六本木の国立新美術館で開催中の『至上の印象派展ビュールレ・コレクション』に行ってきました。ルノワールやモネ、ファン・ゴッホなど誰もが知っている巨匠たちの名作をまとめて見られるゴージャス感たっぷりの展覧会、その見どころをレポートします!ハイレベルな印象派が勢ぞろい!【女子的アートナビ】vol. 104『至上の印象派展ビュールレ・コレクション』では、フランス印象派の画家たちが手がけた名作が勢ぞろい。ルノワールやセザンヌなど巨匠が描いたものでも、さまざまなタイプの作品がありますが、今回は折り紙付き。正真正銘の名画が集まる展覧会です。さらに同展では印象派に加えて、17世紀のオランダ絵画から20世紀のモダン・アートまでの作品64点を展示。その半数が日本初公開なので、見ておかないとたぶん後悔すると思われます。強奪された作品4点も来日!質の高い作品ばかりですが、これらのコレクションはすべてドイツ生まれの実業家、エミール・ゲオルク・ビュールレ(1890~1956)がひとりで集めたもの。大学で美術史などを学び芸術に造詣が深かった彼は、スイスに移住したあと絵画の収集を開始。特に第二次世界大戦後は毎年100点ほどの作品を購入した時期もあり、どんどんコレクションを増やしていったそうです。プレス内覧会では、ビュールレ氏の孫で、E.G.ビュールレ・コレクション財団理事長のクリスチャン・ビュールレさんが出席。そのスピーチで、約10年前に起きた絵画強奪事件について触れました。2008年、ビュールレ氏の個人美術館に武装した強盗が押し入り、セザンヌ、ドガ、ファン・ゴッホ、モネの名画4点を強奪。そのうち2点はすぐに発見されたものの、残りの2点は2012年になってからベオグラードで見つかりました。この事件により、警備上の理由から美術館を閉館することを余儀なくされ、作品は2020年に完成するチューリヒ美術館の新館に移管することに決定。それまでの間、世界各都市で展覧会を開催することになったそうです。日本の展覧会では事件で盗まれた4点の名画すべてが展示されるため、ビュールレさんは「孫である私にとっても忘れられない展示になる」と感慨深げに語っていました。“美しすぎる少女” は必見!それでは、見どころをご紹介していきます。まずは、展覧会のメインヴィジュアルにもなっている必見作品《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》。ピエール=オーギュスト・ルノワールが初期のころに描いた油彩画です。モデルは、裕福なユダヤ人銀行家、カーン・ダンヴェール伯爵の長女イレーヌちゃん。当時8歳だったそうです。E.G.ビュールレ財団館長のグルーアさんによると、ビュールレ氏は1949年にイレーヌさん本人からこの絵を購入したとのこと。すでに77歳になっていた彼女は、作品がビュールレ・コレクションに加わることを喜んでいたそうです。ここからは個人的な感想ですが、ビュールレ氏は工作機械、つまり武器製造で富を築き上げた人で、戦時中はナチス・ドイツも取引相手でした。大戦を生き抜いた絵のモデル、イレーヌさんはユダヤ人であったため、当時相当な苦労をしたことは想像に難くありません。実際、彼女の娘さんは強制収容所で亡くなっています。しかも、イレーヌさんの肖像画は当時その娘さんが所有していたため、ナチス・ドイツにより略奪されてしまいました。戦後はイレーヌさんの元に戻されましたが、そんな経緯を知ると、名画の持つ数奇な運命に複雑な思いを抱かずにはいられません。盗まれたセザンヌも展示!また、ポール・セザンヌの傑作《赤いチョッキの少年》も見逃せません。セザンヌが描いた肖像画のなかでも特に有名な作品です。この貴重な絵画も2008年の強盗事件で奪われた4作品に含まれていました。2012年に同作品がセルビアで発見されたとき、グルーア館長がベオグラードまで引き取りに行ったそうです。「現地の警察本部でこの絵に再会し、そしてほとんど無傷で戻ってきたのを見たとき、いかにホッとしたか、ご想像いただけると思います」と当時の心境を話してくれました。戦争中だけでなく平和な時代でも常に略奪される危険がある名画たち。今、日本でこれらの美しい絵を見られることは一期一会のチャンスなのかもしれません。最後は美しいモネを堪能そして最後の展示室では、クロード・モネの《睡蓮の池、緑の反映》が待っています。高さ2メートル、幅4メートルほどもある大作で、画家が晩年に描いた代表作のひとつです。本作は、門外不出といわれ、スイス以外で公開されるのははじめてとのこと。しかも、撮影もOK。ぜひ記念に撮ってから帰りたいですね。ビュールレ・コレクションとして日本でまとめて鑑賞できるのは、今回の展覧会が最後のチャンス。 東京のあとは、福岡と名古屋に巡回する予定ですので、お近くの会場に足を運んでみてくださいね。Information会期:~5月7日(月)休館日:火曜日(ただし5月1日(火)は除く)時間:10:00〜18:00 ※毎週金・土曜日、4月28日(土)~5月6日(日)は午後8時まで(入場は開館の30分前まで)会場:国立新美術館企画展示室1E料金:一般 1,600円/大学生 1,200円/高校生 800円/中学生以下無料公式サイト:
2018年03月27日「至上の印象派展ビュールレ・コレクション」が2月14日(水)から5月7日(月)まで東京・国立新美術館にて開催される。至上の印象派展 ビュールレ・コレクション チケット情報絵画収集に傑出したコレクターであったスイスの大実業家エミール・ゲオルク・ビュールレ(1890-1956年)のコレクションを紹介する本展。絵画史上、最も有名な少女像ともいわれるルノワールの《イレーヌ・カーン・ダンヴェール嬢(可愛いイレーヌ)》や、スイス国外に初めて貸し出されることになった4メートルを超えるモネ晩年の睡蓮の大作など、近代美術の精華といえる作品約60点を展示し、その半数は日本初公開となる。そこで自身初の音声ガイドナビゲーターを務める俳優・井上芳雄に、収録を終えての感想を聞いた。「読んでいて楽しかったです。僕が読むからそうしてくださったのかわからないですが、ときどき画家の言葉がセリフのように挟み込まれているので、そこはちょっとお芝居するような感じで読ませてもらったりして」と井上が言うように、音声ガイドで紹介するのはルノワールやセザンヌ、モネ、ファン・ゴッホなど展覧会に揃う作品の画家たちのストーリー。「もちろん主役は絵画なので、僕の個性を出すよりはプロのアナウンサーのようにと思って読みました。だけどその中でも(ガイドで)その世界に入り込めるほうが見やすいんじゃないかなということは、やってて思いましたね。一瞬、描いた人が喋り出したのかなってくらいの…錯覚というかマジックがあったほうがいいのかなって。舞台もそうですけど、いかにその世界に入り込むかが面白みであり楽しさであると思うので」。本展の魅力について「絵画自体と絵画の変遷で、二度楽しめます。(ひとりの画家の作品展ではなく)誰かのコレクションがくるというのは、そういう意味で面白いことだなと思いました」と井上。中でも絵画の変遷は演劇との共通点を感じたといい「最初はきっと物を正確に描くことがメインだったと思うのですが、『それだけじゃ面白くない』と違う形で表現する発想とか、それをやり始めた人の困難もあっただろうし、それが認められるようになったり、ビュールレのような人が買うことでも発展したでしょうし…。表現にはこんなに選択肢があって、いろんなトライをしてきた人がいるんだって思うとすごく面白いことだなって。演劇との共通点も感じました」。「舞台もそうですけど、生の迫力ってやっぱり違うと思うんですよ。特に油絵なんかは『こんなに絵の具を塗ってるんだ』とか、大きさとか、質感とか、生で見ないとわからないし」(井上)。そんな本物ならではの迫力を味わえる展覧会。音声ガイド(一台 520円/税込)と共にぜひ堪能して!取材・文:中川實穂
2018年02月01日