連載小説「眠らない女神たち」 第一話 『チョコレートの魔法』(前編)
私は一見価値のない対抗心が、私自身を水川千陽たらしめていると知っている。
美月は私と同い年で、同じチームで働いている。繋がりといえばそれだけだった。例えクラスメイトであったとしても、会話はおろか挨拶さえ満足に交わさないほどタイプが違う。
それが、両手で足りる人数のプロジェクトチームに押し込められたのだから、ウマの合わない人間がいるのも致し方のないことだ。
表面上はうまくやっていると思う。何も知らない男性社員に「いいコンビだね」と言われたこともある。その男性社員は私の心の中で抹殺されたが。
美月は美人で気が強く、仕事が出来る。何でも勝ち負けで考える所謂「マウンティング女子」だ。
そして言葉がきつい。私が先生だったなら、他に言い方があるでしょ、と指導したに違いない。事実、他の女性社員がお昼休みに愚痴っているのを幾度も耳にした。何一つ美月に勝てない私は、その愚痴に賛同しながらも「そうね」としか言えなかった記憶がある。
その気の強い美月に、私は先ほどお説教を食らったのである。お説教?違う、あれは八つ当たりだ。
プレゼンの資料が揃っていないだのデータが足りないだの、挙げ句「察しが悪い」と有り難い称号までいただいた。