いつの時代も憧れの関係性である“バディ”。時流を読むことに定評のあるTaiTanさん×玉置周啓さんがツレを求める気分を解き明かします。二人が出会えたことの奇跡。その可能性に人々は嫉妬する。話・TaiTan×玉置周啓(『奇奇怪怪明解事典』MC)――ポッドキャスト番組『奇奇怪怪明解事典』や、TBSラジオ『脳盗』のMCとして、様々な作品を紹介しながら、その作品が生まれた社会背景や需要のされ方についても考察しているTaiTanさんと玉置周啓さん。そんな二人が考える、バディの魅力とは。TaiTan:信頼できる関係性を築くには、お互いに“痛みの共有”ができていることが大事だと思います。『メタモルフォーゼの縁側』でいうと、女子高生と老婦人、それぞれがまったく違う人生を歩んできたのに、孤独であるという痛みを共有できた。そういう二人のメンタルの繋がりを、観客は自分なりに補完することで、安心して観ることができるし、同時に快感も得るんじゃないでしょうか。日常生活で感じる痛みや孤独って、何か目標に向かって進んでいくときに立ちはだかる一過性の大きな困難と違って、じりじりと、ずっと肌に触れているような小さな痛みの連続です。そこを理解して、共有してくれる人が現れたとしたら、ものすごい強度で繋がることができる。もちろん、強すぎることのリスクもあるのですが。――一方の玉置さんは、現代におけるコミュニケーションのあり方に、その背景を探る。玉置周啓:現代は人間関係が希薄になった、みたいなことはよく言われています。それってつまり、コミュニケーションがチョロい時代なんだなって思うんです。ネット上では言葉すら必要のない、いいねをしたりすることで仲のいいふりがいくらでもできるし、そうなるともう自分の本音がどこにあるのかさえわからなくなってくる。そういう時代だからこそ、本音でしゃべっている人たちの会話に希少性が生まれて、そこに人は憧れる。いわゆるバディと呼ばれる関係性の二人は、お互い本音で会話ができるっていうことですよね。もっと前には“毒舌キャラ”というのがテレビでもてはやされていましたが、あれは自分では言えないことを代弁してくれる存在として人々が求めた結果で。それが今ではコンプライアンス的なことも相まって、キャラクター単体ではなく、何でも言い合える関係性に人気がシフトしていったような気がしますね。TaiTan:ちょっと乱暴な言い方ですけど、突き詰めていくと、人は喧嘩とセックスにしか興味がないんだなって感じることがあります。たとえば格闘技だと、試合前の会見とかではお互いのことを散々罵り合っている選手同士が、試合中はセックスをしているようにしか見えない。しかも試合後は、二人とも満足そうな顔で抱擁し合って、「またやろう」とか言う。完全にピロートークなんですよ。なぜ格闘技が人々を魅了するのか、それは喧嘩とセックスの両方を兼ね備えているからな気がして。玉置:1対1の関係というのも重要ですよね。チームのような複数になると、自分の知らないところで何かが起こっている可能性があるけれど、1対1ならすべてのことに関わりを持たざるを得ない。逃げられない関係性だからこそ生まれるものがある。秘密の共有というやつです。ただ、そんな関係性で常に誰かと向き合い続けるのはだいぶきついので、日常の仕事とか友人関係は複数のほうがうまくいく場合も多い。フィクションだからこそ、緊張感のある関係性を見たいのかもしれません。TaiTan:そういう意味では、バディに人々が魅了されるのは、可能性への嫉妬だと思いますね。最良のパートナーを見つける方法として、たとえばマッチングアプリを使えば、いくらでも条件をクリアする人を探し出すことができる。でも実際に会って話してみると、なんか違うって思ったりする。結局なかなか見つからないわけです。出会いを最適化する手段が溢れまくった結果、出会えないことへの絶望も深くなった。だからこそ、作品のなかで描かれる“この二人が出会えたことの奇跡”みたいなものに心を奪われる。あり得ないものを見た、という点では、スポーツのスーパーファインプレーに興奮するのと構造は同じような気がしますね。玉置:自分の輪郭をはっきりさせるためには、人と衝突することもときには必要で、それが今までは恋愛という関係性に象徴されていましたよね。初対面で「なんだこいつ」って思ったとしても、そのわからなさに魅力を感じるって、ラブストーリーの定番だった。バディが結果的に恋愛に発展するとしても、恋愛さえ包括しているのがバディもので。バディの関係は、恋愛関係の上位概念ともいえる。たとえ恋愛における二人の距離の縮め方に共感はできなくても、こんな関係性があるんだ、こんな関係性が築けるんだ、っていうことに人は興奮します。どんな出会いも関係性も、恋愛ありきで進んでいくわけではないことを、現代を生きている人たちは実感としてとっくにわかっていて、それに作品のほうがようやく追いついてきたってことじゃないでしょうか。タイタン3人組ヒップホップユニットDos Monosのラッパー。また、クリエイティブディレクターとして、0円の雑誌『magazine ii』や、テレビ東京の停波帯をジャックした番組『蓋』などを手がける。たまおき・しゅうけい4人組バンドMONO NO AWAREや、アコースティックユニットMIZのボーカル&ギターと作詞・作曲を担当。ウェブマガジン「EYESCREAM」では読書感想文を連載中。※『anan』2022年7月27日号より。イラスト・カトウトモカ取材、文・おぐらりゅうじ(by anan編集部)
2022年07月20日今年、事実婚を発表したharu.さんとTaiTanさん。選択的夫婦別姓への議論が起きている今、二人もまた、この制度に疑問を抱き、話し合ってきました。その過程と心持ちにフォーカスします。既存の枠組みに当てはめない“選択結婚”二人らしく、心地よく共に生きていく選択。――おふたりの関係性の中で“結婚”という言葉が出たのは?haru.:私から?(笑)TaiTan:コロンと横になっている時に、僕がポロッと話した気がします。haru.の反応も、そうねーって(笑)。それで合意がとれた感じです。haru.:そうだったね。最初は法律婚も視野に入れていたけど、「姓を変えるのは女性ばかりだよね」って話になって。彼が私の姓になる案も考えながらも、なかなかしっくりこなくて。でも結局は私たちの関係のことだから、二人が一番心地よいかたちを選べればいいと思って。事実婚については、誰かの実体験を聞くより、弁護士や専門家が書いている記事を読んで私たちなりに調べました。弁護士さんによっては事実婚の証明書を発行したほうがいいという意見もありましたが、いま私たちは一緒に暮らしているわけではないので、証明書も作っていないんです。――別姓でいることが事実婚を選んだ大きな理由なのですね。haru.:そうですね。私にとっては、事実婚も普段の色々な選択をしていくのと同じで、二人でどうやって生きていくかを選んだ感覚です。結婚をしたらひとつの姓を選ぶことに「なぜ?」という疑問がずっとあったし、結婚はひとつの証明のようなものだと思いますが、社会の決められた枠組みに自分たちを当てはめなくても、私たちの関係性で結婚を証明することができるのではないかと思って。周りにも同じように疑問を持っている人が多くいるので、そういう人に対しても、これが正しいというより、こういう二人の在り方があってもいいよね、と伝えられたらと思っていました。TaiTan:僕らの知人で、お互いにすごくリスペクトし合っていて仲の良いカップルがいるのですが、結婚したことで唯一しこりが残っているのは名字が変わったことだと話していて。「誰のための選択だったんだろう?」という疑問が、選択してから今日に至るまで、うっすらと自分を支配しているという話をしてくれました。その言葉が僕には効いて。そういう思いを僕らが背負うのはすごく嫌だと思ったのは大きかった。――事実婚を選んで、今の時点で違和感を覚えることは?haru.:この前、いま何か課題はあるかな?って話したけど、何もないね、で終わった(笑)。TaiTan:ないね。当然このあと子どもを持つことや、生活の変化の中で出てくると思いますが。――自分たちの選択をどのように伝えていきたいですか?haru.:私は、もともと恋愛ドラマや映画にときめくこともなく、結婚するからといって『ゼクシィ』も読まない。学生の頃から自分は周りとちょっとズレてるのかなと思ってきたけど、同じように日常の色々なことに違和感を抱いている人は多くいると思います。常識とされていることにはまらなくても、それを曲げる必要もないし、自分が思うままでいいと感じてもらえたらいいですね。自分の中にあったものをひとつ肯定されることで、前に進めると思うので。TaiTan:僕も同感です。事実婚の選択に関して旗振り役になるつもりもないし、聞かれたら話させてもらうくらいの感覚です。それよりも、僕たちが信じていることを実践して、成立している事実を見てもらうことができたらいいなと。そのほうがよっぽど、社会の“こうであるべき”という枠を拡張していくことができるんじゃないかなと思っています。せんたく・けっこん…二人が納得できる、結婚のかたちを考えていく。夫婦同姓が原則である日本の婚姻制度。世界でも日本だけというこの制度に対して様々な動きがある中で、法的に入籍をせず、夫婦関係を築いていく事実婚も選択肢の一つとして注目されている。法律婚、事実婚などパートナーシップの在り方が多様化している今、自分たちにフィットする結婚のかたちを模索する動きが活発に。haru.さん(写真右)1995年生まれ。インディペンデントマガジン『HIGH(er)magazine』編集長。2019年に「株式会社HUG」を立ち上げ、コンテンツプロデュースなど様々な活動を行う。TaiTanさん(写真左)ラッパー。ヒップホップグループDos Monosのメンバー。雑誌のクリエイティブディレクションや、Podcast番組「奇奇怪怪明解事典」を配信するなど多方面で活躍中。※『anan』2021年7月21日号より。写真・村上未知インタビュー、文・菅原良美(akaoni)(by anan編集部)
2021年07月16日