぐわけにはいかない場合もあります。この債務を拒否するにはどうしたらよいのでしょうか?「原則として支払いは拒否できませんが、例外的に相続放棄が認められることがあります。相続人が相続放棄をすると、初めから相続人でなかったことになりますので、プラスの財産もマイナスの債務も承継しません。(全部放棄するのではなくプラスの財産の範囲内で債務を承継する限定承認という手続きもあります。限定承認はバランスがいいようにも思えますが、相続人全員で申立てなければならず、清算手続きの手間がかかることもあってあまり選択されません)」(渡邊弁護士)相続放棄でマイナスの債務を拒否するには、プラスの財産も放棄しなければならないのです。どちらかだけを手に入れることはできません。「相続を放棄する場合、原則として、相続開始を知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申し立てなければなりません。例外的に、自分が相続する財産が全くないと信じていて、相続財産の有無を調査しなかったことに過失もなかったようなときは、相続放棄が認められることがあります。この場合でも、貸金業者の督促状を受け取ってから3か月以内に相続放棄の申立てをする必要があります。他方、相続後、督促を受けるまで数年経っていたとか、財産を承継したけれど督促された借入については知らなかったとかという事情だけでは相続放棄は難しいように思います。ただし、長いこと取引も返済もなかったのであれば、消滅時効が完成している可能性もあります。なお、相続放棄も消滅時効も、一部でも返済してしまうと申立てや主張ができなくなるおそれがありますので注意が必要です」(渡邊弁護士)原則的に、親の借金を子が返済する義務はありません。しかし親が亡くなった場合は債務を相続することになるのです。親も子も、このようなマイナスの財産の相続の可能性や手続きについての知識を持ち、場合によっては生前に話し合っておくことが大切です。 *取材協力弁護士: 渡邊寛 (和田金法律事務所代表。2004年弁護士登録。東京築地を拠点に、M&A等の企業法務のほか、個人一般民事事件、刑事事件も扱う。)*取材・文:フリーライター 岡本まーこ(大学卒業後、様々なアルバイトを経てフリーライターに。裁判傍聴にハマり裁判所に通っていた経験がある。「法廷ライターまーこと裁判所へ行こう!」(エンターブレイン)、「法廷ライターまーこは見た!漫画裁判傍聴記」(かもがわ出版)。【画像】イメージです*zon / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月15日*画像はイメージです:ようやく寒さも落ち着き、過ごしやすい気候になったと感じる人も多いのではないでしょうか。暖かくなると、アウトドアの活動も増え、郊外でキャンプやハイキング、山登りなどをする機会も増えるかと思います。中には、スカイダイビングやバンジージャンプといった危険の伴うレジャーを楽しむ方もいるかと思います。上記のようなレジャーを楽しむ際には、運営側から、事故が起きてしまった場合、責任は参加者にあり、運営側は責任を負わないといった内容の「念書」を提出することになろうかと思います。事故が起きず、無事に終わればよいですが、怪我をしたり、最悪の場合には死亡してしまうこともあるでしょう。 そういった場合でも、念書を提出している以上、責任は参加者が全て負うことになり、運営側に責任は問うことが出来ないのでしょうか?解説してみたいと思います。 ■刑事責任が発生しないこともありえるまず、刑事上の責任ですが、参加者が怪我をしたり、死亡したりした場合、運営者は、業務上過失致死傷罪(刑法211条)に問われる可能性があります。もっとも、形式上は犯罪の要件に該当する場合であっても、有効な「被害者の同意(承諾)」があれば、行為の違法性が阻却されて犯罪は成立しないとされています。そのため、自分は怪我をしても構わないということを承知で参加し、事故で怪我を負った場合には、行為の違法性は阻却されて運営者には犯罪が成立しないことになります。ただし、同意が有効になるためには、運営者が、参加者から念書を提出してもらうだけではなく、参加者に対して、事前に当該レジャーの危険性や事故が起こった場合の怪我の程度等について十分に説明義務を尽くしていることが前提です。一方で、生命を放棄するような同意は許されないので、仮に、自分は死んでも構わないことを承知でレジャーに参加し、結果、死亡してしまった場合には、そのような同意は無効なので、被害者の同意の法理では違法性は阻却されません。もっとも、被害者の同意が無効であったとしても、当該レジャーの危険性について社会に広く認識されているような場合には、社会的相当性の観点から違法性が阻却される余地があります。 ■損害賠償責任はどうなる?次に、民事上の責任ですが、運営者は、不法行為(民法709条)や債務不履行(民法415条)に基づく損害賠償責任を負う可能性がありますが、刑事責任と同様に、被害者の有効な同意があるか、そのレジャーが社会的に相当なものであれば、違法性が阻却されて賠償責任が発生しないということになります。まさか自分が事故に遭うはずがないと思ってレジャーに参加される方がほとんどかと思いますが、万一、事故に遭って怪我等をした場合には運営者の責任を追及できない可能性がある、ということを十分に認識したうえでレジャーに参加するようにしてくださいね *この記事は2015年5月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)【画像】イメージです*sho / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月15日*画像はイメージです:ネットショッピングの普及により、宅配便で荷物を送ってもらうケースが増えています。配達時に自分や家族が自宅にいて受け取れる場合や、受け取れなくても再配達をしてもらえる場合には、何ら問題はありませんが、時折、宅配業者が隣人に荷物を預けたり、自宅前に荷物を置いていったりして、開封、紛失などに見舞われトラブルが発生するケースもあるようです。では、隣人に荷物を預けたり、自宅前に荷物を置いていったりすることは、法律的に問題はないのでしょうか。今日はこの問題について解説していきます。 ■無断で隣人に預けるケースは契約違反宅配便は、荷送人あるいは荷受人が指定した配達先に荷物を送付することが契約内容になっているので、指定先と異なるところに荷物を送付した場合には、原則として契約違反になります。ですが、配達先に記載されているのとは異なる住所に荷物を送付しても、実質的に配達先に配達されたと考えてよいケースであれば、契約違反として扱われることはありません。例えば、荷受人が不在時の配達先をしているケースや、通常不在時には隣接している実家などに預けてもらうことになっているようなケースが考えられるでしょう。このような例外的な事情に該当しない限り、隣人宅に配達されて、無断で開封され、中身が紛失したり損壊していた場合には、荷送人や荷受人は、その隣人だけでなく宅配業者に対しても損害賠償を請求することができます。 ■自宅前に置いていくケースも契約違反不在時に荷物を自宅前に置いていくケースも原則的には契約違反となるでしょう。確かに宅配便は「受取必須」の契約にはなっていませんが、配達時間の指定のシステムがあることから考えると、荷受人本人やその家族が受け取ることが前提となっていると考えられるからです。もちろん、宅配ボックスに入れていくケースなど、紛失や損壊のリスクがない状態で受取りなく配達を行う場合は、何の問題もありません。また、自宅前に置いていくケースでも、近隣に他の家がない、人通りがほとんどない、雨風をしのげて損壊等の危険がないという場合など、例外的に許容されるケースもないとはいえません。 近年は、最初に述べた通り、ネットショッピングの普及により宅配業者の負担が増えています。配達のトラブルも宅配業者の負担が重くなればなるほど増えると考えられます。トラブルを防ぐためには宅配業者だけでなく、荷受人や荷送人にも、配達時間を指定するなどの気遣いが必要ではないかと思われます。 *著者:弁護士 寺林智栄(ともえ法律事務所。法テラス、琥珀法律事務所を経て、2014年10月22日、ともえ法律事務所を開業。安心できる日常生活を守るお手伝いをすべく、頑張ります。)【画像】イメージです*Satoshi KOHNO / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月14日4月4日に京セラドーム大阪で行われたプロ野球セントラル・リーグ阪神タイガース対東京ヤクルトスワローズ戦で、乱闘事件が発生。藤浪晋太郎投手の投げたボールが、畠山和洋選手の頭部付近に直撃。畠山選手が激昂すると、両軍入り乱れて揉み合いに。そこへ入ってきたウラディミール・バレンティン選手が矢野輝弘コーチを突き飛ばすし、反撃とばかりに同コーチが跳び蹴りをする事態に。このような乱闘事件は最近少なかったこともあり、ネット上では「藤浪が悪い」「バレンティンが悪い」などの意見があがり、論争になりました。どちらが悪いかについてはそれぞれの主張があるためどちらが正しいのかはわかりません。しかし、暴力行為については、野球というスポーツのなかで行われたこととはいえ、許されるべきものではないでしょう。このようなプロ野球の試合で行われる暴力行為は罪にならないのでしょうか?Q.プロ野球の乱闘で行われる暴力行為は罪にならないのですか?*画像はイメージです:暴力行為を受けた選手が重大な怪我を負った場合は傷害罪、そうでなくても暴行罪になる可能性があります。暴力を受けた選手が怪我をした場合、当然ながら傷害罪になります。また、怪我をしなくても暴行罪が成立するでしょう。プレー中の接触はともかく、乱闘は選手・監督の業務とはいえず、なんらの正当性が認められないのは社会一般と同じはずです。プロ野球の乱闘の場合、暴力行為といっても重大な怪我を負ったケースがないこと、プロ野球を管理する日本プロ野球機構からペナルティが課されること、警察に訴えでる人がいないことなどから、傷害罪にまでは至らないことがほとんどです。それ自体、社会的に許容すべきことか否かわかりませんが。今回の阪神対ヤクルトも、バレンティン選手と矢野コーチに制裁金と厳重注意処分がそれぞれ課せられており、既に事後処理は完了。罪に問われるようなことにまでは、至っていません。しかし、暴力による骨折や失明など日常生活に支障がでるような怪我を乱闘によって負った場合は、警察が動き傷害罪になる可能性が高いと思われます。このような場合、傷害罪は親告罪ではありませんので、たとえ届け出がなくても、警察が動き、場合によっては罪に問われることになるでしょう。 乱闘も野球の醍醐味という人もいますが、厳密に言うと人を殴るという行為は犯罪であり、暴行罪・傷害罪になるということは、選手もファンも忘れない必要がありますね。 *記事監修弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*ballgame / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月13日*画像はイメージです:離れて暮らす実家の両親、なかには、もう父母のどちらかが亡くなって気丈に一人暮らしをされているケースも少なくないでしょう。祖父や祖母が健在の場合も、後期高齢者のみの暮らしで、心配事は尽きません。高齢者であることを利用して金を余分に巻き上げようとする業者も少なくないからです。たとえば、こんなケース。子どもが働きはじめて家を出て、退職金で終の棲家を郊外に購入したUさん夫婦。田舎に移り住んで、もう間もなく25年になろうとします。となると、家の壁など、さまざまなものが壊れ始めます。購入時からセットされていたガス給湯器が壊れ、追い焚きができなくなってしまいました。地元のガス会社に修理してもらおうと問い合わせると、若い社員がやってきて、25年前の機種で部品がなく修理できず、全交換になるとか。彼が出した見積もりは本体のみで40万円超え!クレジットカードは使えないそうです。このことを、息子さんが実家に電話した時、はじめて聞かされたそうです。「その人も若いのに難しいことをよく覚えていてね、一生懸命話してたわ」と褒めるお母さん。しかし、息子さんは激怒しました。「褒めてる場合か、そんなの詐欺じゃないか!絶対そこで買うな!」 ■息子が激怒した「悪徳なやり口」なぜ息子さんは激怒したのでしょう?実は母親は、業者から機種の説明を一切受けていませんでした。機能により、値段がだいぶ違うのです。ところが、選択肢を示さずに説明もなく前と同じ最上位機種をもっとも高価な機種を高い代金のまま値引きなしで売ろうとしていました。これも調べてみると値切り交渉で、半額近くまで値が下がることがわかりました。このように、業者が説明を怠り、高い値段で売りつけようとしたことに息子さんは激怒したのです。それを褒めるなんて、というわけです。 ■情報格差の罠を考慮した法律がある!しかし、ここで疑問が湧きます。聞かなかった母親のほうが悪いのでしょうか?星野法律事務所の弁護士、星野宏明先生にお伺いしました。「このケースでは事業者と一般消費者の情報格差がはっきりしています。このような情報格差を考慮して、一定の場合に契約取消ができる“消費者契約法”が用意されています。虚偽の事実を説明して誤信させて購入契約させている場合には、たとえ商品を提供していても刑法上の詐欺罪になるケースはあります。その他、契約取消の場合は、代金返還義務があります。ただ、この場合は虚偽の事実を説明していないので、詐欺罪には問われないでしょうが、説明不足は否めません」(星野弁護士)25年もガス給湯器を使っていれば、使っていない機能もあるはずで、ほかに安い選択肢があるとわかれば、そちらを選ぶこともできたでしょう。息子さんが電話をしなければ、その見積もりでお願いしていたようですが、事前で回避、別の良心的な業者で安く交換を済ませました。しかし、そのまま業者の見積もりだけを鵜呑みにして、後から分かったとしたら、キャンセルできるのでしょうか? ■業者に落ち度があるならば代金変換も「消費者を保護するために、訪問販売等によって契約した商品を業者に落ち度があるかどうかにかかわらず無条件解約できるのが“クーリングオフ”です。思わず契約してしまっても、あとから不要だとおもったら取り消しはできます。法律で定められた事項が書かれた契約書面(法定書面)を受け取った日を1日目として起算して、クーリング・オフ期間は8日間です。この期間内なら無条件で解約ができます。また、クーリングオフ期間を過ぎた場合でも、“不実告知”(事実と異なることを告げる、確実ではないことを確実であるように言う、リスクを告げない)など“消費者契約法”が定める取消事由があれば取消の上、代金返還が可能です」(星野弁護士)なぜ機種について一切説明をしなかったのかを業者に迫り、クーリングオフも辞さないという態度で息子さんが交渉をすることで、仮に契約していたとしても戦うことは可能でしょう。修理で済むかどうか見てもらうために業者を呼んで、その場で全交換といわれた場合はともかく、最初に「買い替えたい」と呼んだ場合はクーリングオフ適応外になる場合もあると星野弁護士は指摘します ■実際に裁判になるケースはある?「刑事事件は、詐欺罪の構成要件を満たしていれば立件もありえます。クーリングオフや契約取消代金返金だけの場合、消費者事件は金額は少ないことが多く、弁護士に相談して裁判を起こすのは費用倒れに終わることが多いので、よほど高額な被害でない限り裁判までというケースは少ないのが実情です。被害額が少額の場合、実際には消費者生活センターなどに相談して解決することも多く、妥当ともいえます」(星野弁護士)手を打つのが遅く、購入されていた場合は、あきらめずに業者と消費者センターへの交渉を。また、弁護士の知人がいれば、内容証明を出してみると悪徳業者も態度を豹変させるかもしれません。ちなみに、件の業者に改めて機種についての説明と見積もりの出し直しを電話で問い合わせたところ、例の若者は担当を外れているの一点張りで少しお待ち下さい、と下手に出てきたそうです。短期の契約営業マンだったのかもしれません。こうした営業マンは近隣に飛び込みで営業をかける場合もあり、老人家庭と見るや丸め込みにかかります。この場合は紛うことなき訪問販売ですから、誤って購入した場合はクーリングオフを! *取材対応弁護士:星野宏明(星野法律事務所。不貞による慰謝料請求、外国人の離婚事件、国際案件、中国法務、中小企業の法律相談、ペット訴訟等が専門。)*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月13日*画像はイメージです:俳優の渡辺謙さんが、一般人女性と不倫していたことが判明。報じた週刊誌には「動かぬ証拠」の写真が掲載されており、不貞関係にあったことは間違いないよう。「ラスト・サムライ」の裏の顔に、ショックの声があがっています。現在渡辺が海外にいる模様で、記者会見などは開かれていません。妻で女優の南果歩も沈黙しており、離婚となるのか、容認するのかは不明です。仮に離婚となった場合は、南果歩さんが望めば慰謝料を支払う義務が発生するものと思われます。では、金額はどのくらいになるのでしょうか? ■不貞や婚姻期間に応じた金額が請求される金額を決定するうえで考慮される事情としては、不貞の期間や回数、婚姻期間、子どもの有無などがあります。婚姻期間については長ければ長いほど、慰謝料は高額化します。原則的に慰謝料の金額に「収入」や「職業」は算定要素になりません。混同されがちですが、基本的にはどのような職業、いかなる収入であろうとも、慰謝料には直結することはありません。ただし、例外的なケースとして慰謝料増額に職業が加味されることがあります。過去の判例でいうと、弁護士やプロ騎手などの裁判で、職業が慰謝料の算定要素となったことがありました。渡辺謙さんの場合、上記のように原則的には一般人と変わらず不貞期間と婚姻期間に応じた慰謝料になると思われますが、過去の芸能人と同じように、社会的な心象などを考慮し、自ら高額な慰謝料を支払う可能性があります。また、彼は日本を代表する俳優であることから、「例外」になることも考えられます。以上の要素からやはり慰謝料を支払うことになるとすれば、それなりに高額になるものと思われます。 ■当然の代償芸能人の不倫についてはかつて「芸の肥やし」、という考えもあったようですが、現在は認識が厳しくなっています。どのような人間であろうと、結婚している相手を裏切るという行為は、倫理的に許されるものではありません。仮にそれが発覚すれば、法的に代償を支払うのは当然といえます。 *記事監修弁護士:理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月12日静岡第一テレビのアナウンサーが、無免許で自動車を運転していたことが判明。会社にはニセ自動車運転免許証のコピーを提出し、「乗用車が運転できる」と偽っていたようです。その事実をひた隠しにしていましたが、4月1日に取材先から帰る際社用車を運転していたところ、追突事故を起こしてしまい、事態が発覚。無免許運転で逮捕されました。勤め先である静岡第一テレビは、自動車運転免許証の現物をチェックしておらず、社内全員が騙されてしまったとのこと。ちなみにこのアナウンサーは一度も自動車運転免許を受けた経験がなく、我流で自動車を運転していたそうで、「免許の偽造」が疑われています。現在同アナは釈放され会社の処分を待っている状態ですが、今後偽造免許についても捜査が及ぶものと見られています。仮に本当に免許を偽造していた場合、どのような罪になるのでしょうか?Q.運転免許証の偽造はどのような罪になりますか?*画像はイメージです:有印公文書偽造罪になります。運転免許証は都道府県の公安委員会が発行する公文書です。したがってこれを偽造することは、刑法155条1項の有印公文書偽造罪に該当し、1年以上10年以下の懲役となります。また、偽造運転免許証を呈示した場合は、有印公文書行使罪(刑法158条1項)に問われ、こちらも1年以上10年以下の懲役です。両者とも軽い犯罪ではありません。運転免許証の偽造は、自動車の運転技術を偽ることになります。当然ながら自動車は誤った操作をすれば、人を殺す凶器になってしまうことは、皆さんご存知の通りです。そのような意味で、実際に無免許運転もしている今回の事件はかなり危険で、許されざるもの。それ相応の償いが必要になるものと思われます。 *記事監修弁護士:高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*makaron* / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月11日*画像はイメージです:女子プロレスラー・上林愛貴さんと事実婚状態にありながら、女優の濱松恵さんと不倫関係にあったというお笑いグループ『東京03』の豊本明長さん。両者とも事実を認め謝罪していますが、騒動は収まっていません。 ■ブログで豊本明長さんを批判現在2人の関係は終わったそうですが、濱松さんが納得していない模様で、連日関連したブログ記事を更新。豊本さんと上林さんが「事実婚」状態であることを「ビジネスパートナーで仕事のため」「既婚ではなくフリー」と説明されたことを明かすなど、交際の内情を明かしています。一連の記事がどこまで真実なのかはわかりませんが、ネットという不特定多数が閲覧する場所で内密な話を暴露されるのは気分のいいものではありません。そのうえ濱松さんは批判とも取れる記述を行っており、豊本さんを攻撃しているようにも思える状況。彼女からすれば騙した彼が悪いということなのでしょうが、豊本さん側としてはブログの削除や更新の停止、さらに名誉毀損での提訴や賠償請求などを検討したくなることでしょう。そのような措置にでることははたして可能なのか?法律事務所アルシエンの清水陽平弁護士にご意見を伺いました。 ■名誉毀損は成立する?Q.名誉毀損罪は成立するのでしょうか?A.「名誉毀損とは社会的評価を低下させることであるため、浮気をしていたということは社会的評価を低下させる事情といえるため名誉毀損とはいちおう言い得ます。しかし、公共性、公益目的、真実性があれば、違法性が阻却されるところ、少なくとも公共性、真実性は認められそうです。あとは公益目的の有無ということですが、これが否定される例は明確な嫌がらせのような場合であり、本件でも公益目的がないとまで言い切れるか少々微妙であろうと思います。したがって、違法性阻却事由があるものとして、名誉毀損が成立しないということになる可能性は十分あると思います」(清水弁護士)不倫していたことは紛れもない事実であることを双方が認めているうえ、ブログ内での主張は全くのデタラメとは思えず、真実性もあると思われることから、名誉毀損罪に該当するか否かはかなり微妙なようです。 ■ブログの削除や賠償請求は可能?Q.ブログの削除や賠償請求は可能でしょうか?A.「上記の理由により、簡単ではないと思います。もっとも、プライバシー侵害が成立する余地は十分あり、プライバシー侵害を理由とした削除・賠償を求めることができる余地はあるといえます。ただし、これも簡単というわけではないですし、請求をした時点で、その請求自体をネタとして記事が書かれる可能性もあります。また、賠償額としてもそれほど高額なものにはならず、かけた費用を下回る可能性が高いと思われます」(清水弁護士) ブログの削除要求は名誉毀損罪と同じく、真実性などの観点から難しいようです。プライバシー侵害については認められることもありそうですが、仮にそうなったとしても微々たる金額になる可能性が高いとのこと。豊本さんとしては、現在の沈黙状態がベストなのかもしれません。 ■ネットでの暴露話にはリスクがある続けて清水弁護士に、「ネットで不倫などを暴露する行為」についてもご意見を伺いました。「特にどうこうという気はないですが、好ましい行為ではありません。自分にとってもマイナスが大きいですし、当然相手の権利侵害にも、なりえるもので、後々賠償請求を受けるリスクや、やっぱり消したいといった形で思う可能性もあるからです」(清水弁護士)ブログに「暴露話」を書きたくなる気持ちもわからなくはありませんが、色々なことを考えると、慎重になったほうが得策といえるでしょう。 *取材協力弁護士:弁護士 清水陽平(法律事務所アルシエン。インターネット上でされる誹謗中傷への対策、炎上対策のほか、名誉・プライバシー関連訴訟などに対応。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*ミヤヒロ / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月11日*画像はイメージです:配偶者が不倫をした場合、慰謝料を請求できるということをご存知の方は多いのではないでしょうか。請求した額をすんなりと相手方が払ってくれれば問題はありませんが、お金がなかったり、渋ってたりなどスムーズにいかない場合もあるかと思います。本記事では、上記のような相手方が慰謝料を払ってくれない場合にどうすればいいのかを解説していきたいと思います。 ■まずは強制執行する必要がある慰謝料について当事者同士で合意したに過ぎない場合には、まずは、調停や裁判を経て「債務名義」を取得したうえで、相手の財産(不動産、預貯金等)に対して強制執行する必要があります。すでに調停や裁判を経て、調停調書や判決等の「債務名義」を取得している場合には、当該債務名義に基づき、相手の財産に対して強制執行することにより、慰謝料を回収することができます。なお、慰謝料等についての合意について公正証書を作成し、「強制執行認諾文言」(慰謝料を支払わない場合には、直ちに強制執行に服することを承諾するもの)を入れておけば、判決と同様に「債務名義」となりますので、調停や裁判といった手続を経ずに、相手の財産に対して強制執行することができます。以下では、各財産ごとに強制執行の方法を説明します。 ■不動産から回収する方法相手が不動産を所有している場合には、「不動産強制競売」の申立てを検討することになります。もっとも、当該不動産に住宅ローン等の抵当権が設定されている場合、住宅ローンが不動産価格よりも高い場合(いわゆるオーバーローン状態)には、不動産の売却代金は、すべて住宅ローンの弁済に充てられてしまいますので、慰謝料の回収を図ることはできません。そのため、競売を申し立てるにあたっては、当該不動産に抵当権等の担保権がついているのか、ついているとすれば住宅ローンはいくら残っているのかを確認することが重要です。 ■預貯金から回収する方法相手が預貯金口座を保有している場合には、当該預貯金に対する「債権執行」の申立てを検討することになります。金融機関名と支店名さえ特定すれば、預金種目や口座番号等の情報が分からなくても、預貯金口座に対して債権執行をすることができます。もし、相手が有する預貯金口座が分からない場合というには、相手の住所地や勤務地周辺の金融機関の支店に的を絞って、債権執行の申立てをかけるという方法もあります。もっとも、離婚時においては、相手の預貯金の情報も明らかにになっている場合も多いでしょうから、相手がどの金融機関に預貯金口座を持っているのか全く分からないといった事態はあまり生じないでしょう。 ■給与から回収する方法相手が会社に勤めている場合、相手の会社に対する「給与債権の差押え」を検討することになります。ただし、差押えをすることができるのは、給与の4分の1に相当する部分だけです。給与債権の差押えをするためには、相手の勤務先の名称や所在地を把握しておく必要があります。 ■まとめ以上のとおり、相手が慰謝料を任意に支払わない場合、相手の財産から強制的に慰謝料を回収する方法はいくつかあります。しかしながら、相手が、上記のような財産を何も持っていないという場合には、残念ながら、請求する側としては、泣き寝入りするほかはないということになります。そうならないためには、慰謝料の支払いについて資力のある人に保証人になってもらうなどの措置を講じておく必要があります。 *この記事は2014年9月に掲載されたものを再編集しています。*著者:弁護士 理崎智英(高島総合法律事務所。離婚、男女問題、遺産相続、借金問題(破産、民事再生等)を多数取り扱っている。)【画像】イメージです*Graphs / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月10日最近はゴミ出しのルールが厳しくなっており、分別の厳重化や有料化が進んでいます。おもに資源の再利用が目的とされていますが、日々生活する者にとっては不便さを感じることも事実です。そのため、つい、コンビニのゴミ箱に家庭ゴミを入れてしまいたいと思ってしまうことがあるでしょう。たいていの場合はゴミ箱に「家庭ゴミ禁止」と書いた張り紙が貼ってあるのですが、それを無視して捨ててしまったことがある人もいるかもしれません。この行為が何かしらの法律に触れることを理解している人がほとんどでしょうが、どのような罪になるのかを認識している人は少ないのではないでしょうか?そこで今回は「コンビニへのゴミ不法投棄」について解説します。*画像はイメージです:■営業妨害になる可能性まず考えられるのが、業務妨害罪。「家庭ゴミ禁止」と書れた張り紙が貼られている場合、店側は家庭ゴミの持込みを「拒否」し「禁止」していることになります。注意書きを無視して家庭ゴミを捨てた場合は、店側の意向に反する業務妨害となり、捨てたゴミの量などによっては、刑法234条の威力業務妨害罪に該当し、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が課される可能性があります。それでは、張り紙が貼っていない場合はどうでしょうか? ■不法投棄に問われる注意書きの張り紙が貼っていない場合でも、罪になります。本来捨てるべきではない場所にゴミを捨てるわけですから、廃棄物処理法第16条の「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」という条文に違反し、「不法投棄」になります。そして、不法投棄に対しては、廃棄物処理法第25条より「5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金」が課せられます。また、不法投棄を目的にゴミを収集、運搬した場合は同法第26条によって「廃棄物を収集または運搬した人に対して3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金」です。コンビニのゴミ箱に家庭ゴミを投棄することについて、「軽く」考えている人もいるかもしれませんが、不法投棄は5年以下の懲役であるうえ、罰金も1,000万円以下と重い罰則が定められている罪に該当します。もちろん、コンビニだけではなく、空き地や他人の居住地なども同様です。不法投棄には重い罰則が科され得るということを覚えておきましょう。 *記事監修弁護士:木川雅博 (星野法律事務所。通信会社法務・安全衛生部門勤務を経て、星野法律事務所に所属。破産・再生・債務整理を得意とする。趣味は料理、ランニング)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*白熊 / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月10日日本人と切っても切れない関係の馬。戦国最強といわれた武田信玄軍の「騎馬隊」は、武将の能力も去ることながら、馬の走力や知力が高かったことも強さの要因とする説があります。そのほかにも徳川家康が武田軍に大敗した三方ヶ原の戦いで逃げる際、必死に馬にしがみついて追手から逃げるなど、日本の歴史において馬は重要な役割を果たしてきました。最近はもっぱら競走馬としての役割が多く、交通手段としては用いられることがほとんどなくなった馬ですが、全国各地に「乗馬クラブ」が存在し、現在でも人を乗せて走り続けています。そんな馬で、戦国時代のように颯爽と道路を走ってみたい。じつはこれ、現代でも可能らしいのです。本当でしょうか? Q.現在でも馬で道路を走ることはできますか?*画像はイメージです:道路交通法では軽車両扱いとなるため公道を走ることは理論的には可能ですが、安全に十分注意する必要があります。道路交通法で、馬は軽車両扱いとなっているため、公道を走ることは理論上可能です。ただし、夜間に公道を走る場合は、照明灯を付ける必要があります。さらに、当然ながら左側通行など交通法規を遵守しなければなりません。また、馬が糞をした場合には即座に片付る必要があるでしょう。現代でも公道を走ることが許可されている理由は、馬が日本人の交通に対して多大な貢献をしてきたことによるもので、「畜力」として考えられています。ちなみに、牛も馬と同じ扱いで、公道を走ることができます。動画サイトなどを見ると、実際に馬で道路を走る様子が収められています。落馬する可能性がありますので、安全上乗馬に慣れていることが条件にはなりますが、走ることは可能です。 *記事監修弁護士:森川文人(ピープルズ法律事務所。弁護士歴25年。いわゆる街弁として幅広く業務を経験。離婚、遺産相続をはじめ、不動産、 慰謝料・損害賠償請求、近隣トラブル、借地借家、賃金、インターネット問題、知的財産権などを扱う。)*取材・文:櫻井哲夫(フリーライター。期待に応えられるライターを目指し日々奮闘中)【画像】イメージです*カツ / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月09日人という字は人と人が支え合ってできている、なんて昔から言われておりますが、「誤発注しました!助けて!」と言われると何とかしてあげたくなるのが人情というもの。でもそんな人情を逆手にとって売上を積み増してやろう……そんなけしからん目論見に乗っかってしまった場合どうすればよいでしょうか。*画像はイメージです:■誤発注が嘘だったら購入者は返金を求めることができる?物を購入しようとする際、書面がなくとも、人は売買契約を締結します!という意思表示をしているということになります。しかし、その売買契約締結の意思表示に誤解がある場合で、(1)誤解がなければ意思表示をしなかったであろうと考えられ、かつ(2)意思表示をしないことが一般取引上の通念に照らしてもっともだと認められるような場合には、その意思表示の要素に錯誤があったとして無効とされます(民法95条本文)。具体的には、Aという商品を買うつもりでBという商品を購入してしまったような場合です。ただし、その錯誤の中でも、意思表示はあるものの、売買契約締結の意思を形成しようとする動機に錯誤があるにすぎない場合、たとえば先の例と異なり、Aの商品を買うという意思自体に誤りはないものの、Aを買おうと思った動機に錯誤があるような場合には、ただちに錯誤無効が適用できるわけではありません。この「動機の錯誤」については、判例上、基本的に意思表示の要素ではないことから、その錯誤があっても要素の錯誤には当たらないとされますが、動機が相手方に表示された場合には、動機の錯誤が要素の錯誤になったとして、無効となり得るとされています。今回の件では、「その商品を購入しよう」という意思自体に誤りはありませんよね。しかし、そのきっかけが「誤発注で大変な思いをしていてかわいそうだから」ということにある場合、それはまさに「動機の錯誤」に該当します。とすると、上に述べたように、判例上はその動機が相手方に表示された場合に限り、無効ということになり得るため、そのような表示がない場合には、無効を主張できないことになります。これに従うと、本事例では、「誤発注でお店が大変そうだから」と購入の動機をお店側に表示した上で購入をした場合に限り錯誤無効の主張ができ、結果として無効になった場合には、その返金を求めることはできるでしょうが、それ以外は難しいかもしれません。なお、個別の売買契約の締結に向け、誤発注であること誘因材料として売買契約をさせた場合には、詐欺取消(民法96条1項)により取消しが可能になる場合があり得ると思います。 ■この「誤発注商法」はどのような罪になる?誤発注という事実をもって「騙された!」という方もいそうですので、詐欺罪が成立するのか、という観点から検討しましょう。詐欺罪は窃盗罪などと同じく財産に対する罪ですが、その財産的損害をどのように考えるかが問題です。つまり、たとえ誤発注であっても1,000円相当の商品を1,000円で購入をしているような場合には、「獲得しようとしたもの」と「給付したもの」は等価値とみることもできます。他方、誤発注という虚偽の事実の告知がなければ、購入することはなかったというのであれば、購入者は1,000円という財産上の損害を受けたということもできそうです。このことは、つまり財産上の損害を形式的に捉えるのか実質的に捉えるのかという問題として整理されますが、裁判例は、基本的に形式的な損害があれば詐欺罪の成立を肯定しつつ、実質的な財産的損害がない場合には詐欺罪の成立を否定するものもみられます。これらからすると、少なくとも詐欺罪が全く成立しないとは言いにくいでしょう。なお、これに関連して、最高裁は、第三者を装って預金口座開設を申し込み、結果として預金通帳の交付を受けた事案においては、預金通帳の財産的価値を認めて詐欺罪の成立を肯定し(最決平成14年10月21日)、本人名義であっても他人に譲渡する意図を秘して口座開設をし、預金通帳の交付を受けた事案においても、そのような意図が銀行側に明らかとなっていれば預金通帳を交付することはなかったとして、結果的に詐欺罪の成立を認めています(最判平成19年7月17日)。この判断が誤発注事例にそのまま当てはまるとは限りませんが、少なくとも当然に成立しないということはなさそうです。 人の親切につけ込むという手口は、悲しいかないつの時代もあり得るもの。古くは財布を落としてしまったから……として交通費の寸借詐欺などが思い出されますね。そんなことが繰り返されると、本当に困っている人も色眼鏡で見られてしまい、とても生きづらい世の中になりかねません。裁判所職員がつけているバッヂは三種の神器のひとつである八咫(やた)の鏡がモチーフになっておりますが、その意味合いは、鏡が非常に清らかで、はっきりと曇りなく真実を映し出すことに由来するそうです。情けは人のためならず、いつも心置きなく他人に親切でいられるように、ひとりひとりが心の中に真実を映し出す鏡を持っていたいものですね。 *著者 大達 一賢(エジソン法律事務所。第一東京弁護士会所属。「強い、やさしさ。」、「守る≒攻める」、「戦略&リーガル」の3つの思いを胸に、依頼者のために全力を尽くします)【画像】イメージです*まさよ / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月09日ネットショッピングを利用した場合、商品は宅配便で送られてきます。荷物を受け取れなかった場合、多くの業者では再配達を依頼することができます。しかし、「再配達を依頼したけれども受け取れなかった」という状況が続くことは、宅配業者、特に現場の配達員の負担になります。昨今は、再配達による現場の負担が社会問題ともなっています。では、再配達してもらっても受け取れなかった、ということが続いた場合、荷物を受け取る側が宅配業者から訴えられるようなことがあるのでしょうか。今回はその点について解説していきたいと思います。*画像はイメージです:■訴えられる可能性は低い結論から言うと、訴えられるということは、考えにくいと言えます。宅配便を利用する場合、送り主(荷送人)が宅配業者(運送人)との間で運送契約を締結します。荷物を受け取る人(荷受人)は、契約には関与しません。契約に関与していない荷物を受け取る側は、運賃を支払う必要はありません。それは、何度も再配達を依頼したり、結局荷物の受け取りがされずに送り主側に返送された場合も同様です。契約をしていない以上、運賃を支払う義務はないのです。なお、運送契約に適用される約束事(正確には約款といいます)には、大抵の場合、受け取り側が荷物を受け取らず、送り主に返送することになったときは、返送費用などを宅配業者が送り主に請求できる、とされています。むしろ訴えられる(追加費用を請求される)可能性があるのは、送り主です。 ■受け取り側が絶対に訴えられないというわけではないとはいえ、受け取り側も訴えられる可能性がゼロというわけではありません。まず、結局荷物を受け取れず荷物が送り主へ返送された場合に、送り主が宅配業者へ追加費用を支払ったときは、送り主から追加費用と同額の請求を受ける可能性があります。ただし、この追加費用はさほど高くないと思われます。この費用を取り立てるためだけに裁判を起こすということはあまり考えられません。商品代金に費用が上乗せされた請求を受ける、ということはあり得ます。また、「受け取れないかもしれない」と思いつつも、「まあ、いいか」と再配達を依頼し、宅配業者に損害を与えれば、不法行為による損害賠償を請求される可能性があります。急な用事で外出して受け取れなかったという場合でも、再配達が受け取れないと思いつつ外出するでしょうから、理論上は、故意又は過失があるということで、損害賠償責任が発生する可能性があります。ただし、損害額の算定が難しかったり、算定できたとしても低額であったりするので、宅配業者は、費用と時間をかけてまで裁判はしないでしょう。裁判よりも、運賃を値上げして再配達によるコストをカバーしたり、再配達を依頼できる回数を制限してコストを抑えたりすると思われます。このように、荷物を受け取る側が損害賠償を請求されるケースはまれだと思われます。ですが、受け取る側も、あるときは荷物を送る側になるでしょう。そのときは損害賠償を請求されずにラッキーと思えるかもしれませんが、運賃の値上げやサービスの低下によって、めぐりめぐって損をすることになります。再配達の依頼をしたのに受け取れないという場合には、再配達をキャンセルして別日を指定するのが正解です。 *著者:弁護士 高野倉勇樹(あすみ法律事務所。民事、刑事幅広く取り扱っているが、中でも高齢者・障害者関連、企業法務を得意分野とする)【画像】イメージです*Naoaki / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月08日*画像はイメージです:先日、孫が年金支給日を狙って祖父の家に勝手に上がり込み、パチンコ代をせびるのが常態化。孫ということで大目に見ていた祖父が「おまえは孫じゃない」と拒否したところ殺害されてしまう事件がありました。年金額は年々減っていますが、それでも現在の高齢者は、若者が将来もらうよりもはるかに高額の年金を受け取っています。生活が安定しない非正規雇用や無職の若年世代からすれば、近く、もしくは同居する年金生活者の財布はあてになる定期収入というわけです。しかし、祖父・祖母が家族に対して年金を好意的に贈与したり貸したりしていない場合、高齢者が生活に困窮してしまいます。その場合、家族でも訴えて年金せびりを強制的にやめさせることはできるのでしょうか?銀座ウィザード法律事務所の小野智彦弁護士にお訊きしました。「まずは、弁護士に相談し、内容証明で止めるよう警告するのが大切かと思います。また、認知症だったりする場合には、成年後見人を付けることを検討されると良いかと思います」(小野弁護士)成年後見人というのは、認知症、知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な人に変わって不動産や預金管理、その他の契約を結ぶ代理人を、本人、配偶者、四親等内の親族、検察官の申し立てにより家庭裁判所で決定するものです。この後見人がきっちりお金を管理することで、せびりを防ごうというわけです。 ■恫喝すれば恐喝、勝手に持っていけば窃盗に!成年後見人をつけていない状況で暴力的に恫喝したり、留守や、認知症をいいことに身内が勝手にお金を保っていってしまった場合、どんな刑事罰になるのでしょう?「恫喝の場合は恐喝罪、認知症を良いことに勝手に持っていく場合は窃盗罪になります」(小野弁護士)しかし、相手が家族となると、ことはそう簡単ではないようです。「基本的に、配偶者、直系血族又は同居の親族との間でこれらの罪を犯した場合は、刑が免除されることになっています(刑法244条1項)」(小野弁護士)なんということでしょう!家族の間でも金銭せびりや巻き上げが常態化、悪質化していれば罪に問われてもおかしくないように思えますが、家族間の問題として罰することができないなんて。小野弁護士によれば、実際、このようなケースで親族間で裁判になるケースは少ないそうです。 ■老人にたかる家族には自衛策をとるほかない「この問題は今に始まったことではありません。刑法上も特に処罰されるわけでもないので、自衛するしかありません。おじいちゃん、おばあちゃんの財産は、その親族がしっかりと管理するか、認知症だったりした場合には、法的に成年後見人を付けてもらうなどした方がよろしいかと思います」(小野弁護士)加えて家族会議でしっかり話し合ってことを明らかにし、このようなことを二度としないよう誓わせる、見張らせることも必要でしょう。とはいえ、ろくに働きもせず、いい年して祖父や父に金をせびりにくるような怠惰な性格は、そう簡単に治るとも思えません。そのあげくの殺人事件だったわけです。こうなるとさすがに逮捕されます。また、暴力で傷を負ったりすれば話は別です。暴力を用いて金を持ち逃げすれば、立派な強盗罪です!躊躇せず、警察を呼びましょう。 *取材協力弁護士:小野智彦(銀座ウィザード法律事務所代表。手品、フルート演奏、手相鑑定、カメラ等と多趣味。エンターテイメント法、離婚、相続、交通事故、少年事件を得意とする)*取材・文:梅田勝司(千葉県出身。10年以上に渡った業界新聞、男性誌の編集を経て独立。以後、フリーのライター・編集者として活躍中。コンテンツ全般、IT系、社会情勢など、興味の赴く対象ならなんでも本の作成、ライティングを行う。Twitterアカウントはこちら)【画像】イメージです*和尚 / PIXTA(ピクスタ)
2017年04月07日