1歳半健診とは出典 : 1歳半健診は、正式には「1歳6か月児健康診査」と言い、各市町村の保健センターなどで主に集団で行われる乳幼児健診(乳幼児健康診査)の一つです。乳幼児健診は、子どもの成長、栄養状態、先天的な病気の有無などを確認するとともに、栄養指導や母親へのサポートを行う機会でもある、大切な健診です。乳幼児健診には、医師、歯科医師だけでなく、保健士さん、場所によっては栄養士、管理栄養士、歯科衛生士、看護師、心理職に従事している人などの専門家がいます。保護者の方の日ごろの悩みや子どもの様子で気になることあれば、積極的に相談してみましょう。乳幼児健診の時期は、1ヶ月、3~4ヶ月、6~7ヶ月、9~10ヶ月、12ヶ月、1歳半、2歳、3歳です。ごく少数、自治体によってその後の4歳、5歳、6歳の幼児健診を行っている場合があります。そして、その中でも1歳半と3歳の健診は母子健康法で定められた健診であり、費用は自治体が負担してくれるため、原則無料となっています。自治体によっては、その他の健診も無料の場合があります。母子健康法第十二条 市町村は、次に掲げる者に対し、厚生労働省令の定めるところにより、健康診査を行わなければならない。一 満一歳六か月を超え満二歳に達しない幼児二 満三歳を超え満四歳に達しない幼児第二十一条 市町村が行う第十二条第一項の規定による健康診査に要する費用及び第二十条の規定による措置に要する費用は、当該市町村の支弁とする。歳半健診は、体の発達を中心に診てきたそれまでの乳幼児健診とは違い、心のと体の発達の両方を診査します。保護者の方の中には、「1歳半健診の内容ってどんなものがあるの?」「子どもの様子が気になる」「母子手帳の項目ができない」など、1歳半健診を受ける前に様々な不安を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。このコラムでは、1歳半健診の目的や内容を、実際に1歳半健診を実際に経験された先輩パパママの経験談も交えながら説明していきます。事前に詳しい内容や、診査項目、その後の結果を知ることで、健診への不安や心配が和らげば幸いです。1歳半健診の目的出典 : 歳半健診では、次のような目的で診査が行われています。1.子どもの体の健康、発達の確認2.子どもの心の健康、発達の確認3.疾患の有無4.子どもとその保護者のサポート1歳半健診とそれまでの健診の大きな違いは、子どもの心の発達も診査することです。それまでの健診では、乳児の体の成長、たとえば、身長や体重、栄養状態などを確認することを目的としてきました。しかし、1歳半ごろからは脳幹支配から大脳支配が優位になるため、心身の発達がより著しくなってきます。そのため1歳半健診では、体の成長だけでなく、運動面、言語、生活習慣、社会性を診ることも目的となっています。たとえば、二足歩行ができるか、意味のある単語を発するか、理解できているか、などの子どもの成長に関することを診ます。それ以外にも、排尿・排便のしつけや、他の子どもへの興味など生活に関することも診査の対象となっています。そして、1歳半健診では、先天性疾患や、斜視、聴覚異常、心音異常、皮膚の異常などの有無を確かめる重要な機会でもあります。子どもの様子により、経過観察の場合もあれば、専門的な病院を紹介してもらえることもあります。とはいえ、心の発達は体の発達と同じように一人ひとり異なります。1歳半は、心身の発達スピートの個人差も大きい頃です。発達がゆっくりな場合でも早期に働きかけることで、遅れを取り戻すことができることもあるので、1歳半健診を受けて現在の発達状況をしっかり把握しておくことは重要です。子どもと保護者へのサポートも健診の大きな目的として位置づけられています。子育てには保護者やお母さんの健康状態はとても重要です。日々の悩みや不安を保健師さんや専門家に相談できるチャンスが1歳半健診です。多くの健診で相談の時間が設けられているので、事前に相談したいことを考えて行くとよいでしょう。そのほかにも、子どもへの栄養指導や、同じ月齢の子どもを持つ保護者との交流の場としての役割も、1歳半健診は担っています。1歳半健診を受けるには?出典 : 一般的には、子どもが1歳半を迎える頃に市区町村から案内が送られてきます。これに詳しい診査日や場所の記載、診査受診券や要綱が同封されています。後の健診の診査受診券やフッ素塗布受診券などが同封されている場合もあります。1歳半健診を受ける時期は、基本的に子どもが1歳半になった月の翌月から健診の対象となっている市区町村がほとんどです。受ける場所は市区町村によって様々です。役所の多目的室、保健センターや保健福祉センターなど。また、医療機関に委託されている市区町村は、住んでいる地域ごとに近くの病院などで行う場合があります。集団健診とは、決まった日時、場所で他の子どもと一緒に健診を受ける健診方式のことです。同じ月齢の子どもや保護者の方と交流の機会にもなります。現在、1歳半健診のほとんどはこの集団健診方式で行われています。一方、個別健診とは、診査受診券を持って指定された病院や、近所の小児科に行って健診を受ける方式です。個人で受けるため、時間や場所が比較的自由に選べます。ですが、1歳半健診において個別健診を採用している、もしくは集団健診か個別健診を選べる市区町村はまれです。お住まいの市区町村が個別健診を行っているか確認してみましょう。1歳半健診に限らず、乳幼児健診は市区町村ごとに手続きや場所、健診内容が異なります。ホームページの情報だけではわからないことや、少しでも疑問に思うことがあったらお近くの市区町村の保健課や保健センターに相談してみましょう。1歳半健診を受ける前に準備しておくことは?出典 : 歳半健診では、保健師さんをはじめ様々な専門家に相談できる機会があります。日ごろの悩み、相談したいことをまとめておくと良いでしょう。悩みや相談ごとだけでなく、子どもの普段の様子、たとえば、食べ物の好き嫌いや歯磨き、断乳・卒乳や睡眠時間など生活についての事柄や、歩行や運動に関することなど、なんでも相談できます。市区町村からの案内に持ち物が書いてある場合はがほとんどですが、以下のようなものを持って行きましょう。・母子手帳・診査受診券(はがきなどの案内)・問診票・案内に書かれた持ち物(バスタオルやおくるみ、尿検査や便のチェック表など)・筆記用具・着替え・オムツ・おしりふき・オムツ用ビニール袋・飲み物・診察券(個別健診の場合)・保険証・健診助成クーポンなど1歳半健診に子どもを連れて行く際のコツ出典 : 歳半頃の子どもにとって、たくさんの人が行き交う健診会場は未知の空間です。お子さんによっては場所見知りをしてしまったり、お昼ご飯やお昼寝の時間に重なったためにグズってしまうことがあるかもしれません。1歳半健診をすでに経験された先輩パパママの1歳半健診の時の子どもの様子を参考にしながら、1歳半健診での工夫をご紹介します。二日目は保健センターにて、歯科医師による診察と歯科衛生士さんからの講話、保健師さんとの面談でした。息子は順番待ちの間も講話の間もずっとウロウロ動き回り、会議用のテーブルの上に上ろうとすることを繰り返し、私はずっとそれを阻止するために話をゆっくり聞けませんでした。いざ、保健師さんに育児のことを相談しようとすると、飽きてしまった息子がギャン泣きで、後日個別面談をする予定になりました。人見知り、場所見知りがとても激しかった息子の一歳半検診で失敗だったなと思っていることがあります。◯語りかけ、説明の不足自覚あります。言葉が出てなかったのであまり語りかけしていませんでした。◯開始時間がいつもの昼寝の時間だったので昼寝を早めようとしたけどうまくいかず、開始時間に眠気のピークになってしまった。◯送迎をわたしの妹に頼んだこと。会場に着いて妹が去ると泣き出し、眠いのも手伝ってそこから一時間ほど泣き止まず。◯抱っこひもを忘れたこと。受付したもののあまりに泣き止まないので検査も受けられず、『落ち着いてからでいいですよ』と後回しに…何しても泣き止まないのでわたしも泣けてきていったんトイレにこもって泣きました(*_*;その後、外を延々と歩き回り息子は眠りました。抱っこひも忘れたことが本当に痛手でした。健診自体は、1、2時間で終了することがほとんどですが、地域によっては長い待ち時間や保護者への指導の時間があります。子どもがぐずらず、診察が受けられるように、お気に入りのおもちゃや絵本を持って行き、長い待ち時間に備えた準備をオススメしますまた、上記の体験談にもあるように、子どもが眠ってしまった場合に備えて抱っこひもなどがあると便利です。1歳半健診当日の流れと診査内容出典 : 一般的な集団健診の1歳半健診の流れと診査内容を詳しく説明していきます。受付時間が決まっている場合と、健診を行っている時間ならいつ来てもよいという場合があります。市区町村からあらかじめ送られてきた問診票、母子手帳と診査受診券で受け付けを済ませましょう。問診票はあらかじめ記入しておきましょう。ここでは、先ほどの問診票を使いながら、実際に保健師さんが子どもの様子を診ます。その後、保護者の相談に乗ってくれます。子どもの様子については一般的に以下の診査項目で確認していきます。1.積み木指先の微細運動ができているかを診ます。具体的に積み木を2、3個積むことができるか、積み木を打ち合わせて音を出すことができるかを確認します。(場所によっては、クレヨンなどで殴り書きをさせて、指先の微細運動を確認することもあります。)保健師さんが「積み木ちょうだい」などの言葉がけをして、他人の言葉を理解できるかを同時に確認する場合もあります。2.指さし意味のある言葉が理解できているか、物事を理解できているかを診ます。犬や車などの絵が描かれたボードを見ながら、保健師さんの「●●はどれかなー」という声掛けに反応して、その絵を指でさせるかを確認します。また絵を見たときに知っているものに関して、「ぶーぶー」や「わんわん」など発語を伴うか確認します。それと同時に会話をしているときに目が合うかなどを確認しています。3.言葉言葉や話しかけに対する反応を見ながら、コミュニケーションがとれるか診ます。名前を呼ばれて反応するか、「バイバイ」と言いながら手を振ると、真似をしてバイバイと手を振るか、「ポイしてきて」といわれてゴミ捨てができるかなどを確認します。これは実際にその場で確認するより、家庭でできているか聞かれる場合が多いようです。上記の項目が必ずできないといけないわけではありません。上記は、1歳半の子どもにとっての一種の目安でしかありません。子どもの心や言葉の発達は1歳半の時点では一人ひとり発達度合いに差があります。また、家庭ではできているけど、その場でできなかった場合は、保健師さんにきちんとその旨を伝えましょう。家庭でできているかどうかも保健師さんの重要な判断材料です。次に、保健師さんが保護者の相談にのってくれます。事前に用意してきた相談内容を相談してみましょう。市区町村によって、相談は最後になる場合もあります。出典 : 歯の萌出(ほうしゅつ)があるか、乳歯の本数はいくつか、生え方は正常、口内環境や、歯磨きがしっかりできているか、虫歯やそのほかの歯科疾患を診ます。一般的な歯科検診のように行います。事前に歯磨きをしておきましょう。市区町村によっては、フッ素塗布を行ってくれます。身長、体重、頭囲、胸囲を測ります。成長曲線と照らし合わせ、順調に成長しているかを確認します。身長は寝て測るものが一般的ですが、立って測る場合もあります。子どもが怖がって泣いてしまって測れない場合などは、保護者の方と一緒に体重計に乗って測る場合もあります。その後、大泉門が塞がっているか、胸の音に異常はないか、皮膚や性器の状態、脚がX脚O脚になっていなかを触診と目視で医師が診ます。ここでは服やおむつを脱ぎます。受付の時点でおむつ一枚になってくださいと指示をだす自治体もあるので、冬場は寒さ対策をしておくとよいでしょう。また、診察では歩行(一人歩き)の確認もします。転んだり、つかまったりせずに歩けるか、歩くと同時に上半身と下半身の協調運動ができているかを確認します。一人歩きができるかは、1歳半の子どもの運動能力を測るのにちょうどよいとされています。ただし、1歳半の子どもの10%程度は歩行が難しいという報告もありますので、子どもが1歳半健診の時点で歩行をうまくできなくても、それだけですぐに心配だということではありません。また普段とは違う環境で子どもが歩行を嫌がったり、上手にできなかったりした場合は、普段の様子などを医師に伝えましょう。新潟県福祉保健部乳幼児保健指導の手引改訂第4版出典 : 結果とともに母子手帳を返却されます。結果を受けて、保護者が気になっていることを相談できます。自治体によっては、問診のときに行われた相談を結果返却のときに行うことがあります。子どものしつけや育児、保護者自身のことなど、なんでも相談できます。また、栄養指導や歯科指導が行われる場合もあります。食事だけでなく断乳、卒乳に関しても相談指導をもらえるでしょう。診査項目によっては、診査する側の目安として、異常なし、要観察、要紹介と判断が分かれています。・異常なし: 疾患の疑いがない・要観察: 診察や問診等で疾病の疑いがあり、保健機関で経過観察の必要があるもの・要紹介: 診察や問診等で所見があり、医療機関等に紹介して診断や治療等を求める 必要があるもの要観察や要紹介となった場合は、医療機関の紹介や、臨床心理士を紹介してくれることもあります。また、アドバイスや指導がある場合や、3歳健診の時まで様子を見ましょうとなる場合もあります。ですが、これはあくまでも目安であり、子ども一人ひとりの状態や緊急性に合わせて医師や保健師がその後の対応を判断します。1歳半健診を受けた後出典 : 歳半健診を経て、目に見える数字や専門家の視点から、子どもの成長や状態を確認できたことは、保護者にとって安心につながるのではないでしょうか。また、子どもの気になっていた様子や、普段の生活での悩みを保健師さんに相談しアドバイスや答えをもらうことで、今後の子育てに対する見通しを持つことにもつながるでしょう1歳半健診を終えると、今後は2歳健診と3歳健診があります。3歳健診は母子保健法で指定された健診なので原則無料ですが、2歳健診は市区町村によって無料であったり、助成金が出たりと様々です。基本的な健診内容は大きく違いませんが、子どもの様子を確認するよい機会ですのでぜひ受診してみてください。再診査とは、当日うまく測定できなかった項目を再度個別で診査することです。子どもの体調や、その日の気分などで泣いてしまって測定が難しかった場合や、判断するにはもう少し様子を診る必要がある場合などに再診査となるようです。再診査と聞くと、保護者の方は不安になったりするかもしれませんが、重篤な疾患などの見落としをなくすための工夫として、それほど重篤な疾患や症状がない場合でも、なるべく再診査を行う、という方針が取られています。ですので、再検査になったというだけで、不安になり過ぎる必要はありません。再診査のほとんどは、指定された日に個別で行われます。保健師さん、場合によっては医師や臨床心理士さんが診査を担当し、より専門的な診断がなされます。再診査でもうまく測定できない場合、再々診査や再々再診査になることもあります。1歳半健診をきっかけに、子どものサポートにつながることも出典 : 歳半健診は、それまでの乳幼児健診と違い、体の発達と心の発達を診る健診です。そのため、この1歳半健診での診査や相談、再審査をきっかけに、必要な治療や支援につながるケースもあります。1歳半という比較的、早い段階で必要な治療や支援につながることで、症状を治すことができたり、改善することができたりします。1歳半健診をきっかけに支援につながった方の経験談をご紹介します。以下は、一歳半健診をきっかけに子どもの発達が気になり、その後、療育や支援を受けられた方の経験談です。こんにちは。昨年ディスレクシア・書字困難と診断された小5の息子がいます。発達障害を知るきっかけになったのが、まさに1歳半健診からです。1.同じ空間にいた子供たちに比べて多動気味でした。一か所に座っていられないのでウロウロしてました。発達に関する診査項目がすべてできなく、即日別室で発達検査と聞き取りが行われたそうです。公的な療育教室を紹介されたので、希望しました。その後、療育教室から紹介していただいた病院を受診することにしました。療育は小学入学前まで受けました。現在は、病院受診継続と学校の支援学級に在籍しながら通常学級に通っています。小学校入学以降は、学習が中心になるので、それ以外のコミュニケーションや感覚統合の練習など、できる限りの準備をしておいたほうがいいと思います。お友達と関係性などに加え小学入学以降は学習が加わってくるので、フォローする内容が確実に増えます。まとめ出典 : 歳半健診は、子どもの心と体の成長を確認し、保護者のサポートを行う大切な機会です。コミュニケーションが取れているか、言葉を理解しているか、歩行できるか、など様々な診査項目があり不安に感じる方もいるかもしれません。ですが、診査を通して、子どもの状況を正確に把握することで、適切な対応や、育児への工夫につながっていきます。早い時期から様々なサポートや子どもに合った環境を用意するには、普段感じている子どもの特性以外にも、専門家の意見などは重要です。みなさんも1歳半検診を通して、ぜひ子どもの様子を普段より深く知る機会にしてください。また、1歳半健診にはさまざまな診査項目があります。おうちではいつも問題なくできているが、当日の子どもの体調や機嫌でうまくできなかった場合はあせらず、普段の様子を医師や保健師に伝えましょう。1歳半健診は、試験のように当日できるかが問題なのではなく、普段できているかが重要です。普段の様子も、医師や保健師には重要な判断材料になります。母子健康法の現状標準的な乳幼児期の健康診査と 保健指導に関する手引き乳幼児期の健康診査と保健指導に 関する標準的な考え方
2016年09月02日新版K式発達検査とは?出典 : 新版K式発達検査は、子どもの心身の発達の度合いを調べ、それを療育などの子どもの発達支援に役立てるための検査です。1951年に嶋津峯眞、生澤雅夫らによって、京都市児童院(1931年設立、現・京都市児童福祉センター)で開発されました。最近では、おもに自閉症などの発達障害の診断に使われています。新版K式発達検査の歴史をたどると、1980年に「新版K式発達検査」が刊行されたときの適用年齢は0歳~10歳でしたが、1983年の「新版K式発達検査増補版」では、12歳、13歳までに拡張され、さらに2001年に刊行された「新版K式発達検査2001」では成人までに拡張されていることが分かります。このように、新版K式発達検査は改訂を重ねながら、徐々に適用年齢が拡張されてきています。この記事では、新版K式発達検査2001について紹介していきます(以下、新版K式発達検査と表記します)。発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン国立特別支援教育総合研究所発達検査そもそも「発達検査」とは?「知能検査」との違い出典 : 発達検査は心理検査の一つであり、おもに、乳幼児の発達状態を適切に把握するための判断材料として使われています。発達検査と同じように使われている心理検査に知能検査というものがありますが、発達初期にある乳幼児の発達状態を、通常の知能検査によってとらえることは困難だと考えられています。なぜならば、乳幼児は心理的、身体・運動的、社会的側面の発達が十分でないため、知能のみを検査によって測定することは難しいからです。最近では発達検査や知能検査の検査結果を基に、その人に合った支援や学習指導の方向性のヒントを得ることを目的として、ウェクスラー知能検査や田中ビネー知能検査、KーABC知能検査、新版K式発達検査などが日本でよく使われています。では、知能検査と発達検査の具体的な違いはなんでしょうか。知能検査は、知能を精神年齢、IQ(知能指数)、知能偏差値によって測定するための検査です。これに対して発達検査は、被検査者の精神年齢を示す発達年齢(Developmental Age:DA)と、認知面・社会性・運動面などのいくつかの観点から発達の度合いである発達指数(Developmental Quotient:DQ)を調べ、それを療養に役立てるために行う検査です。なお、どんな場合にどんな検査が適切であるかどうかの判断基準は、検査を実施する機関によって異なる場合が多いです。発達検査と知能検査、どちらを受けるべきか、まずは専門機関に相談して判断しましょう。てんかん情報センター発達検査とは?国立特別支援教育総合研究所発達検査新版K式発達検査の特徴出典 : 新版K式発達検査では、被検査者の発達の状態を、精神発達の全面的な進みや遅れ、バランスの崩れなどさまざまな諸側面においてとらえることができます。検査は、「姿勢・運動」(P-M)、「認知・適応」(C-A)、「言語・社会」(L-S)の3領域について評価されます。なお、3歳以上では「認知・適応」面、「言語・社会」面に重点を置いています。また、乳幼児向けの検査用具には、振ると音が鳴るガラガラや積木、ミニカーといった乳幼児にとってなじみのある材料が使われています。このような検査用具を使うことによって、子どもの自然な行動が観察しやすい検査となっています。検査者は検査結果だけでなく、言語反応、感情、動作、情緒などの反応も記録し、総合的に判断します。新版K式発達検査の対象や実施頻度出典 : ここでは、新版K式発達検査が対象とする年齢の範囲、実施時間や頻度について説明します。■適用年齢の範囲:生後100日から成人新版K式発達検査の適用年齢は成人までとなっています。ただし、知能の発達程度が生活年齢(CA)の何歳に相当するかを示した精神年齢の適用範囲では、14歳、15歳級までとなっています。(生活年齢とは、暦年齢を指します。)なお、どのような発達段階であっても適用可能です。■実施時間:15分~60分程度生活年齢(CA)によって検査用紙が異なるため、実施時間も年齢に応じて異なります■実施頻度:検査結果による検査の結果、とくに発達が遅れていると考えられる子どもの場合は、1回の検査で障害の有無を決めず、検査を受けた後の経過を観察することが必要です。経過観察のための間隔は、1歳未満は1ヵ月以上、1歳~3歳未満は3ヵ月以上、3歳未満は6ヵ月以上、学童期以降は、1年~2年以上あけることが望ましいとされています。経過観察を終えて、再検査する場合が多いようです。発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン国立特別支援教育総合研究所発達検査新版K式発達検査2001の課題と有用性 ─精神遅滞の定義の視点から─新版K式発達検査の検査方法出典 : 新版K式発達検査の検査形式は1対1(検査者と被検査者)の個別式検査です。検査実施の際には、被検査者と検査者は向かい合うのではなく、隣に座ることが原則となっています。新版K式発達検査では、生活年齢(CA)にしたがって、検査用紙が第1葉(よう)から第6葉までの6枚に分かれています。また、検査課題に対し、被検査者が過度に緊張している場合は強要せず、興味や注意が持続させられるよう気を配り、十分に力を発揮できるよう配慮されています。検査では、検査結果だけでなく検査用紙の空白の部分などを利用し、できる限り被検査者を観察した内容を書き留めることが望まれています。『発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン』によると、新版K式発達検査の検査用紙に配置されている検査項目の生活年齢(CA)は以下のようになっています。・第1葉0歳0ヶ月~0歳6ヶ月・第2葉0歳6ヶ月超~1歳0ヶ月未満・第3葉1歳0ヶ月~超3歳0ヶ月未満・第4葉3歳0ヶ月超~6歳6ヶ月未満・第5葉6歳6ヶ月超~14歳0ヶ月未満・第6葉10歳0ヶ月超~成人(第5葉と第6葉は一部重なりがある)実施時間は、検査用紙によって異なります。第1葉は比較的実施時間が短く、第5葉や第6葉は、実施時間が長い場合が多いようです。発達障害児支援とアセスメントに関するガイドライン検査を受ける前にまずは専門機関で相談を出典 : お子さんやご自身の発達検査、または知能検査の受診を検討する際は、まずはお住まいの地域にある身近な相談窓口に行くといいでしょう。事前に予約が必要な機関もありますので、相談機関に問い合わせてみてください。また、子どもか大人かによって、行くべき相談機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童相談所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など自宅の近くに相談機関がない場合には、電話での相談をすることができる場合もあります。新版K式発達検査の受検方法・費用など出典 : 発達検査や知能検査は、公的病院や民間病院で受けることができます。精神科や臨床心理士による検査が受けられる病院を受診するといいでしょう。「児童発達支援センター」などで受けることもできます。発達検査や知能検査の受け方、費用は、検査内容や病院によって異なります。総合病院などの公的病院で新版K式発達検査を受ける場合は、保険内診療となり、その際は、診療報酬点数の規定に基づき、負担費用はおおよそ840円(3割負担の場合)となります。また、診断書もしくは報告書を書いてもらう場合には、別途料金がかかります(「検査報告書」については後述の『検査報告書の活用』をご覧ください)。こちらの料金は病院ごとに異なりますので、直接病院に問い合わせてみてください。一方、個人のクリニックなど民間病院で検査を受ける場合には、すべて自費での診療となります。検査は基本的に誰でも受けることができますが、特に発達に関して気になる点がない場合は自費となります。こちらの料金設定も各病院ごとに設定されていますので、受診する病院に問い合わせてみてください。診療報酬点数表サクセス・ベル株式会社医科診療報酬点について日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」発達評価(アセスメント)について出典 : 新版K式発達検査の発達評価(アセスメント)では、被検査者の生活年齢(CA)に合った行動発達がみられるかどうかを観察することによって、発達が標準的な過程をたどっているかを判断します。たとえば、標準的な発達だと1歳前後で歩行を獲得しますが、同じ年齢で獲得していない場合は標準的な過程をたどっていないと判断されることが多いです。また、新版K式発達検査では、検査用具を子どもがどのように扱うか、あるいは検査者の教えに対して被検査者がどのように応答するかといった点にもとづいて、発達の評価をおこないます。なお、この検査は、乳幼児や児童の精神発達の状態をとらえるための検査であって、発達スクリーニングを目的としているものではありません。発達スクリーニングとは、精密検査を要するものと要しないものとをふるい分けることです。つまり、この検査は発達状態を細かく分析するものではなく、精神発達の全体的な進みや遅れ、バランスなどの全体像をとらえるための検査になります。国立特別支援教育総合研究所発達検査国立特別支援教育総合研究所アセスメントについて発達スクリーニング検査検査報告書の活用出典 : 新版K式発達検査には、検査後にやるべきことを示してくれる「検査報告書」というものがあります。機関によっては、検査後に具体的な数値や詳細を示した「検査報告書」を作成していただけない場合があるようです。よって、確実に具体的な数値や詳細を確認したい場合は「検査報告書」の作成を依頼する必要があります。以下に、実際に「検査報告書」を依頼した例として、発達ナビ『家庭での具体的な配慮が分かる!発達検査の「検査報告書」とは?』の記事から引用させていただきます。検査結果の詳細が知りたいと病院へ伝えたところ、有料(2700円)で「検査報告書」を作成することができると聞き、その作成を依頼しました。「検査報告書」には次の内容が書かれていました。(1)数値結果(2)検査結果から言えること(3)日常生活上配慮していただきたいこと(2)では、各課題での取り組み方と課題の通過・不通過の理由について詳しく記載されていました。例えば「ことばのみの質問では、そもそも相手のことばに注目を向けること自体が難しかったり、注目を向けることはできても”何が求められているか”という課題の意図を把握しきれないと言えます。」といった具合です。ここから、次女への問いかけ・指示を言葉のみで伝えた時に理解するのは難しいということを理解することができました。(3)では、日常生活で必要な具体的配慮が10項目も記載されていました。例えば「働きかける際には、何をすべきか、何か求められているのか、が把握しやすい見る手がかりに簡潔なことばを添える形で示していくよう心がける」などです。それまで次女が私の指示を聞かないことに苛立つ場面も多かったのですが、「本人が理解しやすい方法で伝える」必要があることがわかりました。このように、「検査報告書」を依頼すれば、詳しい検査結果を知ることができます。無料で「検査報告書」を作成してくれる機関もありますが、検査形態や「検査報告書」の費用は機関によって異なりますので、詳しくは受診する病院に問い合わせてみてください。まとめ出典 : 新版K式発達検査は、ウェクスラー知能検査(WISC・WAIS)や田中ビネー知能検査などの知能検査と同様に、その人に合った支援や学習指導の方向性のヒントを得ることを目的としています。検査を受けて診断結果を知るだけではなく、被検査者の得意不得意を見極めて、ひとりひとりに合った困りごとへの対応を心がけることが大切です。なお、検査を受ける機関によって診断方法や費用が異なりますので、受検を検討される方は、相談機関に相談してみてください。発達ナビQ&A新版K式発達検査で1歳ほど発達が遅いという結果が出ました
2016年08月22日広汎性発達障害(PDD)の原因は?出典 : 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の診断基準である『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の診断カテゴリでは、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という5つの障害が含まれています。広汎性発達障害は、最新の診断基準であるアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害というカテゴリに変更されています。また、広汎性発達障害の障害名、症状の中には自閉症スペクトラム障害の概念では除外されたものも含まれています。ですが、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明します。広汎性発達障害のはっきりとした原因はまだ解明されていませんが、脳の機能障害がその原因と考えられており、親の子育て方法が原因で起こるものではありません。このうち、レット障害(レット症候群)についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因であることが分かっています。ほかの障害についても最近では遺伝的要因の関与が有力視されていますが、必ずしも単純に親から子どもへ遺伝するという意味ではありません。遺伝的要因と環境要因が複雑に相互に影響しあっていることが原因ではないかと言われています。しかしながら具体的な障害の原因やメカニズムは分かっておらず、様々な説が議論されている段階です。広汎性発達障害って治療できるの?出典 : 広汎性発達障害を根本的に治療する薬や手術といった医学的な方法はありません。しかし、広汎性発達障害による困難を緩和・解消するための教育・療育によるアプローチは存在します。本人が困難への対応法を学んだり、困難を未然に防ぐための環境調整をすることで、生きやすい環境を作っていくことが可能です。広汎性発達障害のある人はその特性ゆえに、生活する中で様々な困難にぶつかりがちです。他者の感情の読み取りが困難なため、会話の意図を誤解して受け取ったり、コミュニケーションがかみ合わなかったりする場合があります。抽象的な指示が理解できないために同じミスを繰り返したり、こだわりのため順番やルールを守れずトラブルになったりすることもあります。中には自分に自信をなくしたり、周りに強い被害者意識を持ってしまうこともあります。こういった日々の困難さが引き金となって、うつ病やひきこもりなどのいわゆる二次障害が発現することもあるのです。特に思春期以降の不安障害や気分障害の予防が大切です。広汎性発達障害の特性による困りごとを緩和するのに加え、こうした二次障害のリスクを極力なくすためにも、周りが障害の特性についてよく理解し、どのように対応すれば本人が行動しやすいか、生きやすいかなどを考えていくことが必要です。また、てんかん発作や感覚過敏など、一部の症状に対しては薬物療法によって症状を緩和できる場合もあります。うつ病や睡眠障害などの二次障害に対しても精神安定剤などの薬物治療が行なわれることもあります。これらの二次障害に対する治療の一つとしては、心理療法である認知行動療法の有効性が示されています。広汎性発達障害の治療の判断基準は?出典 : 広汎性発達障害は主に「社会性・対人関係の障害」「コミュニケーションや言葉の発達の遅れ」「行動と興味の偏り」の3つの症状が現れると言われています。専門機関においても上記の3つの症状が見られるかを本人や保護者への問診や本人の行動観察などから評価・判断します。親が気づく子どもの症状としては「視線を合わせない、または避ける」「言葉の発達が遅い」などの症状がよく挙げられます。また、広汎性発達障害のある人のほとんどに何らかの感覚過敏が見られます。例えば、小さな物音を怖がったり(聴覚過敏)、抱っこされることを嫌がったり(触覚過敏)、偏食が多い(味覚過敏)などの感覚過敏があります。広汎性発達障害の症状は上記のように複数存在しますが、特定の症状がでたら治療が必要という明確な線引きはできません。また症状ごとに対処法や治療プログラムは異なります。本人が特性による困りごとに直面している場合、専門家による何らかの治療や支援が必要になると言えるでしょう。障害ではないかと気づいた場合には、まずは近くの保健センターや子育て支援センター、児童発達支援センターなどの専門機関に相談するようにしましょう。広汎性発達障害の治療法と治療を行う年齢は?出典 : 広汎性発達障害の根本治療はできませんが、症状を緩和するためには療育的アプローチと薬物療法の2つが効果的です。■療育療育は何歳からでも始めることができ、なるべく早くから通うことが推奨されます。療育とは、以下のように定義されています。療育とは医療、訓練、教育、福祉などの現代の科学を総動員して障害を克服し、その児童が持つ発達能力をできるだけ有効に育て上げ、自立に向かって育成することである。■薬物療法広汎性発達障害そのものを根本的に直す薬はありませんが、特定の症状を緩和するために使用することがあります。薬によって開始できる年齢や症状が決まっており、人によって副作用がある場合もあるので、主治医とよく相談し、用法用量を守って服薬していくことが大切です。薬物療法は、症状を一時的に抑えるためのものであり、症状が軽減している間に、教育や支援を行うと効果的であるともいわれています。治療を終える判断基準については、根本治療ができないため、はっきりと決まっているわけではありません。ですが、本人が特性への対処法を習得したり、環境調整を行ったりすることで困りごとが緩和されれば、治療が必要のない状態になることも少なくありません。しかし、進学や引っ越し、転職などの大きな環境変化によってさまざまな困難が再発する可能性もあるため、十分なフォローが必要です。広汎性発達障害の具体的な療育法・治療法出典 : 療育の遊びを通じてコミュニケーションの取り方を学んだり、友達を作ったりすることができます。また、ストレスを抱えがちな親にとっても療育の場は相談できる場所であり、同じ悩みをもつ親同士の交流の場所にもなっています。療育の効果は個人差があり、子どもに合った療育が必要となりますが、子どもにとっても親にとっても療育は心の面の大きなサポートになると言えるでしょう。広汎性発達障害の療育方法は様々ですが、下記の4つがよく知られています。それぞれの位置づけは異なりますが、ここでは簡単に概要のみを説明します。■ABA(エービーエー、Applied Behavior Analysis/応用行動分析)人間の行動を個人と環境の相互作用の枠組みの中で分析し、問題解決に応用していく理論と実践の体系です。広汎性発達障害に対する療育だけでなく他の障害や教育、福祉、医療、スポーツ分野でも利用されています。■TEACCH(ティーチ、Treatment and Education for Autistic and related Communication handicapped Children)米国ノースカロライナ州で生まれた、自閉症スペクトラム障害の当事者とその家族を障害支援する総合的なプログラムです。※自閉症スペクトラム障害とはレット障害を除く広汎性発達障害を指します。■PECS(ペックス、Picture Exchange Communication System)絵カードを使ったコミュニケーション援助プログラムです。上記のABAの原理に基づいて作成されています。■SST(エスエスティー、ソーシャルスキルトレーニング)対人関係をうまく行うための社会生活技能を身につけたり、障害の特性を自分で理解し自己管理をするためのトレーニングの総称です。紹介した療育方法はごく一部ですが、療育機関ではこれらの療育理論や方法を複数組み合わせたり、独自のプログラムを利用して、子ども1人ひとりにあった療育方法が行なわれます。広汎性発達障害の根本的な治療としての薬物療法はありませんが、一部の症状に対しては対症療法として薬を使用することがあります。例えば、パニック症状を緩和するためには抗精神病薬、てんかん発作や感覚過敏には抗てんかん薬などが処方される場合もあります。その他様々な症状に対して薬物療法が行なわれますが、薬は一時的なもので、症状が完全になくなるというわけではありません。また薬には副作用が出ることもあります。薬の使用は必ず医者の指示を守りながら使うようにしましょう。適切な治療やサポートを受けられない場合、広汎性発達障害の主症状とは異なる合併症や状態を引き起こしてしまうことがあります。このような症状や状態を、一般的には「二次障害」と言うこともあります。注意すべき症状・状態には以下のようなものがあります。・気分障害(うつ病など)・不安障害・睡眠障害・不登校やひきこもり・アルコールなどの依存症などこのような症状や状態が現れた場合には専門の相談機関や医療機関で早期に相談・治療を開始しましょう。二次障害の治療には、それぞれの症状によって認知行動療法などの心理療法的アプローチや薬物療法などが用いられます。二次障害の予防のためには環境調整や周囲の理解、親や家族以外にも本人が信頼して相談できる人間関係を作ることなどが大切です。接し方で大きく変わる!広汎性発達障害の子どもへの接し方のポイント出典 : 広汎性発達障害のある子どもの中には、使っている言葉の意味を理解していなかったり、遊びのルールを理解するのに時間がかかってしまう子もいます。その際は絵や写真を使うと、理解しやすくなる場合があります。また、あいまいな表現は苦手なので、できるだけ具体的な言い方をするようにしましょう。何度叱っても同じことを繰り返してしまうために、親もイライラしてつい大声で叱ってしまうかもしれません。広汎性発達障害のある子どもは恐怖心でトラウマになりやすい傾向にありますので、大声で叱ってしまいそうになったら一度その場を離れるなど、冷静になるよう心がけてみてください。広汎性発達障害のある子どもが適切な行動を習得するまでには、根気強く教える必要があることを理解しましょう。叱るときには感情的にならず、具体的に注意する方が効果的です。上記でお伝えしたように写真や絵を使うなど、どうすれば上手く伝わるかを試行錯誤することも大切です。手をひらひらさせたり、ぴょんぴょん飛び跳ね続けたりするなど、広汎性発達障害のある子どもの中には同じ行動を長時間続ける常同行動が見られる場合があります。これらは視覚支援によって見通しを持てる環境を作ったり、コミュニケーションスキルを学んだり、適切な遊びにかえることなどで改善することが多いです。無理に止めさせようとするとパニックに陥ることもあるため、何回やったら終わりと決めたり、何か違うことに集中するための課題などを与えてあげたりするとよいでしょう。広汎性発達障害の子どもを持つ保護者は、できないことや、やめさせたい行動が多く目につき子育てが不安になってしまうこともあるかもしれません。ですがマイナス面ばかりに目がいかないように、得意分野を見つけて、できることを増やすことが大切です。また、ちょっとしたことでも褒めることが子どもの自信につながります。広汎性発達障害のある子どもの子育ては通常に比べて少しコツが必要になってきます。家族だけで解決しようとするとつまづくことも多いため、プロの手を借りて、子育ての仕方を学んでいくのもおすすめです。ペアレントトレーニングでは褒め方のコツや上手な指示の出し方、危険な行動を予防する方法などを学ぶことができます。まとめ出典 : 広汎性発達障害の根本的な治療方法はありませんが、療育によってコミュニケーションを取りやすくなったり、生活の困難に対処しやすくなります。そのためできるだけ早く療育をスタートしたほうが、本人の生きづらさも減ると思います。日常生活において不安に思ったりすることもあるとは思いますが、何かあった場合は身近な専門機関に相談してみてください。また、本人にとってよい環境を整えて生きづらさを少しでも減らせるように、周囲の人たちは障害の特性を理解した上でサポートするようにしましょう。
2016年08月17日そのカミングアウトは誰のため?出典 : 発達障害とわかったら、周囲の人に伝えるべきなのだろうか?子どもの特性をどういう言葉で伝えるか?…と、頭を悩ませる方も多いかと思います。しかし、「何のために、そして誰に、どう伝えるのか?」と整理して考えると、答えが出てくることがあるかもしれません。紆余曲折を経て、「息子のために伝えよう」と思えるようになった、私なりのカミングアウトをお話します。息子の障害を隠し続けた理由出典 : 息子が発達障害と診断されたのは7歳のとき。今から7年前のことです。当時は学校の先生へは診断名を伝えたものの、周囲の人にはひた隠しにしていました。学校の先生からは「同じクラスの子どもたちには、伝えたらどうか?」という提案がありました。ですが私はそれを断り、通級指導教室に参加するために、息子がクラスを抜ける際も、「毎週病院へ行っている」と、苦しい言い訳をしていました。周囲にバレないように、細心の注意を払い、息子の通級の送り迎えをしていたのです。当時の私には、息子の障害をどう伝えたら良いのか分かりませんでしたし、何よりも親としての余計なプライドを捨てられず、周囲の偏見を恐れていました。今思えば、息子の障害を受容したつもりでいましたが、気持ちの根底には障害を認めたくない自分がいたのかもしれません。もうこれ以上は誤魔化せない!出典 : そんな中、あるきっかけで息子の障害をカミングアウトすることになりました。通級のたび「病院へ行くので授業をお休みします」と説明されることに混乱した息子が、「ぼくは病院へ行っていない!」と学校でパニックになってしまったのです。息子に予定を偽るなんて、この頃の私は自閉症の子どもの苦手な事を、まるで分かっていなかったのだと思います。このまま偽り続ければ、息子がまたパニックを起こす可能性があります。こうして私は、クラスの同級生に「担任の先生から伝えてもらう」ことを決めたのでした。相手は同級生でしたし「自閉症」という障害名ではなく「苦手なことがあって、それをお勉強しに行っている」という通級の説明を中心に伝えることにしました。「子どもたちを通して、保護者の中で噂が広がるだろう!」私は内心、とてもハラハラしていました。しかし、そんなネガテイブな考えとは裏腹に、噂や誤解は広がりませんでした。少なくとも私の耳には入りませんでした。それどころか、困っている息子を積極的に手伝ってくれる同級生が何人も現れたのです。通級へ行く息子を見送ってくれる子、通級から戻ったときに先生を呼びに行ってくれる子、教室に入れず、1人で給食を食べている息子に、おかわりを持って来てくれる子…。こんな同級生の様子を見て、息子よりもむしろ私が救われたのです。伝えることが息子のためになる、とわかり…出典 : 息子と同級生との関わりを見て、「カミングアウトすることで生きやすくなる場合がある」と知り、私は息子の障害を隠さなくなりました。でも、はじめから障害名だけを伝えることや、懇談会などで大勢を前に伝えることは、ほとんどありません。大切なのは、息子のために、協力者となって欲しい人に、分かりやすく伝えるという視点。また、伝え方も工夫しています。「あれが苦手」「こういう配慮は混乱しやすい」など、ネガティブな言葉だけで終わらずに、療育で学んでいる話など前向きな情報も一緒に伝えるようにしています。ネガティブで深刻な話というのは、聞くだけでも気持ちが重くなり、相手が負担に思うかもしれません。私の経験から言うと、周囲の人は、親が子どもの障害と向き合っているという事実に安心するような気がします。怖かったカミングアウトだけれど、伝え方を考えることで深まったのは…出典 : 診断前は、息子の行動や私のしつけに関して、批判されることもありましたが、障害を受容し、療育に励むことで周囲からの批判は収まってきました。私は今、発達障害児の保護者のコミュニティを運営していますので、息子の障害については、かなりオープンにしています。不思議なことに息子の障害をオープンにしてから、あれ程心配していた嫌な思いをしたことは、ほとんどありません。そしてオープンにするにつれて、私自身の障害への理解、そして障害を受容することも、深まってきたと感じています。カミングアウトは、家族それぞれの形があって当然ですし、私の経験は一例にすぎません。場合によっては、言わないということが賢明なこともあるでしょう。ですが、言う言わないはひとまず考えずに、「伝え方」だけイメージしてみるのはいかがでしょうか。子どものために、「学校に」「友達に」「保護者に」、そして「身内に」、どうやって伝えるか?それは様々な場面にいて、子どもが過ごしやすい環境を考えることでもあります。子どもにも周囲にも、メリットをもたらす伝え方を考えることで、そのプロセスがより子どもを理解し、受容させてくれるかもしれません。
2016年08月17日広汎性発達障害(PDD)の主な症状出典 : 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の診断カテゴリで、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という障害が含まれています。広汎性発達障害の症状として主に下記の3つが挙げられます。1.社会性・対人関係の障害人に関心を示さない孤立型、言われたことに何でも従う受動型、一方的に話し続ける積極・奇異型、横柄な態度を取る尊大型の主に4タイプに分かれます。孤立型の特徴としてよく言われるのが、視線を合わせない(避ける)などの症状です。2.コミュニケーションや言葉の発達の遅れ他人とのコミュニケーションや会話が苦手で、抽象的な言葉の意味や曖昧な表現、文脈を理解できていないなどの症状があります。言葉の発達が遅れる症状も見られるため、3歳になっても会話ができないということで障害を疑う親も多くいます。3.行動と興味の偏りある特定の物事に強い興味やこだわりをみせることがあります。環境の変化や予定の変更を嫌がったり、普段はできていることも初めての場所だとできないなどの症状があります。その結果パニックを起こしてしまう場合もあります。こだわりが強く偏食になったり、同じ行動を長時間続けるなども見られます。また、機械音やサイレンなど特定の音に苦痛を示したり、抱っこを嫌がったりするなど、聴覚や視覚などの感覚過敏が広汎性発達障害のある人の多くに見られると言われています。広汎性発達障害はいつ分かる?診断の年齢は?出典 : 広汎性発達障害は、なんらかの先天的な遺伝要因と様々な環境要因に起因する何らかの障害が脳が発達する時期に起こり、それが成長段階で「広汎性発達障害」として発見されるとされています。要は先天的な素因によって起こる発達障害の一つとして医学的には捉えられています。広汎性発達障害は親のしつけや育て方の問題で起こっているわけではないことがわかっています。広汎性発達障害は、だいたい3歳までの幼児期に何らかの症状が現れると言われています。広汎性発達障害の子どもをもつ親が、言語能力の遅れやこだわりなどの何らかの症状に気づく時期についても3歳未満が多いとされています。また、1歳半健診や3歳児健診などの乳幼児健康診断で広汎性発達障害を含む発達障害に関する何かしらの指摘があり、その後医師の診断により判明することもあります。中には子どもの頃に気づかず、大人になってから広汎性発達障害と診断された方もいます。思春期以降には、不安障害やうつ病などの気分障害・睡眠障害などのいわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その検査を通して広汎性発達障害に気づく人もいます。まだまだ認知度が低い発達障害ですが、本人に何らかの困りごとや症状があることに気づいた段階で早めに専門機関などで相談し、医療機関を受診するなどして、療育などの必要な支援を受けることが大切と言われています。広汎性発達障害の診断基準は?出典 : 一般的に専門機関での診断はアメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)や、世界保健機関(WHO)の『ICD-10』による診断基準によって行われます。アメリカ精神医学会の診断基準である『DSM-5』では広汎性発達障害の診断カテゴリ下にあったレット障害を除くすべての障害名が、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害という診断カテゴリに統合されました。そのため今後「広汎性発達障害」という診断名は少なくなっていくと考えられますが、本記事では行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明しています。以下は『ICD-10』における広汎性発達障害の診断基準になります。以下の基準の中で当てはまる項目が多い場合や気になる場合は、専門機関で相談することをおすすめします。F84.2レット症候群Rett’s SyndromeA.胎生期・周産期は明らかに正常,および生後5カ月までの精神運動発達も明らかに正常,および生下時の頭囲も正常であった.B.生後5カ月から4歳までの間に頭囲の成長は減速し、また5~30カ月の間に目的をもった手先の運動をいったんは獲得していたのに喪失すると同時に,コミュニケーション機能不全,社会的相互関係の障害を伴い,また歩行および/または体幹の協調運動障害/不安定さがあらわれる.C.表出性および受容性言語の重度の障害があり,重度の精神運動遅滞を伴うこと.D.目的をもった手先の運動を喪失時またはそれ以後にあらわれる。正中線上での常同的な手の運動(もみ手や手洗いのようなもの)があること.F84.3他の小児期崩壊性障害Other childhood disintegrative disorderA.少なくとも2歳までの発達は明らかに正常であった.2歳時あるいはそれ以後に,コミュニケーション・社会的関係・遊び・適応行動について,年齢相応の正常な能力が存在していたことが診断に必要である。B.発症と考えられる時点において,それまでに獲得していた技能を明確に喪失していること.診断には臨床的に重要な技能について,次に挙げる領域のうち2項目以上の喪失(できなくなる場合があるだけではなく)が必要である.(1)表出性または受容性言語(2)遊び(3)社会的技能または適応行動(4)排尿または排便のコントロール(5)運動技能C.社会的機能の質的な異常が,次に挙げる領域のうち2項目以上に存在すること.(1)相互的な社会関係における質的異常(自閉症で定義した型)(2)コミュニケーションにおける質的異常(自閉症で定義した型)(3)常同運動や奇妙な運動を含む,行動や関心および活動性の,限定的・反復的・常同的なパターン(4)物や周囲に対する関心の全般的喪失D.障害は,広汎性発達障害の他の亜型,てんかんに伴う後天性失語(F80.3).選択制緘黙(F94.0),レット症候群(F84.2),統合失調症(F20.-)などによるものではない。F84.4精神遅滞[知的障害]および常同運動に関連した過動性障害Overactive disorder associated with mental retardation and stereotyped movementsA.重篤な過動が,活動性と中言い関する次の問題のうち2項目以上に明らかであること.(1)走ったり,跳んだり,全身を使った運動に示される,持続する落ち着きのなさ.(2)じっと座っていられない,常同的な活度に没頭しているときを除いて,ふつうは長くて数秒しか座っていられない(基準Bを参照).(3)静かにしていなければならない状況での強度の過動(4)めまぐるしく活動を変え,通常行動は1分未満しか続かない(時々,お気に入りの活動により長い時間を費やしても,除外しない.また,常同的な活動にひどく長い時間を費やすことがあっても,その他のときにこの問題が存在すればよい).B.行動や活動の常同的・反復的なパターンが,次のうち1項目以上に明らかであること.(1)固定して頻繁に繰り返される奇妙な運動,全身を使った複雑な運動ないし,手をひらひらとさせるような部分的な運動のいずれかがある.(2)過剰で意味のない活動の一定の形の繰り返し,単一の物体(たとえば流れる水)との遊びや,儀式的な行為(1人でしたり他人を巻き込んだり)など(3)反復する自傷行為C.IQは50以下.D.自閉的なタイプの社会機能障害はない.すなわち,次のうち3項目以上を示すこと.(1)社会的相互関係を調整するうえで,視線・表情・姿勢を発達的に適切に使用すること.(2)発達的に適切な,同世代の小児と関心や活動などを共有できる関係があること.(3)少なくとも時々は他人に慰めや情愛を求めていくこと.(4)他人の楽しみを時々は分けあうことができる.社会機能障害の他のタイプ,たとえば見知らぬ人に平気で近づくことなどは,あってもよい.E.自閉症(F84.0とF84.1),小児期崩壊性障害(F84.3)または多動性障害(F90.-)の診断基準を満たさない.F84.8他の広汎性発達障害Other pervasive developmental disordersF84.9 広汎性発達障害,特定不能のものPervasive developmetal disorder, unspecifiedこれは残遺診断カテゴリーで,広汎性発達障害の全般的記載には合致するが,十分な情報を欠く,あるいは矛盾する所見があるために,F84の他のコードのいずれの診断基準も満たさないような場合に用いるべきである。(中根允文ほか/訳『ICD-10精神および行動の障害DCR研究用診断基準』2009年,医学書院/刊p158より引用)自閉症・アスペルガー症候群の診断基準に関しては下記の記事をご参照ください。専門機関での診断は受けるべき?どこへ行けばいいの?出典 : 上記で述べた症状や特徴などが見受けられる場合、専門家に判断してもらうことをおすすめしますが、いきなり専門医に行くことは難しいので、まずは無料で相談できる身近な専門機関の相談窓口を利用するのがおすすめです。また、1歳半や3歳児健診などの乳幼児健康診断がある場合は、医師や専門家もいるのでその際に相談してみるのもよいでしょう。子どもか大人かによって、行くべき専門機関が違うので、以下を参考にしてみてください。【子どもの場合】・保健センター・子育て支援センター・児童発達支援事業所・発達障害者支援センターなど【大人の場合】・発達障害者支援センター・障害者就業・生活支援センター・相談支援事業所など児童相談所などでは無料で知能検査や発達検査を受けられることも多いので、児童相談所で相談するパパ・ママも多くいます。まず身近な相談センターに行って、診断をすすめられたら、そこから専門医を紹介してもらいましょう。自宅の近くに相談センターがない場合には、電話での相談にのってくれることもあります。診断は、子どもの場合、小児科・児童精神科・小児神経科や発達外来などで受けることができます。(大学病院や総合病院などにあります)大人になって検査・診断を初めて受ける場合には、精神科や心療内科、大人もみてくれる児童精神科・小児神経科や精神科など専門の医療機関を受診することが一般的ですが、大人の発達障害を診断できる病院はまだ数が多くありません。上記の相談機関で紹介してもらえるほか、医師会や障害者支援センター、発達障害者支援センターなどでも調べることができます。発達障害の専門機関は他の病気に比べると少ないですが、発達障害者支援法などの施行によって年々増加はしています。以下のリンクは発達障害の診療を行える医師の一覧です。この他にも、児童精神科医師や診断のできる小児科医師もいます。担当者との相性も大切なので、納得のいく医療機関を選ぶようにしましょう。日本小児神経学会 「発達障害診療医師名簿」診断の流れ、必要な持ち物は?出典 : 本人や保護者に対する問診(面接)や行動観察、家族・学校の先生による提供情報の精査などと、専門機関によっては知能検査や発達検査などを実施する場合もあり、筆記や口頭質問などの検査が行なわれ、様々な情報を総合的に評価して診断されます。検査は複数回に分けて行なわれたり、慎重に経過を見ながら行われるため、一度の受診で診断されることはあまりありません。知能検査は、田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)やウェクスラー式知能検査(3歳10ヶ月〜7歳1ヶ月の幼児の場合は「WPPSI」、5歳から16歳11ヶ月の子どもは「WISC」、16歳以上の成人の場合は「WAIS」)などの検査を受けることによって検査結果がでます。特性の現れ方や発達段階などを評価するため「CARS」や「新版K式発達検査2001」、「PEP-R」などを行う場合もあります。初診時に必要な物として保険証、子どもであれば母子手帳などがあります。服用中の薬などがあれば、お薬手帳なども持っていくとよいでしょう。また、生育や発達歴についての問診がありますので、言葉を話し始めた時期や日常生活での困りごとなどをメモして持っていくと質問に答えやすいかもしれません。発達外来などの専門機関によっては保育園や幼稚園の連絡帳、小学校の通信簿やホームビデオなどを参考にする場合もあります。事前に問診票をプリントアウトして持参する機関もありますので、専門機関の公式ホームページをチェックしたり、予約時に電話にて必要な持ち物を問い合わせてみてください。まとめ出典 : 広汎性発達障害の子どもをもつ親の中には子育ての仕方が悪いと自信をなくす方もいらっしゃいます。ですが広汎性発達障害は子育ての仕方が原因ではないことが医学的にわかっています。自信をなくすなど親がストレスを抱えていると、子どもにも気持ちが伝わってしまいます。専門機関に相談したりすることで、同じ悩みを持つ親と知り合える機会も増え、親にとっても子どもにとっても心の面でケアできる可能性があります。まずは相談や診断を受け、少しずつでも広汎性発達障害について理解し、じっくり子どもと向き合っていくことが大切です。広汎性発達障害と診断された場合、年齢に応じた療育相談や、理学療法士・作業療法士などによる個別訓練、てんかんなどに対する薬物療法などが行なわれます(専門機関によって異なる)。一般的に早期療育がよいと言われています。早めに広汎性発達障害と知ることで子どもにあった療育方法を見つけ、生活に必要なスキルを練習することで、子どもと家族にとって生きやすい環境をつくっていきましょう。
2016年08月02日医学的に広汎性発達障害(PDD)の発現時期は分かっているの?出典 : 広汎性発達障害(Pervasive Developmental Disorders:略称PDD)は、コミュニケーションと社会性に障害があり、限定的・反復的および常同的な行動があることを特徴として分類される発達障害のグループ です。世界保健機関(WHO)の『ICD-10』(『国際疾病分類』第10版)の診断カテゴリでは、このグループには自閉症、アスペルガー症候群のほか、レット症候群、小児期崩壊性障害、特定不能の広汎性発達障害という5つの障害が含まれています。広汎性発達障害は、なんらかの先天的な遺伝要因と様々な環境要因に起因する何らかの障害が脳が発達する時期に起こり、それが成長段階で「広汎性発達障害」として発見されるとされています。要は先天的な素因によって起こる発達障害の一つとして医学的には捉えられています。広汎性発達障害は親のしつけや育て方の問題で広汎性発達障害が起こっているわけではないことがわかっています。広汎性発達障害は、だいたい3歳までの幼児期に何らかの症状が現れると言われています。広汎性発達障害の子どもをもつ親が、言語能力の遅れやこだわりなどの症状から何らかの疑いをもつ時期についても3歳未満が多いとされています。また、1歳半検診や3歳児検診などの乳幼児健康診断で広汎性発達障害を含む発達障害に関する何かしらの指摘があり、その後医師の診断により判明することもあります。中には子どもの頃に気づかず、大人になってから広汎性発達障害と診断された方もいます。不安障害やうつ病などの気分障害・睡眠障害などのいわゆる二次障害と呼ばれる症状や状態となり、その検査を通して広汎性発達障害に気づく人もいます。姫路心療内科 前田クリニック 「発達障害とうつの関係」埼玉県総合教育センター 「自閉症の理解と支援自閉症とは」広汎性発達障害の原因は?出典 : 現段階では正確な原因は解明されていませんが、脳機能の障害により症状が引き起こされるといわれています。その脳機能障害は、先天的な遺伝要因と、様々な環境要因が複雑かつ相互に影響し合って発現するというのが現在主流となっている説です。なお、広汎性発達障害という診断名は、アメリカ精神医学会の『DSM-5』(『精神障害のための診断と統計のマニュアル』第5版テキスト改訂版)の診断基準では自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害という診断カテゴリに変更されています。以下の各症状の中には、自閉症スペクトラム障害の概念から除外されたものも含まれています。しかし、行政や医療機関で広汎性発達障害の名称を使用している場合も多いこと、すでにこの名称で診断を受けた人も多いことから、本記事では『ICD-10』の診断カテゴリに準拠して広汎性発達障害の名称でご説明します。以下の図で広汎性発達障害に含まれている各症状の原因について、それぞれご紹介します。Upload By 発達障害のキホン自閉症は脳の機能障害が原因と考えられていて、これには複数の遺伝子が関わっており、最近では父親の高齢化で自閉症の確率が高まるという研究報告や、妊娠時の体内環境の要因などが関連すると言われることもあります。しかしながら、これらは全てはっきりしたメカニズムが分かっておらず、医学的根拠については解明されていません。アスペルガー症候群も自閉症と同様に脳の機能障害である可能性が高いとされていますが、その全てが解明されている訳ではありません。小脳や脳内物質の異常、環境ホルモンやウィルス感染、成長環境での心理的要因など国内外で様々な研究が進められており、アスペルガー症候群の原因について医学的な裏づけを研究している段階です。レット障害(レット症候群)はほとんどが女児に見られる発達障害です。レット障害についてはX染色体上に存在する遺伝子の突然変異が原因だということが発見されました。1999年にMECP2という遺伝子が主な原因遺伝子であることが発見され、その後2004年にCDKL5、2008年にFOXG1という原因遺伝子も発見されています。女性の性染色体はXX型、男性はXY型であるため、レット障害は女児に多いと考えられています。また、男児の場合、遺伝子の異常で流産や死産してしまう可能性が高いですが、男児のレット障害も少数ながら報告されています。レット症候群|難病情報センター小児期崩壊性障害(CDD)はヘラー症候群とも呼ばれますが、その原因は現段階では解明されていません。今まで話していた子どもが言葉を話さなくなるなど精神発達の退行が症状として現れますが、脳や神経系の感染症などを発現後に小児期崩壊性障害となるケースも多く、脂質代謝異常や結節性硬化症など、さまざまな疾患と関連があると考えられています。特定不能の広汎性発達障害(PDD-NOS)は特定不能とあるように、特定の原因は不明とされています。一部では遺伝要因と環境要因による相互作用ではないかと考えられています。自閉症やアスペルガー症候群の診断基準には当てはまらないが、その特徴を一部持っているという場合に診断されることが多いです。広汎性発達障害は親から子どもへ遺伝するの?出典 : 広汎性発達障害は先天的な遺伝的要因が関与している可能性が高いと言われています。双生児研究や家族間研究が盛んに行われてきました。以下のようなデータがあります。広汎性発達障害の一卵性双生児における一致率は70~90%であり、その遺伝率は90%とされている。よって広汎性発達障害は遺伝因子がその発症に大きな役割を果たしていると考えられている。(橋本亮太、安田由華、大井一高、福本素由己、高村明孝、山森英長、武田雅俊「モデル動物を用いた発達障害病態解析」 2009年より引用)一卵性双生児の場合、基本的な遺伝子情報は同じです。その一卵性双生児間で一人が広汎性発達障害である場合、もう一人も広汎性発達障害であるという確率が90%と高いことは、遺伝的要因が影響していると言われている根拠の一つとなっています。一方で、一致率が100%でないということは、遺伝以外の要因があることも示唆しているのです。つまり、広汎性発達障害は遺伝的要因が関係している可能性がありますが、必ずしも単純に親から子どもへ遺伝するというわけではありません。また。遺伝する確率や詳しい原因については研究段階で、発現するメカニズムなどは解明されていないのが現状です。障害のある親から障害のない子どもが産まれる場合もありますし、親族の広汎性発達障害のない場合でも障害のない親から障害のある子どもが産まれる場合もあります。きょうだい間でも上の子が広汎性発達障害だったからといって、下の子も必ず広汎性発達障害になるとは限りません。広汎性発達障害を検査する方法はあるの?出典 : 羊水検査やエコー写真などによって、出生前の妊娠中の段階で広汎性発達障害を検査する方法は今のところありません。原因遺伝子が確定されているレット障害(レット症候群)に関しては、出生後に遺伝子検査ができる場合もあります。しかし、その他の広汎性発達障害については、出生後も血液検査や遺伝子検査といった生理学的な方法で検査することはできません。一般的に子どもになんらかの症状や特性が現れてから、様々な心理検査や知能検査、保護者(親)に対する問診、子ども(本人)の行動観察、学校や家族からの情報提供などによって診断が行われます。診断基準は主にDSM-5やICD-10などが用いられます。診断はさまざまな情報や検査の結果から総合的に行われ、経過を見ながら慎重に行われます。レット症候群の遺伝子異常について|NPO法人レット症候群支援機構HP広汎性発達障害の治療法はあるの?出典 : 根本的な原因が解明されていないため、薬や手術などによる根本的な治療法は存在しません。一般的には環境調整や療育(りょういく)と呼ばれるトレーニングを行い、家庭での対応や専門機関による療育などによって子どもが自立して生活できるよう支援していきます。また、パニック症状やてんかん発作、感覚過敏など一部の症状に対して薬物療法が行なわれる場合もあります。療育は何歳からでも始めることができます。コミュニケーションの取り方がわかったり、療育の遊びを通して友達ができたりする子もいます。ストレスを抱えがちな親にとっても療育の場は相談できる場所であり、同じ悩みをもつ親同士の交流の場所ともなっています。療育の効果は個人差があり、子どもに合った療育が必要となりますが、子どもにとっても親にとっても療育は心の面でもサポートにもなると言えるでしょう。まとめ出典 : 広汎性発達障害の原因は遺伝的要因が有力とされていますが、必ずしも単純に遺伝するという訳ではなく、詳しい原因やメカニズムはいまだ解明されていません。一方で親の子育て方法が原因と言う心因論も誤りです。遺伝かどうか、原因は何かを探るだけではその子の生きやすさにはつながりません。その子が生きやすい環境を作ることがもっとも大切なことです。また、最近では3歳未満で診断されることも多いですが、見た目にも分かりづらいことから大人になるまで広汎性発達障害と気づかなかった方もいます。広汎性発達障害と気づき、療育などの適切なサポートを受けることは本人にとっても親にとっても大切なことです。少しでも気になることがあるようでしたら、専門機関での相談を受けてみてください。
2016年08月01日●連載の目次は こちら から●発達障害についての基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。それは私が実体験を通じて感じていることだ。けれども、知識があったとしても、やっぱり発達障害の子を育てるのは大変! 最終回の今回は、私のそんな心境を綴ってみます。■「発達障害」の子育ては疲れます発達障害についての特集記事を、さもわかったように書いている私。けれども、私自身、いまだに「発達障害の子を育てること」と完全に折り合いがつけられているわけではない。発達障害の子を育てるのは、普通の子育てより疲れる。それは、紛れもない事実だ。少し息子の調子が良いと、その事実を忘れてしまう。そして、普通の子のようなつもりで接していると、ある日ドカンと現実を突き付けられ奈落の底に突き落とされる。そんなことの繰り返しだ。 ■専門家と繋がろう子どもに親が「キレる」ことが多くなったら、そろそろ限界値。赤信号が点滅していると思い、早めに周囲にSOSを出すよう心がけている。私が頼りにしている方々は、今のところこんな感じだ。・家族・保育園の園長をしている友人(専門知識のある一般人)・司馬先生(専門知識のある医師)・小学校の担任の先生・小学校の特別支援学級(通級)の先生(専門知識のある教員)最初に相談する相手は、発達障害についての知識がある人のほうが良いと思う。たとえば、ママ友に愚痴を言ってガス抜きをするのは大切なことだが(私も、よくやっている)、それはあくまで、「ガス抜き」でしかない。「うちの子、発達障害かも!?」と気になっているのであれば、 しかるべき相談窓口 に、一度行ってみたほうが回り道をすることなく、適切な対応策に辿り着けるのではないかと思う。 ■1人で抱え込まないで!「周囲に助けを求められるかどうか?」は、発達障害の子育ての肝だと思う。繰り返すようだが、「発達障害」の子育ては疲れる。「キレイごと」では、どうにもならない現実の毎日がそこにはある。「もうイヤだ!」と思うことがあるのは、当たり前だ。そんなときは「良いママでなければ!」と一人で抱え込まず、周囲に助けを求めよう。私は、夫や長男に「ママを閉店します」と言い置いてプチ家出をしたり、小学校に行って、「最近、大変です」と状況を正直に話して、担任や通級の先生に支援を仰いだりしている。月1回の司馬先生の診察は、自分を客観視できる良い機会になっている。先日、保育園の園長をしている友人にSOSを出したところ、物言いのストレートな彼女からは、「(虐待だと)通報されない程度に、頑張れ!(笑)」と言われた。「すごい励まされ方だなぁ」と笑ってしまったが、しんどいときは、うんとハードルを下げて自分の生活を眺めてみることも効果がある。「頑張りすぎないようにしよう」。そう日々、自分に言い聞かせている。頑張りすぎて、母の心が不安定になるようでは、本末転倒。お母さんの一番大切な役割は、毎日、機嫌よく過ごすこと。そして、わが子をいつくしむことだと思うから。
2016年07月17日●連載の目次は こちら から●発達障害についての基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。それは私が実体験を通じて感じていることだ。今回は、私が質問されて答えに困った「発達障害の診断」について、軽度の発達障害クリニックの院長である、司馬理英子先生にお話を伺った。■診断はレッテルを貼るのではなく、対処法を知るため私は息子を支援学級に通わせていたので、ママ友から子育ての相談を受けることがある。そのときに、よく聞かれることは、「発達障害の診断を受ける必要ってあるの?」ということだ。発達障害は病気ではなく、「脳の発達のかたより」。そうだとすれば、「診断は本当に必要なのか?」と思ったり、「わが子に、発達障害のレッテルなんて貼りたくない」と思ったりするのは当然のことだと思う。「診断は子どもにレッテルを貼るためのものではなく、それによってどんなことで困っているのかを教えてくれるものです」(司馬先生)診断は、いわば大きな方向つけ。「これから何をするのか?」「どんな対処方法があるのか?」を考え始めるスタート地点の指標のようなものだ。もちろん、わが子を育てる作戦(司馬先生は、よく“作戦”という言葉を使われる)を立てるのに、診断を受けるだけでは充分ではない。 ただ、ADHDといってもどんなタイプなのか、その子の能力のどんなところにどう影響しているのか、それらがわかればわかるほど作戦(対策)は立てやすくなる。また診断することによって、子どもが専門家から的確なアドバイスを受けられるほか、親が本や勉強会などから、ピンポイントで情報を得ることもできるようにもなる。■診断を受けるための一般的な経路「発達障害かどうかが気になるのだけれど、誰にどんなふうに相談すればよいかわからない」これも、よく相談される内容だ。一般的には、まずは学校の担任の先生に相談するのが良いだろう。学校には、週に1~2回ほど来て、子どもや保護者の相談に乗ってくれるスクールカウンセラーという職種の人もいる。また、自治体の教育相談所や教育センターなどで、相談業務を行なっていることもある。最近では、発達障害の診断や治療の経験がある小児科の先生も増えているので、かかりつけの医院の先生に相談してみてもよいだろう。■大切なのは、早く気づいて二次障害を防ぐこと私が相談を受けたときに必ず言っていることは、「発達障害の子を育てるのは、すごく大変だし、一緒に生活するのはしんどいよね。でも、発達障害の子を育てる上で、一番大切なのは、二次障害を防ぐことだと私は思っている。診断を受けることで、子どもの特徴に早く気づければ、必要とする支援がわかり、より二次障害を防ぎやすくなると思うよ」ということ。二次障害とは、発達障害に対する対応が十分に行われないために、二次的に起こる問題のことだ。たとえば、学校に行くのをイヤがったり、学校に行けなくなったり、うつ状態になって元気がなくなったり、親にひどく反抗したりというのが二次障害だ。発達障害の子は何かにつけて叱られることが多く、「ぼく(私)はダメなんだ…」というように自尊心が低下しがち。いったん二次障害が起きると、もともとの発達障害そのものへの対応以上に、扱いが難しいこともよくあると言われている。次回は、最終回。「発達障害の子育ては疲れます」です。
2016年07月17日●連載の目次は こちら から●ひとことで「発達障害」と言っても、その状態はさまざま。基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。今回はさまざまな発達障害について、軽度の発達障害クリニックの院長である、司馬理英子先生にお話を伺った。「 発達障害って、何? 」で、発達障害には、おもに以下の3つがあるとお伝えした。今回はその内容を、もう少し詳しく見ていこう 1.不注意・多動性・衝動性が目立つ 「ADHD(注意欠如・多動性障害)」2.人との関わりが難しい「アスペルガー症候群」など「自閉症スペクトラム障害」3.特定の領域の学習がうまくいかない「LD(学習障害)」「発達障害のわが子」と向き合う本(司馬理英子/大和出版) ■ADHD(注意欠如・多動性障害)とは?不注意・多動性・衝動性を特徴とする。たとえば、忘れっぽくて集中力が乏しく、宿題などをしているときに気が散りやすい。落ち着きがなく、いつもそわそわしていて、順番を待てずなんでも我先にとやりたい。こんなふうに、年齢に応じた「注意力や行動・衝動などのコントロール」がうまくできない。そのため、毎日の生活習慣や学校での活動を行うのに苦労をする。■「アスペルガー症候群」など「自閉症スペクトラム障害」とは?「アスペルガー症候群」を含む「自閉症スペクトラム障害」の特徴はおもに「人との関わりの困難さ」にある。言葉やしぐさなどコミュニケーションをする力にかたよりがあり、興味を持つ範囲が狭く、興味のない活動には取り組めない。こうしたこだわりの強さがあるため、毎日の生活がスムーズに進まないこともある。「広汎性発達障害」や「自閉症」も「自閉症スペクトラム障害」に含まれ、なかでも言葉の遅れが見られないものは「アスペルガー症候群」と呼ばれている。 ■LD(学習障害)とは?LDでは特定の学習能力の困難さが見られる。全体的な知的発達に遅れがないのに、特定の学習能力での遅れが、小学校の低学年では1年程度、高学年では2年程度見られる場合に診断される。文章を読むことが困難な状態を「読字(どくじ)障害」、鏡文字が多く見られ、漢字や作文などを書くことに関する遅れを「書字(しょじ)障害」、計算または文章問題など算数の学力がほかの科目に比べて低い場合「算数障害」と言いわれる発達障害は決してまれなものではなく、多くの子どもにみられる。ADHDは5%、アスペルガー症候群などの自閉症スペクトラム障害の子どもは1~2%、LD(学習障害)は10%程度いると言われている。わが子に、こういった傾向を感じるとしたら、まずは本などから子どもへの対応の仕方を学んでみるのも一手だ。たとえば、『「発達障害のわが子」と向き合う本』(司馬理英子/大和出版)は、「ADHDの子どもの特徴」「ADHDの子育てのヒント」「アスペルガー症候群の子どもの特徴」「アスペルガー症候群の子どもの子育てのヒント」と、こどもの傾向別に説明と対処法の項目が分かれており、とても読みやすい。本などから得た情報で、少しでも子育てが楽になったら、ハッピーなことだと思う。また、本を読むことが、子どもへの支援を次の段階に深めるキッカケになるかもしれない。<次回は、「発達障害の診断を受けることは必要?」です。>
2016年07月17日●連載の目次は こちら から●正しい自己認識を持つこと。つまり、発達障害についての基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。それは私が実体験を通じて感じていることだ。そこで、「発達障害って、何?」という基本的な疑問について、軽度の発達障害クリニックの院長である、司馬理英子先生にお話を伺った。■発達障害は「しつけ」や「育て方」が悪いわけではないほかの子に比べ、手のかかるわが子。「やっぱり、私の育て方が悪いのかしら?」と思ってしまうママもいるだろう。「夫に『子どもを甘やかすからだ』と言われる」「忙しくて充分にかまってあげられないからかな?」など、子育てがうまくいかないと、ママは自分を責めがちだ。けれども、「発達障害は、しつけの問題ではありません。多くの場合、生まれつきのものです」と、司馬先生は言う。生まれつきといっても、もちろん、生まれてすぐわかるわけではない。たとえばADHDなら幼稚園や保育園くらいまでは「活発で元気な子」という印象で、小学校に入り、生活の中心が勉強になってくると特徴が目立つ。また、アスペルガー症候群の場合は、赤ちゃんの頃から手がかかる子もいるが、「ちょっと違和感があるな」くらいの子も多い。だからこそ、難しいのだと思う。なぜなら、早い段階から障害に気づければ、親の側も「そういうものだ」と思い、ある意味、納得して育てられる。けれども、「ちょっと変わっているかな?」くらいだと、子どもの問題なのか、親側(しつけ)の問題なのか? というあたりで、ママがひとりで問題を抱え込み、グルグルと悩んでいることも多いからだ。■発達障害は病気ではない 前回 でも話したとおり、「発達障害とは、脳の発達のかたより」だ。発達障害の子どもは、すべての能力に問題があるわけではなく、“特定のある部分の発達だけ”がほかの子どもに比べて遅れている。「発達障害は、病気というわけではありません。脳の発達にかたよりがあったとしても一生がそれで決まってしまうというものでもありません」(司馬先生) ■わが子の特徴に気づいて、必要なサポートをする一般的な発達をとげている子ども(定型発達の子ども)に比べて、ある能力の発達のかたよりが目立っていて、そのために子どもが「生きづらさ」を抱えている場合、学校や家庭での状況、発育歴などのさまざまな情報を元に、発達障害かどうか?を見てみよう。たとえば、「忘れ物」。ADHDの子によく見られる忘れ物は、どの子も多少あるものだが、毎日いくつも忘れものをしていれば、そのために困ることがたくさん出てくる。個性といって片付けてしまうには困難さが際立っている場合、発達障害の診断がつけられる。「発達のかたよりに気づき、早く対処することによって、日常において困ることをずいぶんと減らすことができます」(司馬先生)発達のかたよりは、裏を返せば長所となる場合も少なくない。かたよりに早く気がつけば、子どものいい部分を生かしたり、得意な分野をしっかり伸ばしたりすることに、親子でエネルギーを使うことができる。「だからこそ、早めにわが子の特徴に気づいて、必要としているサポートをしていくことが大切なのです」(司馬先生)次回は、「発達障害のさまざまな種類」を少し詳しくみていこう。
2016年07月16日●連載の目次は こちら から●正しい自己認識を持つこと。つまり、発達障害についての基本的な知識を持っておくことで、当事者(母や子ども)は、随分と楽になる。それは私が実体験を通じて感じていることだ。そこで「発達障害って、何?」という基本的な疑問について、軽度の発達障害専門クリニックの院長である、司馬理英子先生にお話を伺った。■発達障害は、いわば「発達のかたより」育てにくいわが子。私の気にし過ぎかもしれないけれど、ちょっと心配。ママ友に相談すると「うちもそうよ。大丈夫」なんて言われて、「そうかな?」と安堵する。けれども、また別の日には、「これって、やっぱり普通じゃないよな」と思う。「でも、これはこの子の個性で、私の我慢が足りないのかもしれない」。そんな無限のループを、頭の血管が擦り切れるほど何年もグルグルと考え続けていた私。そうした状況にあった私に、司馬先生の発達障害の説明は、非常に腑に落ちるものだった。まず、発達障害の定義だが、「発達障害とは、いわば“発達のかたより”です。最近の考え方としては、全体的な知能の発達には問題がなく、以下のような特徴がある子どもを発達障害としています」(司馬先生)1.不注意・多動性・衝動性が目立つ 「ADHD(注意欠如・多動性障害)」2.人との関わりが難しい「アスペルガー症候群」など「自閉症スペクトラム障害」3.特定の領域の学習がうまくいかない「LD(学習障害)」「発達障害のわが子」と向き合う本(司馬理英子/大和出版) 発達「障害」と書くと、「障害」という言葉から重々しい感じがするが、症状の度合いは重いものから、「診断名をつけるほどではないけれど、特徴が見られる」という軽いものまで幅がある。 ■「発達障害の特徴があるかもしれない」という見方をしてみるママたちがいちばん気になるのは「うちの子が発達障害なのかどうか?」ということかもしれない。けれども、発達障害であったとしても、なかったとしても、子育てがうまくいかないのであれば、子どもの特徴を把握し、ちょっとした工夫をすることで、日々の生活は随分と楽になる。つまり、「もしかしたら発達障害の特徴があるかもしれない」という見方をしてみるのだ。■子どもの特徴に合わせた丁寧な関わり方司馬先生が教えてくださった「発達障害の子育て法」は、子どもの気持ちを尊重し、子どもの特徴に合わせた、子どもへの、より丁寧な関わり方だ。発達障害のない子どもは、さほど手をかけなくても自力で成長していけるが、それでも関わり方を丁寧にしてやることに越したことはない。つまり、子どもが発達障害でなくても、ちょっと似た部分はあるけれど診断されるほどではないというレベルでも、発達障害であっても、同じように使っていける子育て法なのだ。「発達障害かもしれないと怖がってばかりいないで、その子の特徴を見極め、その子に合わせたオーダーメイドの子育てしてみては?」というのが、司馬先生からの提案なのである。<次回は、「発達障害は、“しつけ”の問題なの!?」です。>
2016年07月16日【ママからのご相談】3歳の息子が他の子に比べて落ち着きがなく、ママ友に「発達障害も考えてみたら?」と言われました。発達障害と簡単に言っても一体具体的にはどのようなものがあるのでしょうか?●A. 小児科医師に聞いた3つの代表的な発達障害をご紹介します。こんにちは。ご相談ありがとうございます。ママライターのmomoです。たしかに発達障害といえども、実際どんなもの?というところがありますよね。今回は小児科医師に発達障害の具体的な特徴について聞いてみましたので、ご紹介します。●発達障害の主な種類3つ●(1)広汎性発達障害一般的に『自閉症』や『アスペルガー症候群』といわれるものが広汎性発達障害です。小児科の医師によると、具体的な特徴としては、・人と上手につきあうことができない・コミュニケーションをとりにくい・強いこだわりを持っている・歩き方や走り方などの動作がぎこちないなどが挙げられるそうです。これらの特徴が3歳くらいまでに現れる ことが多いとのこと。3歳くらいだと判断が難しいところですが、不安に思うことがあったら医師や専門家に相談してみましょう。●(2)注意欠陥多動性障害(AD/HD)自分の欲求など、コントロールをすることが難しくそれが行動に現れることで問題視される障害です。医師によると具体的な特徴は、・ひとつのことに集中することができない・落ち着きがなく、じっとしていることができない(多動性)・突発的な行動をとることが多い(衝動性)などが挙げられるそうです。周りの子に比べて落ち着きがなかったり、幼稚園などでいつもクラスから飛び出してしまったりなど、思い当たることがある場合は相談してみましょう。●(3)学習障害(LD)知的な遅れはない ので一見気づかれにくいのですが、幼稚園や小学校に入ると発覚しやすいのが学習障害です。医師によると具体的には、・聞くことが苦手・話すことが苦手・読むことが苦手・書くことが苦手・計算することが苦手などが挙げられるそうです。学習や日々の生活に困難を感じることが多く、周囲の人が早めに気づいて支援してあげることが大切です。----------発達障害は誰かの努力が足りず起きるものではなく、誰のせいでもありません。周囲の人が障害を理解して支えてあげることが大切です。少しでも自分の子に不安に思うことがあれば、医師や専門の人に相談してみましょう。●ライター/momo(ママライター、元モデル)
2016年05月07日脳を育てることと、心を育てることは、なんとなく別のことに思えるかもしれませんが、「心=脳」ということが最近の研究の結果、明らかになっています。以前は、児童虐待の残す傷あとは、「心の問題」であると考えられていましたが、最近の脳科学の研究では子どものときに虐待を受けると、脳の一部に発達障害を起こす出典:日経サイエンス2006年12月号臨時増刊「インタビュー 熊本大学大学院医学薬学研究部小児発達社会学助教授 友田明美 子どもは親を選べない 脳科学は子どもの心を救えるか」ということがわかっているのです。近年話題になっている、突然感情を爆発させて暴力的になる「キレる子ども」になるかどうかも、脳の発達に関係があるそうです。脳の発達の基礎は、幼児期の親子関係の中で作られていきます。そこで今回は、脳科学で明らかにされてきた子どもの脳について紹介します。「キレない」ために大切なのは、脳の前頭前野言葉を覚え、計算し、人の気持ちを感じ取るときに重要な働きをしたり、「キレる」ことのブレーキ役となったりするのは、大脳の前頭前野です。前頭前野は脳の部位の中でも、もっともゆっくりと成長していきます。脳のおおよそは8~10歳くらいでほぼ完成を迎えますが、前頭前野だけは24~25歳くらいまで成長を続けるそうです。つまり、脳の構成がかたまる8~10歳までに脳の基礎を育てておく必要はありますが、大脳の発達は絶えず続き、足りないものがあれば補おうと変容したり、新たな刺激や発想があればいくらでも変わることができたりする柔軟性を持っています。つまり、8~10歳の時期を逃したら手遅れ、ということではありません。このことはしっかり覚えておいてください。「遊ぶことは学ぶこと」なのは、前頭前野の連携を鍛えるため前頭前野は知性を司る領域体を司る領域情動(感情)を司る領域の3つの領域に分かれています。そのうち、知性を司る領域は、体や情動を司る領域とうまく連携できて初めて、十分な発達をとげるのだそうです。脳科学者の篠原菊紀教授によると、ひと昔前は、子ども同士の遊びの中でこの結びつきが鍛えられていた出典:AERA with kids 2006年12月15日 「脳科学 発達行動学から見た早咲き脳 後のび脳」ということです。さらに、「今、ADHD(注意欠陥・多動性症候群)傾向や自閉傾向、LD(学習障害)といった子どもの増加が問題になっていますが、以前は子ども同士の遊びが、そうした障害の出現を抑制していたのではないか」と指摘しています。「子どもにとって、遊ぶことは学ぶこと」と、よく言われますが、先の指摘によるとこの言葉は理にかなっており、外で大騒ぎしながら遊ぶことは、子どもの脳が健やかに発達するために大切なことといえるでしょう。キレにくい子に育てるには、扁桃体の暴走をコントロールさせること前頭前野のある大脳の活動を支えるのは、脳全体の中心辺りに位置する大脳辺縁系です。記憶を司る海馬のほか、扁桃体(へんとうたい)があります。扁桃体は、生き物として「近づくべきか」「これは食べられるか」といった、危険性の判断や恐怖にかかわる部分です。幼児期に虐待されたり、愛情を与えられなかったりすると、この部分が育ち損なう可能性があるといわれています。扁桃体では、「好き」「嫌い」という感情も決めています。ここで判断された「嫌い」という感情が攻撃欲と結びつくと、扁桃体が暴走し、いじめや衝動的な攻撃が生じるのです。扁桃体を暴走させないためには、そのボリュームを増やしてしっかり攻撃欲をコントロールさせることが必要です。そして結果としてこれが、キレない脳、社会性を育てることにつながります。扁桃体は、幼児期に身近な人の笑顔、愛情表現を与えることで成長が促されることもわかっています。自分を育ててくれる親を見て「好き」になり、その好きな親が笑顔で自分を見ている、という経験は、お互いに「好き」という気持ちを共感することです。この体験が他人との信頼関係を築いていく原点となるのです。幼児期のやりたい気持ちを尊重することが脳の健やかな発達につながる子どものうちは、前頭前野が大人のようには完成していないので、大人よりも一時的な「好き嫌い」で物事を判断します。物事の重要性や優先順位を判断したり、本能的な欲望に理性的にブレーキをかけたりするのは前頭前野の活動です。子どもが「やってみたい」と思うことには、危なかったり汚かったり、眉をひそめたくなることもあるかもしれません。ですが、「やってみたい」気持ちをくじけさせてしまうと、せっかく芽生えた意欲をつぶしてしまいます。ルールに従い、我慢する、他人の意図や感情を理解するのは、ゆっくり時間がかかるもの。幼児期に大切なのは、しつけの前に、「やってみたい」意欲を出来る限り尊重し、挑戦させてあげることではないでしょうか。
2015年07月28日