補欠の息子。試合に出ないと分かっているのに見に行かないとダメ?レギュラーの親は「みんなで応援しよう」と熱く盛り上がってるけど、行っても悲しくなるだけだし行きたくない。わが子が出ない試合に行くのがツライ。小学生年代は全員出場させてくれてもいいのでは?自分は今後どうしたらいい?とお悩みをいただきました。同じような体験をしている親御さんもいらっしゃるのではないでしょうか。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの取材で得た知見をもとに悩めるお母さんに寄り添いアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<自主練しない息子。モチベーションアップは親の役目ですか問題<サッカーママからの相談>こんにちは。サッカーを通じての子どもの育成ではなく、子どものサッカーでの私の悩みなのですが、投稿させてください。すみません。息子(9歳、3年生)のサッカーを見に行くのがしんどいです。公式戦などのちゃんとした大会はメンバー固定、うちの息子は緊張感のない練習試合(トレーニングマッチ)ですら試合が決まった最後の方にしか出場させてくれない。同じ月謝を払っているのに不公平じゃないでしょうか......。私たちはチーム運営のお金やコーチのお給料を払っているだけ?この間、今度の公式戦の帯同について補欠ママ同士で語りましたが、試合にほとんど出ないと分かってるのに応援に行くなのべきか(全く出ない時もある)。となりました。何とかして欠席したい。行かない理由を探したい......、とみんな同じような意見でした。スタメン組の親たちは、公式戦だからみんなで応援しましょう!と熱いですが、正直我が子が出ないなら行っても辛いだけ。それでも見に行くんですよね。行ってまた出場機会がないことにイライラ、悲しくなるんですが......。小学生年代は全員公式戦に出せてくれても良いのではないでしょうか。今後私はどうしたらいいでしょうか。<島沢さんからの回答>ご相談いただき、ありがとうございます。試合に出られないわが子を見るのは辛い。その気持ちはよくわかります。そこを通ってきた親として、育成現場を見てきた者として3つほど伝えさせてください。■アドバイス①日本サッカー協会も補欠ゼロを提唱しているひとつめ。少年サッカーは競技の入り口です。その後子どもたちの体格、技術、取り組みがどこでどう変わるかわからない。まずはサッカーの楽しさにどっぷりつかるべきです。そうであれば、本来ならば小学生はプレータイムを概ね平等にすることが求められます。本来は補欠を作ってはいけないと日本サッカー協会も提唱しています。しかし、勝ちたい大人はそうしません。サカイク記事:「日本サッカー協会の技術委員会でも従来から『補欠ゼロ』を提唱しています」人数が多く全員出られないのであれば2チーム出場するなど配慮が必要です。加えてクラブ側は、わが子がレギュラー、ベンチスタートにかかわらず、保護者が「わがチーム」として応援する機運を高める働きかけをすべきでしょう。自分の子だけでなく、他の子にも自然と目が行く。そんなチーム作りが求められます。とはいえ、そのようなクラブは私の体感で2割弱です。地域によっては1割いないかもしれません。普段の練習でも、欧州では技術がおぼつかない子に時間を割くと聞きますが、日本では「チーム一丸」と言いつつ上手い子のほうに目が行くことを当然と考える指導者は多いでしょう。サカイク公式LINEアカウントで子どもを伸ばす親の心得をお届け!■アドバイス②補欠だから見に行かない、という理由は子どもの自己肯定感を下げる要因にも二つめは、自己肯定感の話です。「わが子が試合に出ていない状況が苦しいから観に行かない」という理由だと、息子さん側にとって「補欠である自分はお母さんを苦しめている」「お母さんを苦しめる自分イコール=ダメな僕」つまり、「補欠はすごくダメなことで、補欠である僕はダメなやつ」という認識になりがちです。自己肯定感が下がってしまいます。もし「なるほど」と思ったら、一度笑顔で試合を観に行ってみましょう。試合に出られなくても仲間を応援する姿、負けて悔しがる姿、仲間のゴールを喜ぶ顔を見てあげてください。上手でエースでひとりでドリブル突破して点を決めてくる子どもと同じくらい、もしかしたらそれ以上の価値のある笑顔ではないでしょうか。他者の成功を愛(め)で、ともに喜べるのですから。お母さんが「ただそこにいる」ことで息子さんは安心するのではないでしょうか。補欠の僕でもちゃんと見守ってくれている、と。息子は試合に出られないけれど、親はただそこにいる。そこにいるだけのことが子育てともいえるのです。そこにいるだけの自分を自分で褒めてあげてください。もしパートナーがいれば「ただそこにいる」役目を二分割してください。そこにいる役をシェアすれば、自由な時間に自分の趣味も楽しめます。息子さんも2人が交替で観に来てもらえることで、より安心感は増します。もちろん一緒に行ってもいいでしょう。そして、試合に出られないことが一番悔しいのは誰なのかを考えてみましょう。試合に出られなくても遅刻もせず、不貞腐れもせず、チームのために参加する息子さんをほめてください。「真面目にチームを応援できて、えらいね。必ずいいことがあるよ」と。そしてこの「必ずいいことがある」を、親である自分自身にも向けてください。サッカーやスポーツで「補欠だった」社長さんや成功者は山ほどいます。補欠だったけれどその後伸びた子もたくさんいます。その逆で、小学生のころは天才と言われたのに、その後伸びずに人生につまづく人もいます。私は取材の中で、さまざまなアスリートを見てきました。小中学校のときはエースだったのに、高校で上手くいかなかった。勉強はしてこなかったので希望しない大学に入り、競技も引退。こころにぽっかり穴が空いた彼は、大学の授業にも出ずひとりのアパートで小学校や中学校時代の試合ビデオばかり観て暮らしました。つまり過去の栄光にすがって生きていたわけです。片や、同じチームで補欠だった友人たちは希望通りのいい大学へ進学。海外留学をしたり、サークルで楽しくスポーツをしている。「妬み、嫉みしかわいてこず、自分の過去の栄光にすがってばかりだと気づいた」と話した彼は大学を辞め、現在は楽しく働いています。仲間とフットサルをするなどサッカーも続けているそうです。しかしながら、お母さんが試合に行く、行かないは、お母さんの自由です。お母さんには息子の試合に行かないことを選ぶ権利、人権があります。気持ちが乗らないときは「今日は映画を観に行って来るから」などと欠席すればいいのです。選ぶのはあくまでお母さんなのですから。■アドバイス③チーム移籍をする際は子どもの気持ちを優先に(写真は少年サッカーのイメージご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめは移籍の話です。この時期9歳ならば小学3年でしょうか。ご近所にもう少しレベルが緩やかなクラブがあって可能性があるなら移籍を考えてもいいでしょう。そこはお母さんの気持ちよりも、子どもを優先にしてください。「出られないから移籍するのか」と言われるかもしれません。が、そんなことは当然です。大人だってより良い職場、自分の力を発揮できる場所を探して転職します。ごく普通のことです。「試合に出られないとスポーツは面白くないかなと思ったので、移籍を勧めてみました」これで十分です。何のためにわが子にサッカーをさせているのか。息子は何のために補欠を我慢しているのか。子育てで大事なことは何なのか。そういったことをあらためて考えてみましょう。必ず発見があるはずです。わが子がずっとレギュラーだったら気づかなかったかもしれない気づきや学びがあるはずです。物事は、マイナスから新たなプラスが生まれることが往々にしてあるのです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)ジャーナリスト。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』『東洋経済オンライン』などでスポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)『部活があぶない』(講談社現代新書)『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)『オシムの遺産彼らに授けたもうひとつの言葉』(竹書房)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著・小学館)『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(佐伯夕利子著・小学館新書)など企画構成者としてもヒット作が多く、指導者や保護者向けの講演も精力的に行っている。日本バスケットボール協会インテグリティ委員、沖縄県部活動改革推進委員、朝日新聞デジタルコメンテーター。1男1女の母。
2024年02月07日子どもが試合に出られないのに、チームに協力したくない。新しいメンバーが入ってきて、前からいる子では息子だけ出れなくなった。周りのママたちは慰めてくれるけど、出られる子の親に私の気持ちなんてわからない。サッカー辞めさせると言っても子どもは嫌だと言うし、何もかもが嫌になった。というお悩みをいただきました。みなさんもこんな苦しい思いをしたとき、どうしますか?今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、これまでの知見をもとに、悩めるお母さんに寄り添いアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<強豪クラブで試合に出られなくなった息子にどう接すればいいのか問題<サッカーママからのご相談>はじめまして。以前配信された記事を見て、自分と全く同じ問題だと感じました。タイトル:試合に出られないのに自主練提案しても手応えなし...。競争心の無い息子にイラつく自己嫌悪ママの問題似たような相談になってしまうかもしれませんが、アドバイスいただけませんでしょうか。配信された記事では「試合を見なければいい」とありましたが、やっぱり気になってしまいます。子どもはサッカーが楽しいと言っていますが、試合に出られないのに何も協力したくなくて......。うちの子は10歳です。今までは人数ギリギリだったため、出られないと悩む事はなかったのですが、最近一気に3人も入ってきて、前から居たメンバーでうちだけ出られなくなりました。出してもらえないイライラもそうですが、がっかりで居たたまれない気持ちになりました。チームのママたちは慰めてくれて、「ランチいこう」と誘ってくれたり気を遣ってくれたのですが、それすら「どうせ出られる子のママに、私の気持ちなんてわからない」と、何もかもが嫌になってしまって、サッカー以外でも子どもや夫にあたる日々です。正直どうしたら良いのかわかりません。サッカーやめさせると言っても、嫌だと言って子どもは1人で練習に行くようになりました。上達しないのに、時間の無駄だと思ってしまいます。こんな自分が本当に嫌です。どうしたらよいのでしょうか。<島沢さんからの回答>ご相談ありがとうございます。匿名だからできることかもしれませんが、とても正直な気持ちがお母さんのメールから伝わってきます。きっと実直で素直な方なのだろうと勝手に予想しました。加えて、お母さんのメールにとても感心してしまいました。なぜなら、お母さんは「自分と全く同じ問題だと感じた」と、5年近くも前に配信された過去記事を読んだうえでご相談されているからです。前の記事を読んでからメールしてくださるともっと深い話ができるのになあと少々残念な気持ちになることのほうが多いので、今回はとても助かります。■自覚している分、問題の半分は解決している愛するわが子を試合に出してもらえないイライラ。がっかりしてしまう気持ち。家族に当たってしまう自分。試合に出られないからでしょうか。「サッカーをやめさせる」とまでお子さんに迫っています。しかしながら、「上達しないのに、時間の無駄だと思ってしまう」ご自分を強く嫌悪しています。そうです。お母さんはもう気づいています。「今の自分のままではダメだ」と。お母さん、大丈夫です。この問題の半分はすでに解決しています。何も不安に思うことはありません。一緒に、イライラやモヤモヤを鎮めましょう。サカイクの最新イベントやお得な情報をLINEで配信中!■期待の両隣には「悦び」と「嫌悪感」が存在するまず最初に、私の経験も伝えつつ、お母さんの気持ちを整理したいと思います。私が仲間と毎月開催している「スポハグカフェ」で、6月19日にスポーツをテーマにした講座を開きました。サッカースペイン1部リーグのビジャレアルのスタッフを務める佐伯夕利子さんがゲストのひとりでした。彼女が心理学の専門家らと指導改革をされた話をまとめた『教えないスキルビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』(小学館新書)を作った縁で、お付き合いが続いています。佐伯さんによると、「期待する」という感情の両隣りには、「悦び」と「嫌悪感」が存在するそうです。■期待通りにならないとき、期待は嫌悪感に代わる私たち親という人間は、自分の子どもが自分たちの期待通りに物事を成し遂げてくれたり、期待した通り、もしくはそれ以上の成果をあげてくれたら喜びます。漢字はさまざまありますが悦びの感情に包まれます。私もサッカー親でしたから、息子や娘が試合に出たり、活躍すれば嬉しかったです。ところが、期待した通りにならなかったり、大きく期待を裏切る結果を見せられた途端、期待した感情は「嫌悪感」に変化すると言います。子どもに対し「ダメな結果しか出せないヤツだ」と嫌悪する、というのです。これを聞いたとき、私は深く納得しました。ああ、あの時に感じた「がっかりした」とか「情けない」といった負の感情は、そういうことだったのかと。怒りとか憎しみとは違う、強いイライラ感。そして、子どもに対しイライラする自分を認識したときに必ず押し寄せる自己嫌悪。恥ずかしい気持ち。私自身「あのとき子どもを嫌悪していたのだ」と改めて気づかされました。当時はこうやって言葉にして自己分析できませんでしたが、私は悦びと嫌悪感を行ったり来たりしていたわけです。いいときは一緒に悦ぶ一方で、そうでないときは子どもにひどい態度を見せていたかもしれません。■悪い結果を呪い、イライラする自分を呪っていたしかし、私にそれはおかしいことだと気づかせてくれたのは夫でした。夫は息子をなじったり目の前で嫌な態度を見せたりしませんでしたが、私の前では息子をダメなやつだと否定しました。すると、それを聞いた私は怒り出します。「試合に出られなくて一番つらいのはあの子じゃないのか」「本人は一生懸命やっているのかもしれないのに、そんな言い方はひどい」と夫を責めました。すると、夫は「はあ?」と怒って反撃に出ます。「よく言うよ。ママなんかさっきまであいつを怒ってたじゃないか。やる気が感じられないとか、一生懸命やってないとか」そうなのです。自分も夫と同じことをしていたことに気づかない。嫌悪感という感情の渦の中でぐるぐる回っているので、冷静でいられなかったのでしょう。しかし、同様に感情的になって息子への嫌悪感を丸出しにする夫の姿を見て、気付くわけです。それは恐らく夫も同じことだったと思います。その後、さまざまな学びを得て、少しずつ自省できるようになりました。子どもたちが度々運んでくる悪い結果を呪う一方で、「そんなことでイライラしたり落ち込む自分は親失格だ」と自分を呪う。まさに異なる呪いパンチの撃ち合いです。■良い結果でなかったとき、一番つらいのは本人(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)そんな葛藤を繰り返していたある日。九州から上京した祖父母と食事に行こうとしたら、息子がゲームを途中で辞めたくないから行かないと言い出し夫と揉めました。せっかく遠方から来た祖父母に対する気持ちを夫は問いましたが、なかなか折れない息子を叩いてしまいました。その夜、夫がとても真剣な顔で「俺たちは結局子どもに試されているんだよ」と言ったのです。もともと多くを語る人ではないのでその一言だけでしたが、私は「子どもと一緒に成長しなきゃいけないんだ」ととらえました。以来、呪いパンチ合戦は減ってきました。良い結果でなかったときは「一番辛いのは本人」と受け止め、前向きでなくても「大人だって、やさぐれたりふてくされたりする。いつか自分で気づくまで待とう」と思えるようになりました。「期待のお隣りさんは、悦びと嫌悪感」この道理を知って、自分の子育てを振り返ってください。振り返りができた時点で、息子さんにやさしくなれる自分を発見するはずです。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか』(文藝春秋)。
2022年07月20日以前は平等に試合に出ていたのに、高学年になってチームが勝利至上主義に。レギュラーと補欠を分けて、公式戦にはレギュラーしか出さない。コーチも補欠中心の試合ではタバコを吸いに行ったり、目をかけてくれない。補欠の息子はベンチに座るだけの日々が続きやる気も消失。チームのほかに通っているスクールでは伸び伸び楽しんでいるから移籍したらいいと思うのに、友達と一緒にいられるチームを辞めるつもりはないという。息子をどう見守ればいい?というお悩みをいただきました。今回もスポーツと教育のジャーナリストであり、先輩サッカーママでもある島沢優子さんが、悩めるお母さんに3つのアドバイスを送ります。(文:島沢優子)(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)<<父親が自主練に付き合わないと子どもは上手くならないのか問題<サッカーママからのご相談>上手くなりたいと言うのに、それよりも友達といる時間を優先する小6の息子の見守り方についての相談です。地域の街クラブでコーチは選手のお父さん。保護者のボランティアで運営されている強くもなく弱くもない典型的なチームです。4年までは平等に試合に出してくれていましたが、高学年になるとチームが勝利至上主義に。試合に勝つことに重きを置き、選手をレギュラー、補欠に分け公式戦ではレギュラーの子しか試合に出されなくなりました。「試合が一番の練習」と言いながら、練習試合も公式戦の前後はレギュラーの子たちの調子を見るために使われ、補欠の子の出場機会は激減。コーチはレギュラーの試合では細かい指示や褒め言葉をかけるのに、補欠の子中心の試合になるとタバコを吸いに行ったり、ベンチにいても「なんでそこで走らないの?」「お前のところでいつもボール取られてるぞ!」のような声がけしかしません。息子はとある公式戦で終始怒られ続けて5分ほどで下げられて以来、公式戦に出ていません。試合に行ってもベンチに座るだけの日が続き、やる気もなくしています。「今日どうだった?」と聞くと、「別に......」とか「試合出てないから言いようがないでしょ」としか言わなくなってしまいました。私は、練習や試合を見に行くのが嫌になり、あまり行かなくなりました。子どもたち同士は仲が良いのでわだかまりはなく、放課後も一緒にサッカーしていますが、補欠の子にアドバイスしたりフォローすることはありません。以前から街クラブのほかに、全員出場させてくれるスクールに通っていて、実質こちらで上達したようなものです。息子自身も伸び伸び楽しんでいて、所属クラブをやめればこちらで選手登録できるので本人のためにもいい環境だとわかっているのに、クラブを辞めるつもりはないと言います。試合に出してもらえないし、コーチのことも嫌いなのにクラブの友達といることを選んでいます。全く試合に出されない子が複数いて、コーチからの扱いもやる気を削がれるようなクラブを卒業まで続けると言う息子をどう見守っていいのかわかりません。アドバイスをいただけませんでしょうか。<島沢さんのアドバイス>ご相談ありがとうございます。ボランティアやお父さんコーチが指導してくださるチームなのですね。高学年になって勝利至上になり、試合に出られなくなったとのこと。コーチの方の態度がお母さんの書かれているような差別的なものならば、保護者の方はこころが痛いですね。したがって、お母さんは息子さんにスクールのチームのほうに移籍させたい。でも、息子さんは仲間と離れたくない。自分の試合機会を求めてチームを移るのと、小さいときからずっと一緒にサッカーをしてきた仲間を天秤にかけたとき、息子さんにとっては仲間のほうが重いのでしょう。これはサッカーではなく少年野球の調査ですが、子どもたちに「なぜ野球をしていますか?」と尋ねると、ほとんどの子どもが「友達といたいから」と答えたそうです。このことからも、どの競技を、どんなレベルのクラブでプレーするかよりも、ずっと一緒に時間を過ごした仲間といることが子どもにとって重要であることがよくわかります。■子どものサッカーに何を望んでいるのかを改めて考えようこれに対し、お母さんは、息子さんのサッカーに何を望みますか?サッカーをすることで息子さんにどうなってほしいですか?「強くもなく弱くもない典型的なチーム」と表現していることから、強いチームにいて大会などでバンバン優勝してほしいわけではなさそうです。プロ選手になってほしいわけでもなさそうです。もし、「みんな平等に試合に出してほしい。全員が楽しくプレーできるチームになってほしい」と望むのなら、そのことをコーチの方に提案してみてはいかがでしょうか。ただ、そういったことを一保護者が変えようとするのは非常に難しいはずです。そして、そのことは息子さんもよく理解していることでしょう。そのうえで息子さんは、試合に出してもらえないし、コーチからの扱いも良くないのに友達といることを選びました。息子さんは、自分のことを自分できちんと決めています。まずは、そのことを認めてあげてください。彼が考えた通りに過ごさせてあげてください。■子どもには「いつもと同じ」が大事そもそも、子どもには「恒常性」という要素が実は不可欠です。いつもと同じ仲間、いつもと同じ場所。指導者。暴力があるとか、いじめがあるといった劣悪なものでない限り、同じ環境にいることで、子どもは安心して過ごせます。ご相談の最後に「全く試合に出されない子が複数いて、コーチからの扱いもやる気を削がれるようなクラブを卒業まで続けると言う息子をどう見守っていいのかわかりません」と書かれています。つまり、息子さんの決定に不満があるのだと察します。いただいたご相談文からしか想像はできませんが、お母さんは息子さんがチームをやめないことにいら立っている様子です。もっと突き詰めると、息子さんが試合に出られないことにいら立っていませんか?相談文には、正直に「練習や試合を見に行くのが嫌になり、あまり行かなくなりました」と書かれていますね。そう。それでいいんです。親は行かなくてまったく構わないと私は思います。■子どものサッカーから離れて自分の時間を持とう一度息子さんのサッカーから離れて、週末はご自分の趣味や他の家族との時間に費やしてはどうでしょうか。別に試合や練習に足しげく行くことだけが見守っている、寄り添っているということではありません。試合の後にダメ出しをしたり、試合に出られなかった土曜日の夜に子どもよりも親のほうが不機嫌になる、なんていうことは避けてほしいのです。試合に出ている子どもの親御さんは「試合に出られなくなったら、来なくなったね」などと陰口を言われるかもしれません。私も言われた経験があります。でも、そんなものはレギュラー親のエゴです。彼女たちもいつか、わが子が補欠になったときに気づくことでしょう。それぞれの気持ちやその時の心情、価値観があります。それらをお互いに認め合えるといいですよね。そんなふうに考えて、息子さんの気持ちを認めてあげられませんか?■試合に出られるか、ではなくサッカーが楽しいかどうかの観点で見てあげようアドバイスをくださいと書かれているので、三つお伝えしましょう。ひとつ。子どもが決めたことを認めること。息子さんは新天地で試合に出るよりも、これまでの仲間といることを選んだ。この決定を心から認めましょう。「お母さんはやめた方がいいと思うけど」などと決してぼやかず「そっか、そっか。楽しくサッカーできるといいよね。でも、移りたくなったらいつでも言ってね」と笑顔で承認してあげましょう。お母さん自身は息子さんが不憫で辛いのではと思って「試合に出られなくていいの?」と言っているのかもしれませんが、あまりしつこく言い過ぎると「お母さんは、試合に出ている僕しか認めてくれないんだ」と息子さんのこころに影を落としかねません。ふたつ。「試合に出られるかどうか」ではなく、「サッカーが楽しいかどうか?」という観点でみてあげましょう。「今日、どうだった?」ではなく、「今日も楽しかった?」と聞いてあげてください。■「何とかしたい」と思っても親が先走ってはダメ(写真はご質問者様及びご質問内容とは関係ありません)三つめ。お母さん自身の感情コントロールに努めましょう。わが子のネガティブな状況に、右往左往しているような気がします。「試合に出られないのは悔しいね」と共感してあげるのは必要です。でも、同化してしまうと「試合に出られない。何とかしたい」とお母さんが先走ってしまいます。子育てで「見守る」という行為は、子どもの前を歩いてはいけません。子どもが自分で決めて歩く道の脇で「楽しんでね!」とエールを送ってあげてください。島沢優子(しまざわ・ゆうこ)スポーツ・教育ジャーナリスト。日本文藝家協会会員(理事推薦)1男1女の母。筑波大学卒業後、英国留学など経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。『AERA』や『東洋経済オンライン』などで、スポーツ、教育関係等をフィールドに執筆。主に、サッカーを始めスポーツの育成に詳しい。『桜宮高校バスケット部体罰事件の真実そして少年は死ぬことに決めた』(朝日新聞出版)『左手一本のシュート夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』『王者の食ノート~スポーツ栄養士虎石真弥、勝利への挑戦』など著書多数。『サッカーで子どもをぐんぐん伸ばす11の魔法』(池上正著/いずれも小学館)ブラック部活の問題を提起した『部活があぶない』(講談社現代新書)、錦織圭を育てたコーチの育成術を記した『戦略脳を育てるテニス・グランドスラムへの翼』(柏井正樹著/大修館書店)など企画構成も担当。指導者や保護者向けの講演も多い。最新刊は『世界を獲るノートアスリートのインテリジェンス』(カンゼン)。
2021年07月07日