●ワンコインで頼める手軽さで注目昔ながらのビジネスモデルや、廃れつつあるモノやコト――。少しだけ手を加えて“リブート”させると、それが途端、斬新なビジネスに生まれ変わることがあります。そこには多くのビジネスマンにとってのヒントがある、かも。そうしたビジネスモデルにスポットを当て「リブート! “再起業”の瞬間」としてシリーズでお届けします。○「気兼ねなく」頼める、新しいインフラ「今日、遅くなるから、保育園の迎え、お願いできない?」「買い物している間だけ、ちょっとこの子、預かってくれる?」かつては当たり前だったそんな光景も、コミュニティが希薄になった今、珍しいものになった。「ケガをさせたら怖い……」とやたらリスクを気にする風潮も関係していそうだ。一方で、核家族や共働き世帯が今や大多数を占め、「子どもをちょっとだけ頼みたい」というニーズは、むしろ増えているといえるだろう。そんなジレンマを解消するため、株式会社AsMama(アズママ)の甲田恵子さんが立ち上げたのが「子育てシェア」だ。ネットを通じて「1時間500円で子育てを助け合える」、いわばクラウドソーシングのビジネスモデルである。仕組みはこうだ。まずサービスを利用したい親が、事前に子育てシェアのウェブサイトに登録。すでに子育てシェアに登録している友達や同じ幼稚園・保育園に通う“顔見知り“を検索でき、相手の携帯電話の番号を知っていたら、サイト上で連絡できる。もともと仲の良い友人知人に登録を促して、自分に友達申請を依頼するという手もある。まわりに頼れる人がいないという場合は、AsMamaで2カ月間の研修を受けた認定支援者「ママサポーター」と“つながる”必要がある。ママサポーターは全国に点在しており、サイトにログイン後、どこにどんな人が住んでいるのかを確認可能。そうしたママサポーターが開催する交流会を知ることができ、面談を申し込むこも可能だ。その後、利用者が突然の残業で「保育園の迎えに間に合わない」などという時、サイトにアクセス。「午後5時からの迎えをお願いしたい」などと依頼内容を書き込むと、グループの友達にメールが届く。依頼に応えられる人が返信して受注し、送迎などを代わりに行う、というわけだ。利用額は1時間・500円(ママサポーターは600円、元保育士などの有資格者は700円)。現金あるいはクレジットカードによる決済で、預かってくれた人への謝礼となる。またAsMamaは定期的にショッピングモールなどでイベントを開催。子育てシェアの仕組みを知ってもらうのと同時に、「顔見知り」をその場でつくり、気兼ねなく子供の送迎などを頼める“つながり”を増やせるのが目的だ。そのほかにも、協賛する食品メーカーが「食育セミナー」を開いたり、幼児教室が「用事教育に関する講義」を開いたりする。こうした企業の協賛金が、AsMamaの収益源となっているわけだ。現在、子育てシェアは毎月約1000人ずつ登録者を増やし、今や累計3万人超。売上は1億円に迫る。成功のポイントは、ネットによってかつての「気兼ねなく頼める」ムードを創りあげたことだろう。また「1時間・500円」と定額制なことも利用者へのハードルを下げたといえる。個人的に頼みごとをすると、タダで済ますのは心苦しい。だからといって「謝礼はいくら、お礼の品をどうするか」と頭を悩ますのは意外と煩わしい。子育てシェアではそうした煩わしさを解消したことがポイントといえるだろう。「もっとも……」とこのサービスを創ったAsMamaの甲田さんは苦笑いしていう。「立ち上げた当初は今のようなウェブの仕組みもなかったし、ワンコインの発想も無かった。もっといえば、子育て世代の本当の悩みを、私自身がわかっていなかったんですけどね」。●失敗を繰り返し現在のビジネスに○職業訓練校で痛感した「ママたちの悩み」そもそも甲田さんは、超がつくほどのキャリアウーマンで、ワーキングママ。結婚、出産をはさみつつ、IT企業のニフティやベンチャー投資会社で広報・IR等を担当してきた。しかし2009年、キャリアウーマンの肩書は「失業者」に変わった。前年のリーマン・ショックの余波で会社の業績が低迷。3歳の娘を抱えて、リストラ宣告された。これが子育てシェアの萌芽につながる。きっかけは手に職をと通い始めた職業訓練校で、子育てと仕事の両立ができず泣く泣く会社を離れた多くの女性と出会ったことだ。「国をあげて『女性の社会進出』が後押しされているはずが、実情は、育児と仕事を両立できず職場からスピンアウトせざるを得ない女性ばかりだった」。一方で、日中のファミレスや公園を出入りするようになると、育児経験を持ち保育士や幼稚園教諭の資格を持ちながらも「フルタイムでは働けないけれど、何か社会の役に立ちたい」と考えている専業主婦が多くいることもわかった。その瞬間“ピン”ときた。「いつもの日記ブログにその日だけは『両者が繋がるしくみがあれば、子育ても仕事も社会も変わるんじゃないか』と書いたんです。すると普段は4~5件しかレスが無いのに、一晩で200件も書き込まれました。『ビジネスとしてはじめて!』なんて声もあって」。「誰もやってないなら自分がやるしかない」。数々のベンチャー事業をみてきた経験も起業へと向かわせた。そして甲田さんは2009年11月にAsMamaを創業。資金は退職金の700万円をあてた。当時4歳だった娘が大人になった時、仕事か育児かで悩むような世界にはしたくない、と考えたこともモチベーションのひとつだった。「社名の『As』は『~のように』という意味がある。『ママのようになりたい』と子どもたちが親を見て思える社会を創りたい、と考えたんです」。大きな志をもってスタートしたAsMamaは、失敗を繰り返す。最初の失敗は「人を集めること」に力を入れすぎたことだ。知り合いになれる場さえあれば、自然と「手伝ってほしい人」と「手伝いたい人」がつながり、頼り合える関係性が生まれる。そう信じてチラシを配り、公民館などで親子交流会をしはじめた。ところが、回数を重ねれば重ねるほど、ビジネスとしての成長性や参加者から参加費をとることに疑義を持ち始めた。「そこで無料親子コンサートのようなものを開き、とにかく親子の数を集めた。実際に数百人もの集客ができたのですが……」。ところが、無料コンサートだけを目当てに来た人ばかりで、「子育てを助け合える相手を見つけよう」なんて人はほとんどいなかったという。子育て支援とはまったく関係ない、単なる「親子を集めるだけのイベント屋」になっていたわけだ。悩む甲田さんに転機が訪れたのは、あるNPO法人が主宰する社会起業塾に入ってからだった。そこで「実際に利用してくれそうな人の声を1000人集めろ」と課題が出た。「『子育てシェア?利用者の顔が見えない。見えていないんじゃないか?』と問いつめられたんです。言葉につまったし、そのとおりでした。統計データと妄想だけで、本当に子育てシェアを利用したい人の顔や声が見えてなかった」。1000枚のアンケート用紙をつくり、最寄りの駅前で母親たちに声をかけた。朝7時から、雨の日も風の日もとにかく声をかけた。「子育てで困っていることはないですか?」。最初はほとんど無視された。何度もやめようかと思ったという。ただし、400枚ほど配ったあたりで、リアルな声が聞こえ出した。「頼れる仕組みがあればいいけれど、やっぱり前から知っている人に頼めるほうが安心」「何度か友達に子どもを預けたことがあるけど、こちらのお礼がミカン1個だったのに、逆に向こうの子を預かった時に有名店のケーキをもらってバツが悪かった」子育てシェアのウリでもある“顔が見える同士で預かり合う”仕組み、気兼ねなく頼める“ワンコインのやりとり”という着想が、この1000人アンケートから生まれた。「加えて大きかったのは『安心して預けるためには保険がほしい』という声でした。これは、前職で知り合った保険会社の方が役員になったウワサを聞きつけ、直接交渉して保険商品をつくってもらった。粘りに粘っての粘り勝ちでしたけどね」。それが世界ではじめて子育ての互助システムによる損害賠償保険となった。こうして1000人のアンケートによって磨かれた子育てシェアのシステムは、あらためて2013年4月に立ち上がり、倍々ゲームで利用者を増やし始めるようになった。「ちょっと送りだけ頼みたい!」「2時間だけみてもらえる?」。かつて見た頼り合い、助け合う風景は、いま子育てシェアのウェブ上で展開されるようになったわけだ。「子育てシェアの仕組みをもっともっと浸透させて『子育てを1人でやっているの?もっと頼りなさいよ』というのが当たり前の世の中にしたい。さらに将来は子育てのみならず、ほかの生活支援や介護まで利用できるインフラになる可能性もあると考えています」。助け合いや譲り合いといった互助は、カタチを変えて社会に残っている。少子高齢化の一つの解決策を、甲田さんは作りつつあるのかもしれない。○【連載】リブート! “再起業”の瞬間【第1回】「頼り合える関係」をネットで復活 -1000人の声で磨いた500円“子育てシェア”【第2回】日本酒の定期購入サイトSAKELIFEはなぜ伸びる? -「居酒屋チェーンの日本酒を飲んだとき『これチャンスだ』と思った」【第3回】赤ちゃん・子ども用品に特化 - 学生起業家が日本の伝統産業を救う
2015年11月24日岸恵子が、朗読劇に挑戦している。朗読するのは、2年前、自身が上梓した小説『わりなき恋』。人生の終盤に差し掛かった女と男がどうしようもなく落ちてしまった恋の物語は、自身の姿と声で、どのように立ち上がるのか。脚色と衣装も務めて臨んだその舞台の初日、明治座での公演に足を運んだ。岸惠子朗読劇『わりなき恋』 チケット情報駅の雑踏音のなか、小説冒頭のシーンを読む声に合わせて岸恵子が登場し、舞台の真ん中に立った。そのまま朗読の世界に入るのかと思いきや、「みなさまようこそ」と客席に声をかける。ファンにとって嬉しく心憎い演出である。と同時に、「心を開いてお聞きくださいませ」という言葉に、上品な恥じらいも感じさせる。何しろ、朗読とはいえ、自分が生み出した人物たちを演じるのである。面映ゆさがあるのは当然だろう。しかしながら、一度作品世界に入ると、岸の女優魂は一気にスパークした。主人公は、国際的に活躍するドキュメンタリー作家の伊奈笙子、69歳。パリ行きのファーストクラスで隣り合った58歳の男・九鬼の間に生まれた道ならぬ恋に、心が揺らぎはじめる。原作では、世界を駆けめぐる笙子の目線で世界情勢が語られたりもするが、劇化するにあたって岸は大幅にカット。笙子と九鬼の心情に焦点を絞った脚色が功を奏し、いくつになろうが恋とは苦しく切ないものなのだと訴えかけてくる。それでも恋に溺れることが見苦しくないのは、笙子が凛と自立しているからだ。そして、その生き方に説得力があるのは、笙子そのものにしか見えない岸が、その台詞を声にしてくれているからにほかならない。老いの性愛にまで踏み込んで今の高齢者の扱いに一石を投じた原作同様、舞台でも岸は、笙子に託した自らの思いをそのまま自由に、全身から放出する。ピアノ・バーのシーンに、音楽家の細井豊が奏でる生演奏が響くなど、音楽が印象的。そのときどきで笙子のいる場所をイメージした映像が映し出されるのも効果的だった。なかでも、人生の悲哀と愛しさにあふれたラストシーンは、舞台でしか味わえない余韻に浸れるだろう。また、上演後に行われる「岸恵子トークショー」もぜひ聞いてほしい。これまでの女優人生を振り返りながら語られる、この小説と朗読劇への思いを知ることで、今観た世界がより深く豊かになるのは間違いない。公演は7月に大阪、北海道、福岡の各地で上演。9月に上演する東京、神奈川、埼玉の各公演は6月20日(土)午前10時よりチケット一般発売開始。取材・文:大内弓子
2015年06月19日イラストレーターの小川恵子とサイトウケイスケのインスタレーション「メルティングドリームス(Melting Dreams)」が伊勢丹新宿店2階イセタンガールギャラリーで8月26日まで開催されている。今回のテーマ「Melting Dreams」は“夏の暑さに溶けるようなドリーミーな世界”をイメージした。ピンク、オレンジ、黄色などハッピーな色合いの波打つ模様は、「イメージはテレパシー。自分の頭の中で考えていることが直接相手に伝えられたらいいな、という思いを込めて」と小川さんは話す。メインとなるピンクの3枚絵は今年3月に出版された小説『ブランコ乗りのサン=テグジュペリ』(紅玉いづき著、角川書店)の表紙となった作品。「I LIKE」というタイトルのキャンバス地でできた冊子状の作品は、敢えて人物メインではなく、波打つ模様のみの絵にチャレンジした作品だという。今回、コラボレーションしている作家のサイトウケイスケとは大学時代にSNSを通して知り合い、ウェブ上でお互いの作品をリスペクトし合っていた。その後、東京―山形間でお互いの絵を梱包して送り合って制作する“遠距離コラボ”を続けながら、2011年2月に2人展「キス(KKIS)展」を東京・高円寺AMP cafeで開催。今回は2年ぶりの2人展となる。「サイトウくんは全国各地のミュージシャンに自ら絵を渡してコラボしたり、海外のアーティストが来日したらウェルカムボードを作ってアプローチしたり、自分でイベントを企画したり、とてもアグレッシブな人。お互い地方出身というところで気が合うんです」展示スペースでは小川がデザインを手掛ける「スキスキダイスキ(SUKISUKIDAISUKI)」のタイツ、レギンス、キャップ、ピアス、バレッタ、ヘアゴム、ブローチなどのグッズも販売。すべて「自分が高校生のときに欲しいと思っていたものを作っている。だから高校生でも買える価格設定にしています」と説明。ブランドのネーミングについて、「響きがいいな、と思って。ポジティブなイメージのものを出したくてつけました」。舞城王太郎の小説『好き好き大好き超愛してる』は名付けた後に本を読んでファンになったとのこと。今後は、「もっと柄を増やしてテキスタイルのグッズ展開をしていきたい」と語った。熊本県出身の小川は、2006年に東京造形大学映像科を卒業。学生時代は手描きのコマ撮りアニメを制作していた。2007年よりイラストレーターとして活動を開始し、通常はアクリル絵の具でのペインティングとデジタルの制作が中心。2011年頃からテキスタイルデザインを、2012年から「スキスキダイスキ」名でタイツなどのグッズも作り始めた。
2013年08月09日女優の戸田恵子が1月31日(月)、都内で行われた出演作『洋菓子店コアンドル』の特別試写会に登場し、本作に特別協力する辻調グループ校エコール辻東京の講師・大川満氏、プロデュースを手掛けた前田浩子氏と共に舞台挨拶に立った。会場には同校の学生が招待され、大川氏と共同で製作した“大ヒット祈願スイーツ”をお披露目した。伝説のパティシエと呼ばれながら、8年前にスイーツ作りを突如としてやめてしまった十村遼太郎(江口洋介)と恋人を追って鹿児島から東京に出てきた臼場なつめ(蒼井優)。都内で評判の洋菓子店「パティスリー・コアンドル」で出会った2人が、人生を見つめ直す姿を目にも鮮やかなスイーツと共に描く。戸田さんは洋菓子店のオーナーを演じている。「映像がきれいだし、誰もが観終わった後はケーキが食べたくなるはず。撮影中は温度調節をしつつ、みんながケーキを愛した時間だった。いまも特別な愛着があるし、苦労を知ったので心して食べている」と戸田さん。撮影前に同校でケーキ作りを学んだそうだが、「オーナー役だから、お店のそろばん勘定ばかりで、さほど学んだことが活かされなかった」と笑いを誘った。そんな戸田さんに対し、大川氏は「僕も戸田さんのお店で働きたくなりました」とオーナーぶりに太鼓判を押した。この日は主演の江口さんから「撮影中はお世話になりました。学校に伺って、お菓子作りの楽しさを知り、みなさんの真剣な姿に心を打たれました。とにかくパティシエは、人を幸福にする職種だと思います。これからもたくさんの“笑顔”のために、夢を叶えられるように頑張ってください」と心のこもったメッセージが到着。戸田さんはメッセージが読み上げられる間、ポスターの江口さんにマイクを向けて“擬似インタビュー”を披露した。未来のパティシエに向けて、戸田さんは「この道を進むと決めたからには、厳しいこともあると思いますが、へこたれずに頑張ってください。いつかみんなが作ったスイーツをいただけると日が来るのを楽しみにしています」とエールを贈り、「登場人物全員が少しだけ成長できるストーリー。この映画をきっかけに、パティシエになりたいと思う人が増えればうれしい」とアピールしていた。『洋菓子店コアンドル』は2月11日(金)より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開。■関連作品:洋菓子店コアンドル 2011年2月11日より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国にて公開© 2010『洋菓子店コアンドル』製作委員会■関連記事:スイーツ作りが似合う男No.1は藤木直人!向井理、岡田将生ら甘〜いマスクが上位に福岡在住の新人アーティストが東京初ライブ、博多華丸「絶対売れるんです!」と太鼓判ビター&スイートな感動作『洋菓子店コアンドル』試写会に20組40名様をご招待蒼井優が“とっておき”を紹介するスイーツ本…その名も「蒼井洋菓子店」発売決定!シネマカフェ読者ゴコロなんでもベスト5(第10回) スイーツを作るのが似合う俳優は?
2011年01月31日