連載マンガ「すがおのまま子」 文系ママに知ってほしい! 科学絵本の楽しみ方(後編)~さとちゃん先生が語る、子どもがもつサイエンスの芽の育て方
トップライター:須藤美紀
深海とそこにすむ生きものたちをテーマにした絵本を作った佐藤孝子先生。後編では先生が科学の道にすすんだきっかけや子ども時代の体験、そして読み聞かせ活動でたくさんの子どもたちに出会ってきた先生に、科学が好きな子に育てるために必要なことを聞きました。
絵本読み聞かせの前に、クイズをするさとちゃん先生。実際に絵本に出てくる生きものの模型を見せて「これなんだと思う?」と聞いているところ。
衣類用洗剤の開発や料理にもつながっている深海の世界
―― 微生物の専門家の佐藤先生が、深海に興味を持ったきっかけは何だったのですか。
わたしは大学院修了後、学研の植物工学研究所に研究員として入ったのですが、その後大学院時代にお世話になった掘越弘毅先生がJAMSTECにいらしたご縁で、JAMSTECに転職しました。
ざっくり言うと、わたしの研究分野はバイオ(生物学)。なかでも深海のような変わった環境に生きている「極限環境微生物」の研究です。「それって何の役に立つの?!」って言われちゃいそうですが、実は、そういう微生物は普通の環境にはいないけれどわたしたちの生活に役立つ酵素を生み出したりするんです。
たとえば、極限環境のひとつ、アルカリ環境で生きている菌から、たんぱく質や繊維を洗濯中のアルカリ性の環境でも分解する酵素を見つけ出したことでできたのが花王の「アタック」。「バイオ酵素」を配合した衣類用洗剤で、恩師である掘越先生の研究成果から生まれました。
わたしは地球上で一番深いマリアナ海溝などの、圧力がものすごく高い場所にすむ「好圧菌(こうあつきん)」が専門なのですが、その研究は料理と関係があるんです!たとえばジャムを作るとき、基本的には熱を加えて菌を殺しますが、そうすると香りや色が変わってしまう。
ところが圧力滅菌なら、風味をキープしたままジャムを作ることができるんです。
発泡スチロール製のカップを深海へ持っていくと、圧力でぎゅっと縮んで固くなる。読み聞かせで子どもたちに見せると歓声があがる。一番大きいのが元のサイズ、右側が紀伊半島沖の南海トラフにて、3300mの深さまで沈めたカップ。手前の一番小さいものは、もとはコーヒーカップの大きさで、北海道沖の千島海溝にて、5400mの深さまで沈めて縮んだもの。
―― まさか深海の研究が料理に役立つとは思っていませんでした!科学、すごいです!!
そもそもわたしがサイエンスに興味を持ったのは、幼いころリトマス試験紙の色が目の前で変わった、あの瞬間のすごく単純な喜びがあったから。