2018年7月3日 11:00
ちぐはぐな自分を、受け止めてくれたからーー映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』公開記念トーク
そんなとき、ある年上の人とお酒を飲むことがあって、その人が「君はちゃんとどもることができるのがいい」と言ってくれたんです。立て板に水で話すヤツなんて、俺は信用できない、と。どもることを肯定してくれたんですね。
押見そんなの、惚れちゃいますよね(笑)。
鈴木伝わらなくても伝えたいと思うからこそ、苦しい。伝わらなさを少しだけ肯定してもらうだけで、ずいぶん伝えられることが大きくなるんだなと思いました。マンガ家も女優も誰かに何かを伝えるお仕事ですが、喋って伝えるということと、感覚に違いはありますか?
押見僕は、喋って「自分」を伝えられた経験がそもそもないんですよ。でもマンガは読者が自分のリズムで追体験してくれるから、思いを強く伝えられるメディアなんだと思います。
まぁ僕は、「自分の苦しみを味わわせてやろう」とか思いながら描いているようなやつなんですけどね(笑)。
南私もふだんからうまく伝えられないので、会話が終わってからいつも一人で反省会してます。
押見わかる(笑)。
南家でも練習してます。
鈴木映画でも志乃がやっていましたね。「4丁目にケーキ屋さん出来たの知ってる?」「あ、知ってる知ってるー」とか。
南そうですそうです。まさにあんな感じで。
志乃とは違って、頭の中で相手が喋って、私はその人に向かって実際に喋るんですけど。実際に会ったときにもっと普通に会話ができるようにって。
押見でも、「普通の会話」をしなくてもいいと思いますけどね。会話、難しくないですか(笑)。僕は会話の成功体験がないから、そう思ってしまいます。ーーーー
普通の会話なんてしなくていい。そう思い合える人同士だからこそ、交わせる言葉があるのかも知れません。
後編では、南さんの発する言葉の力に押見さんが驚く、そんな場面もありました。
(後編につづく)
文: 柳瀬徹
写真: 鈴木江実子
スタイリング(南さん担当): 道券芳恵
ヘア&メイク(南さん担当): 藤尾明日香(kichi inc.)
Upload By 柳瀬徹
2018年7月14日(土)より、「新宿武蔵野館」ほか全国順次ロードショー。
押見修造氏の人気コミック、待望の映画化。高校1年生の志乃は、喋ろうとするたびに言葉に詰まり、名前すらうまく言うことができない。同級生の加代は、ギターが生きがいだけれど音痴。コンプレックスから目を背け、人との関わりを避けてきた志乃と加代が出会い、小さな一歩を踏み出すけれど…。