金沢大学は3月5日、アルギニンバソプレシン(AVP)という神経ペプチドを産生する神経細胞が体内時計の機能に重要な役割を果たし、概日リズムの周期や活動時間の長さを決定すると発表した。同成果は金沢大学医薬保健研究域医学系の三枝理博 准教授、同 櫻井武 教授と北海道大学、理化学研究所の研究グループによるもので、3月4日の米科学誌「Neuron」のオンライン版に掲載された。ヒトを含む哺乳動物のさまざまな身体機能は約24時間周期リズム(概日リズム)を刻んでおり、視床下部の一部である視交叉上核に存在する体内時計により制御されている。同研究グループは、視交叉上核を構成する約2万個の神経細胞の中から、最も多いとされる(約40%)AVPを生み出す神経細胞に目を付け、AVPだけで細胞時計を破壊した変異マウスを作成し、実験を行った。その結果、常に光を遮断した環境でマウスを飼育し、ケージ内を自発的に動き回る行動の概日リズムを解析すると、正常なマウスは24時間弱の周期を示すのに対し、変異マウスは周期が約1時間長くなっていた。1日の活動時間と休息時間を比べると、変異マウスは正常マウスに比べて活動時間が約5時間長くなった。また、明暗サイクルを8時間早めて時差を起こすと、変異マウスは正常マウスに比べ約5日早く新たな環境に対し行動リズムが順応し、体内時計の機能が弱まっていると考えられた。この変異マウスの視交叉上核を調べると、神経細胞間コミュニケーションに重要な遺伝子の中で、AVP産生神経細胞が激減していたほか、各AVP産生神経細胞が刻む概日リズムが弱く不安定で、周期が長くなっていた。これらの結果から、AVP産生神経細胞の細胞時計がきちんと機能することで、神経細胞間コミュニケーションに重要な分子が作られネットワーク機能が高まり概日リズムが安定し、適切な周期および活動時間帯で行動するように調節されることが確認された。これまでAVP産生神経細胞は体内時計のリズムに関与していないと考えられていたが、今回それを覆す結果が得られたことで、同細胞を新しくターゲットとした体内時計を調節する技術の開発につながる可能性が期待される。
2015年03月09日なんだか落ち着かない、手に汗をかく、寝付けない、途中で起きてしまう、このような症状に悩まされている方はいませんか? もしかしたら、それは自律神経失調症かもしれません。原因と予防法を探っていきます。自律神経のバランス、乱れていませんか?自律神経のバランスが乱れているかどうか、なんて自分ではサッパリわかりませんよね。まずは自律神経失調症になると、どのような症状が出るのかみていきましょう。不眠や倦怠感、無気力、頭痛、耳鳴り、多汗、口の渇き、目の疲労、立ちくらみ、食欲不振、吐き気、頻尿などさまざまな症状があるようです。ただ、これだけ幅広く症状があると自分が自律神経失調症かどうかの判断は素人にはとても難しいものだと思います。そこで今回は、自律神経の働きと自律神経失調症を予防する方法を紹介していきます!自律神経失調症は未知の病気自律神経には交感神経と副交感神経の2種類があり、これらは自分の意志で調整することはできない神経と言われています。交感神経は興奮系の働き、副交感神経はリラックス系の働きを担います。これらがバランスよく働くことで、私たちの体は正常に保たれているのです。このバランスが崩れてしまう一番の理由は、ストレスと考えられています。ただ、自律神経失調症についてはまだ完全に判明していないことも多く、治療法が確立していないとも言われています。そのため私たちは、まずは予防を心がけるべきかもしれません。睡眠時は副交感神経を優位に睡眠時にはリラックス系の副交感神経が優位に働いている必要があります。逆に交感神経が優位な状態だと、興奮したままでなかなか眠りにつくことはできません。副交感神経を優位にする方法はいくつかあります。深呼吸したり、寝る前に照明を暗めにしたり、ストレッチをしたり……。好きな小説を読んだり、静かな音楽を聴きながら入眠するのも良いでしょう。睡眠時間が短かったり、起床・食事の時間がいつもバラバラだと自律神経のバランスが乱れやすいと言われています。副交感神経をコントロールして睡眠時間を確保し、生活リズムを整えていきましょう。Photo by Josh Angehr
2015年03月03日自治医科大学は1月15日、マウスを用いた実験によって、末梢投与したオキシトシンが「求心性迷走神経」を活性化して脳へ情報を伝達し、摂食を抑制する新しい経路を発見したと発表した。同成果は、同大学統合生理学部門の岩﨑有作 助教、矢田俊彦 教授らによるもので、2月1日付の米学術誌「American Journal of Physiology - Regulatory, Integrative and Comparative Physiology」に掲載される予定。下垂体後葉ホルモンとして知られるオキシトシンは末梢(腹腔内)投与すると、摂食を抑制し肥満を改善することが報告されているほか、最近では肥満および自閉スペクトラム症患者に対する経鼻投与の臨床試験が行われている。しかし、血中のオキシトシンは脳内に移行しにくいとの報告があり、どのような経路で脳に情報を送っているかは不明だった。実験では、オキシトシンはマウスから単離した求心性迷走神経細胞を活性化した。さらに、オキシトシンをマウスの腹腔内へ投与すると、求心性迷走神経の投射先である延髄孤束核を活性化し、摂食を抑制したという。これらの作用は求心性迷走神経を遮断すると消失した。同研究グループはこの成果について「オキシトシン末梢投与による求心性迷走神経の活性化が摂食を抑制し、肥満・過食に対する有効な治療経路となることを示している」とコメントしている。
2015年01月15日朝、目を覚ましたら、布団の中で身体をこすったり叩いたりしてみましょう。夜のおやすみモードが一挙に活動モードに変わります。体が活動モード(交感神経活性化)になることで代謝が上がり、痩せやすい体質に変わっていきます。■自律神経って何?皆さんも、「自律神経」という言葉を聞いたことがあると思います。少し説明させていただくと、人の神経系統を大きく分けると、自分の意志で動かすことができる「体性神経系」と自分の意志で動かすことのできない「自律神経系」の2つに分けられます。そしてさらに自律神経は、身体や精神を活動モードにする「交感神経」と、身体や精神を休止、リラックスモードにする「副交感神経」の2つに分かれます。つまり、夜は、副交感神経が優位になって身体や脳が休止モードになり、朝になると交感神経神経が優位になって、活動モードになるのです。太っている人は自律神経が乱れていて、副交感神経から交感神経への切り替えが上手くいきません。その結果、日中の代謝が低く「ぼーっと」した状態が続き、太りやすい体質のままでいることが多いのです。■なぜこすったり叩いたりするのか?ではなぜこすったり叩いたりするのでしょうか?これらの行動には、1擦る:身体を目覚めさせる2叩く:身体を戦闘モードにするという効果があります。1で交感神経優位に切り替え、さらに2で戦闘モードに切り替えることで、脂肪燃焼ホルモンの“ノルアドレナリン・アドレナリン・ドーパミン”の分泌を促します。■具体的な方法身体の末端、手先の甲から身体の中心に向かってこすります。そして裏側を通って手の末端に戻ります。他の部分も同じように表から始め、裏を通って末端に戻ります。手・足・お腹の順番でこすりましょう。叩く場合も同様に、身体の末端から中心部に向かってこすりましょう。ここで、注意点があります。優しくなでたり叩いたりしてはいけません。発生学的に皮膚は脳と同じ受精卵の外胚葉から作られていますから、優しくなでられると眠くなります。つまり脳を優しく撫でられているのと同じだからです。アロマオイルで身体を優しくマッサージをされると眠くなるのも同じ理由です。ですから、必ず痛くない程度の強さで擦って・叩いてくださいね。■最後にダイエットの王道は、どこまでいっても運動と食事療法です。でもそれだけだと辛いですね。そこでノウハウが必要なのです。そして、王道とノウハウが組み合わされて始めて、楽なのに綺麗に無理なく痩せていけるのです。(林田玲子/ハウコレ)
2014年12月08日科学技術振興機構(JST)と大阪大学は11月14日、多発性硬化症で神経が傷つけられる仕組みを解明したと発表した。同成果は大阪大学大学院医学系研究科の山下俊英 教授らによるもので、11月13日(現地時間)付けの米科学誌「Cell Reports」オンライン版に掲載された。多発性硬化症は免疫系の異常によって中枢神経に炎症が生じ、神経が傷つけられる難病で、手足の麻痺や感覚異常、視覚障害など重篤な症状が現れる。これまで、免疫系細胞が中枢神経に侵入して炎症を起こすことが神経傷害の原因であることは判明していたが、なぜ炎症によって神経が傷つけられるのかという仕組みはわかっていなかった。近年の研究により、「RGMa」というタンパク質が発生期の神経回路の形成に関わる一方で、免疫反応にも関与していることが明らかとなっている。同研究グループは、免疫システムの司令塔であるヘルパーT細胞の1種である「Th17」が「RGMa」を強く発現していることを突き止め、「Th17」細胞が発現する「RGMa」の役割を調査した。実験では多発性硬化症に類似する脳脊髄炎注を発症するモデルマウスを作製し、「RGMa」の機能を阻害することができる抗体を投与し、症状の変化を検討した。その結果、抗体を投与されたマウスでは四肢の麻痺などの症状が改善されたほか、炎症部における神経細胞の損害が少なくなっていた。また、培養実験によって、「Th17」細胞が「RGMa」を介して直接的に神経細胞を傷つけていることが判明した。「Th17」細胞は多発性硬化症のほか、視神経脊髄炎やアルツハイマー病などにも関わっていることが報告されている。今後、これらの脳神経疾患における「Th17」細胞の役割がより詳細に明らかになることで、有効な治療法の開発につながることが期待される。
2014年11月17日小学校時代を振り返ると、必ずクラスに運動神経がずば抜けてよい男の子がいたと思います。言い換えれば、運動神経の良い子と悪い子の差がすごく歴然としていましたよね。運動能力は、生まれ持ったものがベースにはなっていますが、もともとの運動神経がそれほど良くない子でも、適切な時期に適切な運動をすれば改善できるといわれていることをご存じでしたか? ■子どもの運動神経を伸ばすなら、小学2年生までが勝負! 数年前に、井筒紫乃先生(当時は帝京科学大学准教授。現在は日本女子体育大学准教授)による講座を受講したことがあります。講座の内容は、運動生理学に基づいた、子どもの運動能力についてでしたが、その中でこんなお話しがありました。「運動神経を良くしたかったら、小学校2年生までに運動経験をたくさん積むこと」というものです。実は、子どもが運動能力を伸ばす時期というのは、あらかじめ決まっているものだそうです。今は、幼稚園や小学校のうちからサッカーや野球などを習う子どもたちも増えていますが、「大半の子どもが本格的に運動に取り組む時期は中学生の部活!」というイメージがあった私は、「そんなに早く決まるの?」と驚いた記憶があります。■子どもの運動神経を伸ばすなら、2歳がポイント! その後、興味があっていろいろ調べてみたところ、「2歳」という年齢がひとつのポイントになっていることがわかりました。2歳頃は、運動能力と自立心が飛躍的に発達し、個人差が出てくる時期のようです。たしかに、走ったり、ジャンプしたり、手を使わずに階段を降りたりなど、いろいろできるようになる時期ですね。この頃に積極的に体を動かす機会を作ることで、運動をコントロールする神経が発達し、筋肉や関節の動きがよりスムーズになり、身体のバランスをとることも上手になってくるそうです。■どんな運動が効果的? 最近では、幼稚園や保育園などで運動プログラムを取り入れているところも増えてきました。専門家や先生の指導のもと、子どもたちはさまざまな運動に取り組んでいます。しかし、「そうしたプログラムを行ったからといって、必ずしも運動神経が伸びるわけではない」という研究結果も出ています。東京学芸大学の杉原隆名誉教授による研究チームは2012年に、25m走や立ち幅跳びなど、6つの種目について、9,000人の幼稚園児の運動能力を調べました。比べたのは、マット運動や体操などの体育指導を受けていない子どもと、指導を受けている子どもです。すると、受けていない子どもは30点満点で19点台だったのに対し、指導を受けている子どもの平均は18点台。指導を受けていない子どものほうが、点数が高かったのです。だからと言って、運動プログラムがまったく意味をなさないというわけではありませんが、前出の杉浦名誉教授は、「小さいうちは特定の運動をやることだけでなく、遊ぶことも大事」と提言しています。たとえば遊具を使って登ったり降りたり、手や足を使って逃げる鬼ごっこなどをしたりすることで、バラエティに富んだ運動能力が身につくとも言っています(NHK生活情報ブログより)。■外遊び、うち遊びをたくさん経験しましょう! つまり、運動神経を伸ばすためには、外でいろいろな場所をたくさん歩く、走る、転ぶ、何かに登る、降りるなどの運動を積極的に行います。また、家の中ではパパの体に登ってぐるっと回る、風船を使ってバレーボールするなどの、体を使った何気ない遊びこそが、運動神経を伸ばすにはもっとも効果的なのではないでしょうか。小さいうちからたくさんの筋肉を使って、バランス感覚を養ったり、体の部位を動かしたりすることで、脳がその動きを記憶し、いざ本格的に運動をする時に蘇る、それが運動能力の高さのポイントとなるそうです。子どもにはぜひ、小さい頃からたくさん体を動かす機会を作ってあげてください。
2014年10月04日オムロン ヘルスケアは8月18日、神経障害の診断機器、治療用機器の開発を行う米ニューロメトリックス(NM)と、日本市場におけるNM製「神経伝導検査装置DPNチェック」の独占販売契約を締結。同契約に基づき、8月25日より、「糖尿病性末梢神経障害(DPN)」のスクリーニング検査が可能な「神経伝導検査装置DPNチェック HDN-1000」の発売を開始すると発表した。国内の糖尿病患者は、その可能性が強く疑われる人も含めると約950万人おり、さらにその予備軍が1100万人いると言われている。糖尿病の3大合併症は網膜症・腎症・神経障害といわれているが、中でも初期から進行する神経障害は、糖尿病患者の4割が発症することがわかっており、そのうち、両手両足の末端の神経より障害が進行する糖尿病性末梢神経障害(DPN)は、自覚症状を伴わない場合も多く、足の潰瘍や壊疽など重篤な事態にもつながることが懸念されている。DPNの検査法としては、アキレス腱反射やタッチテストなどの簡便な方法があるが、いずれも客観性に欠けることが課題で、より詳細な検査であり、有効な筋電計などを用いた神経伝導検査もあるが、検査装置が高価であるほか、正確な検査には熟練の技術も必要であることから、神経伝導検査を行える施設は限定的であり、糖尿病治療の現場での制限となっていた。同製品は、末梢の感覚神経の1つである腓腹神経に電気刺激を与え、神経に興奮が伝わる速度(神経伝導速度)と大きさ(活動電位振幅)を測定し、DPNの程度を簡便に検査する検査装置で、くるぶしの付近に本体を当てて、操作ボタンを押し、10~15秒待つことで、測定結果を知ることができるようになっている。また、本体とパソコンをUSBケーブルで接続し、付属の「コミュニケーターソフトウェア」を使うことで、より詳細な検査結果を見ることも可能だ。なお、同製品の販売は、医療機器販売会社であるオムロン コーリンが担当し、メーカー希望小売価格は68万8000円(税別)、初年度で350台の販売を目指すとしている。
2014年08月18日国立精神・神経医療研究センター(NCNP)は2月24日、神経難病である「多発性硬化症」の患者を対象とする新規治療薬「免疫修飾薬OCH(糖脂質アルファ・ガラクトシルセラミド類似体)」を開発し、同センター病院において多発性硬化症患者を対象とした医師主導治験を開始することをと発表した。成果は、NCNP 神経研究所 免疫研究部の山村隆部長らの研究チームによるもの。多発性硬化症は主に20~30歳代で発病し、視力障害、運動麻痺、感覚障害などの症状が再発と回復を繰り返す慢性疾患だ。大脳、脳幹、脊髄、視神経など、中枢神経のさまざまな場所に、炎症性の神経組織破壊が繰り返して起こり、徐々に神経変性が進んでいくという疾患だ。遺伝子解析の結果などから、多発性硬化症は関節リウマチや1型糖尿病、シェーグレン症候群などと同様に、自己に反応するリンパ球(T細胞やB細胞)が関係する自己免疫疾患であると考えられ、異常な免疫反応を制御する薬剤の開発が求められている状況だったのである。免疫は、ご存じの通り、本来は細菌やウイルスなどの病原体や、悪性腫瘍などを排除する仕組みだが、誤って自分の体の成分に反応して組織障害を起こすことがあり、そのような病態を「自己免疫」といい、それによって起こる疾患のことを自己免疫疾患という。自己免疫疾患では、体のタンパク成分に反応するリンパ球が組織に入って炎症を誘導する。このような病気を誘導するリンパ球に対して、その活動を押さえつけようとする仕組みが「免疫制御機構」であり、免疫制御機構の一翼を担うリンパ球の1つがNKT細胞というわけだ。山村部長らは多発性硬化症患者の血液中のNKT細胞が著明に減少していることを明らかにし、NKT細胞に作用する薬剤が多発性硬化症の病態を改善する可能性を検討してきた。NKT細胞は抗原提示分子である「CD1d」に結合した糖脂質を認識するユニークなリンパ球で、抗原受容体から刺激が入ると、即座に大量の「サイトカイン」や「ケモカイン」など生理活性物質を産生するのが特徴だ。NKT細胞の産生するサイトカインには大別して、「インターフェロンγ(IFN-γ)」や「TNFα」などの炎症を促進する炎症性サイトカインと、「インターロイキン(IL)-4」、「IL-5」、「IL-13」などの炎症を抑制する抗炎症性サイトカインのがある。NKT細胞は、状況に応じて炎症性サイトカインまたは抗炎症性サイトカインを産生することによって、リンパ球相互の平衡状態維持や、過剰な免疫・炎症反応にブレーキをかける役割を担い、自己免疫疾患、アレルギー疾患、臓器移植、感染免疫などの広い分野において鍵になるリンパ球というわけだ。NKT細胞を刺激する糖脂質として最初に同定された物質が、「α-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)」で、NKT細胞から炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方を産生させることが可能である。一方、山村部長らによって現在開発が進められている治療薬のOCHは、α-GalCerの構造に修飾を加えた形で、NKT細胞に抗炎症性サイトカインの優先的な産生を促す活性があり、また経口吸収がよいことから、炎症性疾患の治療薬の候補として注目されてきた。OCHは特定の分子を阻害するのではなく、体内に本来備わった免疫制御機構を促進する作用機序があると推定されるという。従来の行政区域単位での特区でなく、テーマ重視の特区(複合体拠点の研究者をネットワークで結んだ複合体)として、「医療スーパー特区」がある。平成20(2008)年度より第1弾として「先端医療開発特区」が創設され、最先端の再生医療、医薬品・医療機器の開発・実用化が促進されており、現在国内の24施設が指定されており、NCNPもその内の1つだ。NCNPでは、平成21(2009)年度よりの医療スーパー特区関連事業として、OCHの医師主導治験の準備を開始。非臨床試験を終了した後、平成24(2012)年11月から平成25(2013)年6月まで「ファーストインヒューマン試験」(第1相試験に相当)として、健常成人がOCHを1回だけ服用する試験(経口単回投与試験)が同センター病院において実施された。同試験では5グループの被験者(1グループ3名)にそれぞれ異なる量のOCHが投与され、安全性、体内動態、免疫系の変化、治療効果を示すバイオマーカーの検討が行われた形だ。その結果、治療が必要になるような重篤な有害事象は認められなかったという。また多発性硬化症の発症に関係するT細胞や、炎症に関係する遺伝子の発現が低下するなどの所見が認められたとしている。多発性硬化症患者で減少している血液中のNKT細胞を刺激して増殖させれば、多発性硬化症が改善するのではないかというアイデアを基に、山村部長らは2000年から多発性硬化症の動物実験モデルである「実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)発症マウス」を使って基礎的な研究を行ってきた。最初にα-GalCerがEAE発症マウスに投与されて治療効果が調べられたが、病気の改善は見られなかったという。解析の結果、α-GalCerで刺激するとNKT細胞は、抗炎症性サイトカインであるIL-4を産生するが、同時に炎症性サイトカインであるIFN-γを産生し、それがIL-4のEAE抑制効果を打ち消すことが判明した野のである(画像1)。このような背景から山村部長らは、α-GalCerの構造を一部変えた化合物を複数合成し、治療薬として有望な化合物のスクリーニングを実施した。その結果、脂肪鎖が短い改変体OCHは、NKT細胞のIL-4産生を誘導する活性を保持しながら、IFN-γ産生をほとんど産生させない作用を持ち、α-GalCerよりも治療薬として優れている可能性が推測されたのである。治療実験ではOCHを投与されたマウスでEAEの発症が抑制され、その抑制はNKT細胞の糖脂質による活性化を介するものであることが明らかなった(画像2)。なお、この時の研究成果は2001年にNatureに発表されている。今回、同センター病院において、健常成人を対象とした本治療薬の医師主導治験を終えたため、次のステップとして患者を対象とした医師主導治験を実施することとなった形だ。同センター病院では3月上旬より、同治療薬を約3ヶ月にわたって3つのグループ(1グループ3名の多発性硬化症患者)に反復投与する治験を開始する予定である。
2014年02月25日九州大学(九大)は2月19日、「神経障害性疼痛」の慢性化に「二次リンパ組織」である脾臓における免疫細胞の1種「樹状細胞」のリソソーム酵素「カテプシンS」の働きによる抗原特異的なリンパ球の1種である「CD4+T細胞」の活性化が重要であることをマウスによる研究で明らかにし、活性化したCD4+T細胞は「脊髄後角」へ浸潤し、「インターフェロン-γ(IFN-γ)」を産生分泌することで「ミクログリア」の活性化をさらに深化させることが疼痛の慢性状態への移行に極めて重要であることを突き止めたと発表した。成果は、九大大学院 歯学研究院の中西博教授らの研究チームによるもの。研究は科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業チーム型研究(CREST)の一環として行われ、詳細な内容は米国東部時間2月19日付けで米神経科学会誌「Journal of Neuroscience」に掲載された。神経系における損傷または機能障害によって持続的な痛みが発生する神経障害性疼痛は、モルヒネも奏効しない難治性疼痛として知られている。近年、神経障害性疼痛の慢性化において、リンパ球の1種であるT細胞が関与することが示唆されていた。しかし、その詳細なメカニズムについては不明な点が多く残っている。「単核食細胞」に特異的に発現するリソソーム性システインプロテアーゼの1種カテプシンSは「抗原提示細胞」の1種である樹状細胞において、抗原提示を行う「MHCクラスII分子」に結合している「インバリアント鎖」(MHCクラスII分子が抗原以外のペプチドとの結合するのを防ぐために結合したペプチド)の最終段階の分解に関与し、抗原提示機能の発現に重要な役割を担っている。なお抗原提示細胞とは、抗原をT細胞に提示することで、T細胞を活性化させる役割を持つ。またMHCクラスII分子とは、抗原提示細胞の「エンドソーム」(細胞小器官の1種で、細胞内に存在する細胞外物質を取り込む小胞)内に存在するタンパク分子で、抗原を結合すると細胞膜表面に移行しCD4+T細胞に抗原を提示することで活性化させる働きを持つ。中西教授らの研究チームは、これまでカテプシンS欠損あるいは脳移行性のないカテプシンS特異的阻害剤「Z-Phe-Leu-COCHO(Z-FL)」が、神経障害性疼痛の発症にはほとんど影響することなく慢性化を有意に抑制することを見出していた。そこで研究チームは今回、カテプシンSが二次リンパ組織(リンパ球の抗原提示による活性化に関与する脾臓やリンパ節などの組織)での抗原提示によるT細胞の活性化に関与し、神経障害性疼痛の維持・慢性化において重要な役割を担っている可能性を検討することにしたのである。神経障害性疼痛モデルマウスは、脊髄神経を腰神経レベルで切断することで作成された。野性型マウス(DBA/2系統)では神経障害に伴い、二次リンパ組織である脾臓の肥大化が認められ、T細胞などが産生分泌するサイトカインの1種であるIFN-γを発現したCD4+T細胞(Th1細胞)の増大が確認された。また、脾臓に分布する樹状細胞においてカテプシンSが増大することも明らかとなったのである。一方、カテプシンS欠損マウス(DBA/2系統)ではこれらの変化やインバリアント鎖の最終段階の分解は生じず、神経障害性疼痛の維持・慢性期における疼痛の有意な緩和が認められた(画像1)。また、野生型マウスにおける脾臓摘出によっても神経障害性疼痛の維持・慢性化が有意に抑制されることが確かめられたのである。画像1のグラフでは、カテプシンS欠損マウスにおける神経障害性疼痛の有意な緩和が確認可能だ。グラフの見方は、PWT(g)は機械刺激に対する疼痛閾値で、「+/+」は野生型マウス、「CatS-/-」はカテプシンS欠損マウス。ipsiは神経障害側後肢への機械的刺激を表す。そして、contraは反対側後肢への機械的刺激だ。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001は野生型マウスの疼痛しきい値との比較である。そこで次に神経障害性疼痛を発症した野性型マウスの脾臓よりCD4+T細胞を単離し、神経障害5日目のカテプシンS欠損マウスあるいは脾臓を摘出した野生型マウスに腹腔内投与が行われた。その結果、投与直後から3日間に渡ってこれらのマウスにおいて疼痛の有意な増強が認められたのである。さらに免疫組織化学的解析の結果、IFN-γを発現したT細胞の神経障害側の脊髄後角(末梢知覚神経から送られてくる痛覚情報を上位中枢へ中継する脊髄の部位)への浸潤が確認された(画像2)。これは末梢神経障害に伴って「血液脊髄関門」(血液から脊髄への物質の移行を制限する機構)の透過性が一過性に増大するという報告と一致するという。(画像2)さらに、脊髄後角に浸潤したTh1細胞がIFN-γの産生分泌により脊髄ミクログリア(脳脊髄に存在し免疫機能を担う中枢神経中のグリア細胞の1種)を刺激し、ミクログリアの活性化をさらに深化させている可能性が検討された。IFN-γ受容体の下流シグナルである「STAT1」のリン酸化が調べられたところ、リン酸化STAT1はミクログリアの核に局在することが認められ、転写因子としての活性化が確認されたのである(画像3)。なおSTAT1とは、IFN-γ受容体の活性化によりリン酸化され、核内に移行して転写因子として働くタンパク分子のことだ。以上の結果より、二次リンパ組織である脾臓における樹状細胞のカテプシンSの働きにより、抗原特異的に活性化したTh1細胞の脊髄後角への浸潤、ならびにIFN-γ を介した脊髄後角ミクログリアの活性化のさらなる深化が、疼痛の慢性状態への移行に極めて重要であることが明らかとなった(画像4)。今回の成果により、神経障害により脾臓などの二次リンパ組織の樹状細胞におけるカテプシンSに依存したIFN-γ陽性CD4+T細胞(Th1細胞)の活性化が引き起こされ、活性化したTh1細胞の脊髄後角への浸潤によりIFN-γを介した脊髄後角ミクログリアの活性化状態のさらなる深化が引き起こされることが明らかになった。このことからカテプシンSの二次リンパ組織での働きが神経障害に伴う疼痛の慢性状態への移行に極めて重要であることが示唆されるという。また今回の研究により、カテプシンSが神経障害性疼痛に対する治療薬開発における新たな標的分子となることが提示された形だ。一方で、神経障害に伴う二次リンパ組織における免疫応答にはマウス系統間での差異が認められ、C57BL/6系統マウスでは神経障害に伴うTh1細胞の活性化が認められていない。このように末梢神経障害に伴って脾臓のような二次リンパ組織において分化した成熟T細胞は末梢血中に移出し、脊髄を含む体組織に浸潤すると考えられる。そこで今後は、神経障害性疼痛を発症した患者の末梢血におけるT細胞サブセットの詳細な解析を行うと共に、カテプシンS特異的阻害剤ならびに免疫抑制剤の神経障害性疼痛に対する治療薬としての有効性について検討を行う予定とした。
2014年02月20日