連載記事:花まる式:子どもの“書く力”の育て方

「書くこと」が苦手な子をサポートするには、親の意識改革が必要【花まる式:子どもの“書く力”の育て方 Vol.2】


■ポイント3.ごまかさない言葉選び

少し長くなってしまいますが、下記の作文を読んでみてください。
ラムネとおじいちゃんのたたかい(2年男子)

すこし前、おじいちゃんちでおるすばんをしていました。おじいちゃんちに行くときに、ついでにサイダーのラムネをもっていきました。

おじいちゃんちについたとき、ぼくは、「じぶんじゃあけられないから、おじいちゃんがあけて」と言って、おじいちゃんは、ニコニコしながらラムネのびんを手にとり、力をこめたけど、あきませんでした。(中略)

おじいちゃんが、どこからもってきたのかわからないようなどうぐをつかってたけど、まだあきませんでした。ここから、おじいちゃんとラムネの本気のたたかいがはじまりました。
「花まる式」子どもの“書く力”の育て方

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ラムネのふたを開けられない話が、「おじいちゃんとラムネの本気のたたかい」と命名された瞬間、がぜんおもしろくなります。ほかにも、「どこからもってきたのかわからないどうぐ」といった、読者にイメージを喚起させる言葉選びができています。


この、的確な言葉選びの背景にあるものは、何なのでしょうか? 「まず、『ありのままをとらえている』ことに着目したいですね」(竹谷さん)

たしかに、「なんだ、あの道具? どこにあったんだろう?」と、おじいちゃんを見て感じた自分をとらえることができています。「どこからもってきたのかわからないような」と、そのまま言葉にするだけで、単なる「どうぐ」から一気に魅力が増します。

「二つ目のポイントは、感じたことに当てはまる言葉を、子ども自身が持てていることです」(竹谷さん)。おそらく、この子には、まわりからの言葉のシャワーがよく降り注いでいるのでしょう。

「三つ目としては、『より正確に伝えたい』という気持ちがあることです。うまく伝わった! という成功体験がこれまでにあったのだと思います」(竹谷さん)。

これらの話は、「語彙が豊かである」とか「難しい言葉を知っている」ということではありません。「言葉を知っている・知らない」という話ではなく、「自分の実感そのままに、ぴったりの言葉が選べているか?」ということなのだと思うのです。


「子どもに的確な言葉選びの習慣をつけたいと思ったら、子どもが言葉を探したり、選んだりすることを、まず大切にしてあげて欲しいと思います。子どもが自分の気持ちをしっかりと見つめられる力、ごまかさない力は、大人のそういう姿勢から生まれます」(竹谷さん)
【声かけ例】
「(指しながら)この言葉は、(指さしながら)ここを表現するのにぴったりだね!

■ポイント4.「筆が進む感覚」を味わせてあげる

「花まる式」子どもの“書く力”の育て方

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ところで。「大人が持っている“見えない尺度”に、子どもはとても敏感です」と、竹谷さんは言います。

たとえば、長い作文を大人がほめ続けると、「あれくらい長く書かなきゃ、ダメなんだ」と、思う子がいます。はたまた、「その話ではなく、あの話を書きなさい」といった声かけは、「このテーマで書いたら、ダメなんだ」と、子どもの意欲を失わせている可能性もあります。

こちらの望む望まないにかかわらず、私たちの反応から、子どもは知らず知らずのうちにメッセージを読み取っています。とりわけ幼児期の男の子は、「書く」ということ自体に興味を持たず面倒くさがる傾向が強いので、注意が必要です。

「幼児期の子どもにとって、書くことは、基本的に、しんどいことです。
面倒くささがあるのも当然です。でも、書き出してからのどこかに必ず『その子の筆が進む箇所』は、あります。その『筆が進む感覚』こそを、子どもに味わせてあげて欲しいのです。『書きたい!』と思いながら書くということは、こういう感じ! という実感です」(竹谷さん)

そうはいっても、幼児期の子は、「作文を書くときのサポーター」が必要な時期でもあります。「よく思い出して書きなさい」などアドバイスしても、「覚えてない!」という子もたくさんいるそうです。

竹谷さんは、そんなとき、みずから「書きとり役」に徹します。たとえば、「この間のサッカーの試合、どこのポジションだったの?」から始まって、「そのポジションって、何をする役割なの?」と、ただ、子どもに質問をして、その答えを書きとっていく。
「花まる式」子どもの“書く力”の育て方

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ただし、いきなり「そのとき、どんな気持ちだった?」は、NG。
まずはその子が、絶対に答えられることを(つまり「経験したこと」を)質問していってください。

そんなやりとりをしているうちに、「じゃあ、オレ、自分で書くわ」というふうになる子もいるし、最後まで竹谷さんが書くこともあるそうです。竹谷さんが聞き取って書いた作文を子どもに見せると、「そんなに、(書くことが)あったんだ!」と、本人は、とても驚くそうです。

「子どもの話を、ただ聞いて書きとってあげることは、ひと手間かもしれません。でも、「なるほどねー! ふんふん」と肯定される感覚、感じたことをそのまま書いて良いんだという感覚を、2、3回、きちんと子どもに味わわせてあげれば充分だと思っています」(竹谷さん)

竹谷さんに「書く力」を育てるポイントを教えていただくと、今まで自分が「作文を上手に書く指導だと思っていたこと」が、かなり的外れだったことにがく然としました。子どもに「書く力」をつけたいと思ったら、子ども自身の心に寄り添おうという気持ちが大切なのですね。

次回は、作文好きな子を育てるために「やってはいけないこと」「やってあげたいこと」を整理します。

■今回のお話を伺った竹谷 和さんのご著書
『子どもの「書く力」は家庭で伸ばせる』花まる学習会 高濱正伸 竹谷和著
『子どもの「書く力」は家庭で伸ばせる』
花まる学習会 高濱正伸 竹谷和著/実務教育出版 ¥1,400円(税別)

●高濱 正伸さん
花まる学習会代表・NPO法人子育て応援隊むぎぐみ理事長・算数オリンピック委員会理事。
1959年熊本県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。1993年、「この国は自立できない大人を量産している」という問題意識から、「メシが食える大人に育てる」という理念のもと、「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を主軸にすえた学習塾「花まる学習会」を設立。
ロングセラー『伸び続ける子が育つお母さんの習慣』ほか、『小3までに育てたい算数脳』『わが子を「メシが食える大人」に育てる』『算数脳パズルなぞぺー』など、著書多数。
花まる学習会公式サイト:http://www.hanamarugroup.jp/hanamaru/
●竹谷 和さん
千葉県生まれ。一橋大学卒業。花まる学習会教材開発部。現場を持ちつつ、年中から中学3年までの幅広い学年に対しての教材開発・各種出版に携わる。
社会に出て生きていくために、読み書きをベースとした言葉の力が欠かせないという問題意識のもと、講演会、出版、読書感想文講座等を通じて、言語表現に関する親と子の橋渡しをしている。

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