連載小説「眠らない女神たち」 第一話 『チョコレートの魔法』(前編)
とやらのデスクに置く。
まだ支給されたパソコンと筆記用具しか置かれていないデスクが、寂しげで不安そうに見えた。
私がFAXを受け取って自席に戻ると、太田さん(仮)が美月の嵐から解放されたところだった。自分の席に置かれた小さなチョコを手にきょろきょろと辺りを見回している。私はにっこり笑って小さく手を振った。太田さん(仮)は疲れた笑顔を見せて、会釈した。
数分後、私の社内メールに太田さん(仮)からメールが届いた。
『水川さんチョコ、ありがとうございました。
メッセージもとても嬉しかったです。太田』
どうやら太田さんで合っていたようだ。パソコン画面から目を上げると、太田さんと目が合った。今度はにこっと笑ってくれた。いい子じゃないか。
美月は同じ島のデスクでまだ眉間にしわを寄せている。違うな、彼女はデフォルトで眉間にしわが寄っているのだ。目が悪いのか不機嫌なのか、もっと別の理由があるのかもしれないが、憶測に過ぎない。
そして尋ねる義理もない。
「第一話『チョコレートの魔法』(後編)」に続く