いまや日本の文化として広く認知されている“オタク”。だがその独特な世界観は必ずしも万人に受け入れられているとは言いがたい。趣味に賭ける一途な情熱と、あと一歩を躊躇してしまう現実。その両方で揺れ動くオタク少女たちを主人公に、ハートフルな物語とキャッチーな音楽で綴るのが『中野ブロンディーズ』だ。2008年に初演され、大好評につき同年に再演。今回は待望の再々演となるが、メインキャストを増田有華(AKB48)、梅田悠(SDN48)、原望奈美(SKE48)、浦野一美(SDN48)らが務め、東京・サンシャイン劇場は10月6日の初日から早くも熱気に包まれた。「中野ブロンディーズ」チケット情報オタクの聖地・中野ブロードウェイにあるマンガショップ「ブロンド」は、今日も店主・寿美枝(たくませいこ)の温かい人柄に惹かれた少女たちで賑わっていた。そのひとり、マンガオタクの瑞希(増田)は寿美枝が店を閉めることを知り、思わず目にしたポスターの「チアリーディング選手権大会」に出ると言ってしまう。代わりに閉店しないでほしいと懇願する瑞希に、入賞するならと答える寿美枝。早速メンバーを募集する瑞希だったが、集まったのはギャル系ガンダムオタクのエリー(田嶌友里香)、ゲーマーのハスミ(梅田)、ゴスロリファッションのキット(原)。さらにメイドカフェで働くゆずか(浦野)、歴女の松子(小林由佳/G-Rockets)、栃木出身のうさ(中島愛子)といったオタク少女たち。協調性のないオタク達ゆえ、一筋縄ではいかない個性的キャラばかり。それでも次第にまとまりかけてきた瑞希たちだったが、次々にアクシデントが起こり……。本作の魅力はなんといっても“スポーツを通した成長物語”。そこに“オタクあるあるネタ”をテンポよく散りばめたところに、この舞台だけがもつ楽しさがある。さらに自分を表現しようともがく必死感が今回一番強く感じられたのは、まさに日々大勢の中で過ごしているAKB48とその姉妹ユニットのメンバーならでは。一般人ながら偶然参加する音木役の西脇彩華(9nine)とチアのコーチ・沙織役の長谷川桃も含め、全員が一丸となってのチアシーンは圧巻で胸に迫る。舞台稽古前の会見では、「猫背にしてうつむくように」と役作りを話した増田。「皆で力を合わせるストーリーは、お稽古に励んだ私たちと共通してると思います」という言葉に全員がうなずくひとコマも。「観た人に元気を与えたい」(田嶌)、「チームワークを見て欲しい」(梅田)など、キャスト全員がそろって充実の表情。生き生きと息づく彼女たちの今しか見られないその表情は、凡百の“演劇”よりはるかに大きな感動を与えてくれるのだ。公演は同劇場にて10月10日(月・祝)まで上演。その後、10月19日(水)から22日(土)に兵庫・新神戸オリエンタル劇場で公演が行われる。チケットは発売中。取材・文:佐藤さくら
2011年10月07日昨年、短期間の上演ながら口コミで大きな話題を呼び、早くも待望の再演となったミュージカル『サイド・ショウ』。『ドリーム・ガールズ』の作曲家、ヘンリー・クリーガーが楽曲を手がけ、1998年のトニー賞で4部門にノミネートされたブロードウェイ・ミュージカルである。映画『フリークス』(1932年)にも出演した実在の結合双生児、ヴァイオレットとデイジーの光と闇を描く本作。好奇の目で見られがちな物語を骨太な人間讃歌に仕上げたビル・ラッセルによる脚本の力はもとより、日本バージョンの成功は姉妹を熱演した貴城けいと樹里咲穂にあることは間違いない。本番を目前に控えた稽古場でふたりの胸中を聞いた。ブロードウェイ・ミュージカル『サイド・ショウ』出演者の写真穏やかな“普通の生活”を送りたいと願うヴァイオレット(貴城)と、陽気で前向き思考なデイジー(樹里)のヒルトン姉妹。初演では対照的な姉妹がひとつの身体に生まれ、それぞれに愛と人生を希求するところに妙味があった。だが今回は、より細やかな感情のひだをすくいとる表現へ進化し、稽古場でも初演とは異なる心の動きを感じているという。「全然違いますね。もちろん初演の時も最良のものをお届けしたつもりですが、1年半という時間を置いて役を掘り下げた結果、より痛くてより深く、そしてより前向きな物語になったと思います」(樹里)、「自分たちもいろんな経験を経て成長しているだろうし、新しいキャストの方と一からやりとりしたり、(演出の)板垣(恭一)さんから提示される新たな切り口もあって。1か所が変わるとパズルのように他の部分も変化していくから、初演を観た方も新しい気持ちでご覧になれると思います」(貴城)と充実した表情だ。「初演は作り込んでいったけど、今回はどんどん削ぎ落としている気持ち」(樹里)、「シンプルなんだけど、深い」(貴城)と語る通り、稽古場ではこんな体験もあった。「通し稽古をした時に、ふっと姉妹の気持ちを実感できた瞬間があったんです。ヴァイオレットとデイジーは対照的な性格だけど、底の底では本当にふたりでひとりなんだと。『これだ!』っと思って隣を見たら、貴城さんもボロボロ泣いていて(笑)」(樹里)、「樹里さんも泣いてましたよね(笑)。穏やかなヴァイオレットが怒るときはデイジーがなだめるし、明るいデイジーが落ち込むときはヴァイオレットが強気になるっていうのが意図せずに体感できた。『あっ!』と思った瞬間でした」(貴城)。人間は必ずしも一面ではない。普段は隠したくなるような何層にも重なるグラデーションを、真摯に描くからこそ本作は名作と呼ばれるのだろう。全身で役に取り組む貴城と樹里は同時に、宝塚出身ならではの実力で華やかなショー・シーンをも見せる。その絶妙なサジ加減は、日本版『サイド・ショウ』だけがもつ魅力。さらに進化したステージが見られるのは、もうすぐだ。ブロードウェイ・ミュージカル『サイド・ショウ』は、東京・THEATRE1010にて10月1日(土)から10日(月)、大阪・森ノ宮ピロティホールに10月15日(土)に上演される。チケットは発売中。取材・文:佐藤さくら
2011年09月27日「ヒロシです……」から始まる自虐的なネタにもますます磨きがかかり、再ブレイク中のヒロシ。実は初舞台を踏んだ5年前以来、芸人として潜伏中(?)も、意外なほど安定感のある演技を舞台やドラマで見せていた実績を持つ。本作『バッド・アフタヌーン~独立弁護士のやむを得ぬ嘘~』は、そんなヒロシの初主演作にして、初舞台でその資質を引き出した土田英生が演出を手がける話題作。土屋裕一、平田敦子、菅原永二ら実力派キャスト陣とのやりとりも楽しみに、8月13日、東京・赤坂RED/THEATERに向かった。チケット情報舞台は東京郊外の法律事務所。開業したての弁護士・幸作(ヒロシ)は、自宅事務所に客を引っ張り込もうと駅前でティッシュ配りをしたり、親類に頭を下げて回ったりと冴えない日々。妹のはるな(松田沙紀)や友人の純平(土屋)はそんな幸作を心配するが、就活中だったり放浪の旅の準備中だったりで当てにならない。そんなある日、地上げ屋の二階堂(菅原)と武本(今井隆文)が事務所を訪れる。真面目だが気の弱い幸作は、期限までに裁判の依頼がなければ事務所を引き渡す約束をしてしまったというのだ。そこへ偶然訪れた旧友の久子(平田)が夫の翔太(大村学)と喧嘩中と知った幸作は、話をなんとか裁判に持っていこうとするが……。席に着くと、まず細かく作り込まれた舞台装置が目を引く。木の桟の窓ガラスやシールがベタベタ貼られたタンス、70年代風の応接セットなど、昭和の匂いのする自宅をそのまま事務所に設えた様子は、それだけで幸作の実直な人柄を伝えるようだ。短めの七三分けにネクタイを締めたスーツ姿のヒロシがその部屋にピタリとハマり、芸人ヒロシではない、幸作という人物がそこにいることにまず驚かされた。同時に、うつむきがちに自嘲の言葉を吐く幸作は、ヒロシでしか出せないたたずまい。はねっかえりの妹と亡き父との約束を守ろうと精一杯に奮闘する姿がなんともおかしく、普段も仲がいいという土田ならではの、“ヒロシの表と裏”を存分に見せる手錬が心地よい。終始受けの芝居に徹するヒロシを弄る周囲も、男女両方にキラースマイルを連発する土屋、緩急自在の演技で勘違い女を演じる平田、コワモテだが実は寂しがり屋の菅原ら、役者自身の個性でヒロシとの応酬が楽しめるキャスト陣。終盤で弁護士らしいキリリとした顔を見せるものの、すぐに後ろ向き発言を口にする幸作も、つい肩入れしたくなるような愛すべき存在だ。大いに笑った後は、さりげないラストが待っている。人生の一端を垣間見せてくれるような、芝居の楽しさを味わえる一本だ。公演は8月21日(日)まで、赤坂RED/THEATERにて上演。取材・文:佐藤さくら
2011年08月15日アフリカンドラムにモータウン、ゴスペル、スウィングジャズ、ヒップホップまでをブラック・カレッジ・マーチングバンドの演奏スタイルで体感できる舞台『ドラムライン』が、8月9日、東京国際フォーラム ホールCで開幕した。HBCU(Historically Black Colleges and Universities)という黒人学生への高等教育を理念に設立された大学の中でも、マーチングバンドはアメフトのハーフタイムショーを担うなど花形的存在。それだけにHBCUカルチャーの歴史を2時間に凝縮した本作は、生きたアメリカンソウルミュージックを日本にいながらにして体感できる貴重な機会となっている。チケット情報ステージは音楽のルーツである『AFRICA“The Drum”』からスタート。鮮やかな民族衣裳を身にまとったキャストたちが、アフリカから“音”が世界に広がっていった様子を表現。その後は、ユニフォーム姿でいかにもHBCUらしい華やかなショー、さらにティナ・ターナーやテンプテーションズら60~80年代のナンバーを歌い上げるステージへ。マイケル・ジャクソン・メドレーや荘厳さと熱狂が共存するゴスペルライブなど多彩なステージを堪能したら、あっという間に前半は終了。休憩を挟んだ後半は、スウィングジャズの数々の名曲に酔いしれ、コミカルなドラムバトルで笑い、ラストは再び大迫力のHBCU流のショーと、見どころ満載。30名ほどのキャストたちはトロンボーン、トランペット、チューバ、パーカッションなどを演奏しながら、時にはユニフォームを着て整然と、時にはくだけたスーツ姿で粋に躍動感あふれるダンスを披露。マーチングバンドというイメージを超えたエンターティナーぶりに、客席から熱い拍手が贈られていた。初日は観客参加型フィナーレ『聖者の行進』で、チアリーディングの応援用ポンポンを持ってタレントの楽しんごもステージへ。キャストや観客らと楽しそうに踊りながら、最後は「ラブ注入」のポーズを決めて喝采を浴びるひと幕も。終演後に楽しんごとキャストたちとで行われた会見では、「演奏もダンスも歌も全てに興奮しました!」と高揚した表情の楽しんご。「昔、吹奏楽部でコントラバスをやっていたので、その時の思い出がよみがえって……」と意外な過去を明らかにしつつ、「最近小さなことで悩みがちだったんですけど、そんな悩みなんて吹っ飛んじゃいました。もっと頑張らないと!って気持ちになれました」と笑顔でキャストとハイタッチ。喜んだキャストからのハグのサービスに、ますます興奮が抑えきれない様子だった。東京公演は8月14日(日)まで。8月16日(火)から18日(木)まで兵庫県立芸術文化センターにて、8月21日(日)に東京・かつしかシンフォニーヒルズにて、8月22日(月)から23日(火)までは愛知県芸術劇場にて、8月24日(水)から25日(木)と28日(日)にKAAT神奈川芸術劇場にて、8月26日(金)に栃木県総合文化センターにて、8月27日(土)に群馬・ベイシア文化ホールにて公演。取材:佐藤さくら
2011年08月10日