「五感」を使って活き活きと作文を書く――子どもの感覚から言葉を引き出す「五感質問」のテクニック
五感を使えばオリジナリティがアップする
「うちの子の作文には個性がない」「うちの子は活き活きした作文が書けない」「うちの子の作文は平凡」など、わが子の作文能力に不満をもつ親御さんは少なくありません。オリジナリティに乏しい文章しか書けないのは、その子にオリジナリティがないから——では、もちろんありません。オリジナリティを出す方法を身につけてしまえばいいのです。
その方法のひとつが「五感」の活用です。ご存知のとおり、五感とは、人間が備えている「視覚(目で見る)」「聴覚(耳で聞く)」「嗅覚(鼻でにおいをかぐ)」「味覚(口や舌で味わう)」「触覚(手や肌で触る)」の5つの感覚のこと。五感を言葉で表現していくことによって、その子らしい作文が生まれやすくなります。
とはいえ、頭ごなしに「五感を使って書きなさい」と言っても、子どもにはよくわからないはずです。まずは、子どもに「人間には五感というすばらしいセンサーがある」ことを教えてあげてください。
そのうえで、上手に質問を使いながら、親が子どもの五感センサーを発動させてあげてほしいのです。
※シンプルな五感質問例
【視覚】何が見えた?
【聴覚】どんな音が聞こえた?
【嗅覚】どんなにおいがする?
【味覚】どんな味がする?
【触覚】どんな手触り?
あらゆるテーマ、あらゆる場面で、この「五感質問」が使えます。散歩中に、ドライブ中に、あるいは、カレーライスを食べている途中でもOK。子どもに質問をぶつけてみてください。きっと個性的な答えが戻ってくるでしょう。
五感を使って表現してみよう
作文を書くときにも、いちど「五感」で感じるクセをつけます。たとえば、「野山の散策に行ったこと」について作文を書くとします。五感すべてを使って、感じたこと、思ったことをノートに書き出していきます(ここでも親が五感質問を子どもにしてあげてください)。
【視覚】何が見えた?
・木の葉っぱが、赤やき色にへんかしていた(絵の具でぬったかのよう!)
・じめんには、落ち葉がたくさん落ちていて、それらはキラキラかがやいて見えた(金色のじゅうたんみたい!)
・空には「わたあめ」をちぎったような雲がたくさんおよいでいた
・夕方になると、たいようがどんどん大きくふくらんで、空が火のように赤くもえ上がった。空をやきつくすかのようでかっこよかった!
【聴覚】どんな音が聞こえた?
・小とりたちのチュンチュン、ギーギー、クックックというなき声
・どこからかザーと川のながれる音がきこえた
・ピュ~というすこしさむい風の音
・落ち葉をふみしめてあるくときのサクサクいう音
(ポテトチップスをたべているときのような音!)
・とちゅうでおなかの虫がグーっとないた
【嗅覚】どんなにおいがする?
・木のにおい(雨の日のタタミのにおいみたい!)
・土のにおい
・あまいお花のにおい
・あめあがりのにおい
【味覚】どんな味がする?
・学校やいえにいるときよりも、空気がおいしかった!なぜだろう?
【触覚】どんな手触り?
・木によって、手ざわりがまったくちがうからびっくりした。ゴツゴツしたもの、ザラザラしたもの、ツルツルしたもの
・木についた「しる」をさわったら、手がベトベトになった
・落ち葉を指でさわると、ぬれてやわらかいものと、カサカサなものがあった。カサカサのものは、さわっただけで、こなごなになってしまった
・落ち葉はとてもかるいので、フワっとまとめてすくいあげてあそんだ
・いちど、落ち葉をまとめてすくって空高くまいたら、自分のあたまのうえにふりかかってきた。「金色のゆき」みたいだった。だれかにお祝いしてもらっているような幸せな気分になった
・あたまやふくに落ち葉がついたままでも、ぜんぜんイヤじゃなかった
上記は一例です。五感を頼りに、子どもたちが感じたことや思ったことを自由に書いてもらうことで、書くべき材料が手元にそろいます。あとは、そのなかからとくに魅力的なものをピックアップして作文を書いていきます。
【作文例:視覚や聴覚を中心に】
あきの野山は、まるで絵の具でぬったかのように、木の葉っぱが、赤やき色にへんかしていました。
落ち葉がものすごくて、まるで「金色のじゅうたん」の上をあるいているかのようでした。ぼくは、落ち葉をふみしめてあるくときのサクっ!サクっ!という「ポテトチップスをたべているときのような音」が気に入って、いつもよりも力を入れてあるきました。
夕方になると、たいようがどんどん大きくなっていって、空が火のように赤くもえ上がりました。ぼくは、夕方にエネルギー切れになることが多いので、夕方でも元気なたいようをみならわないといけません。【作文例:触覚を中心に】
あきの野山は、落ち葉がものすごくて、わたしはワクワクしました。
落ち葉を指でさわると、ぬれてやわらかくなっているものもあれば、カサカサで、さわっただけで、こなごなになってしまうものもありました。
落ち葉は1まい1まいがとてもかるかったので、両手でまとめてすくいあげるようにして、何どもあそびました。
いちど、落ち葉をまとめてすくって空高くまいたら、自分のあたまのうえにふりかかってきました。それはまるで「金色のゆき」みたいでした。わたしは、だれかにお祝いしてもらっているような幸せな気分になりました。あたまやふくに葉っぱがついたままでも、ぜんぜんイヤじゃありませんでした。
どちらの作文も五感を使った分、活き活きと自由な表現に仕上がりました。お友だちと“かぶる”こともないでしょう。もしも五感を使わずに作文を書いたとしたら、ここまで活き活きした作文にはなったかはわかりません。
子どもの五感はどんどん研ぎ澄まされていく
五感を使って作文を書くエクササイズをくり返していると、学校生活や日常生活のなかでも、おのずと五感を研ぎ澄ますようになります。
作文を書く・書かないに関係なく、五感それぞれで、さまざまなアプローチの質問を自分にぶつける習慣が身につきます。
※さまざまな五感質問例
【視覚】何が見えた?どんな形?どんな色?どんな具合?どんな状態?どんな様子?どう変化した?
【聴覚】どんな音が聞こえた?音の大きさは?楽器は何?誰のどんな声?どんな音楽?何の音?(クルマ、飛行機、洗たく機、スマートフォン等々)
【嗅覚】どんなにおいがする?(甘い?すっぱい?こおばしい?)きつい?くさい?いいにおい?他のどんなにおいに似ている?
【味覚】どんな味?(甘い?辛い?しょっぱい?)おいしい?まずい?かみごたえは?料理のあたたかさは?他のどんな味に似ている?
【触覚】どんな手触り?どんな重み?どんな痛さ?かゆさ?汗をかいた?
ふだんから、子どもの頭の中がこのような質問で埋め尽くされているとしたらどうでしょう?その子の言語能力(作文能力を含む)は、飛躍的に伸びていくと考えて間違いありません。
子どもの五感センサーをホメよう!
人は、五感というアンテナを使うことで、外部の情報を受け取り、認知することができます。そして、その認知した情報に言葉を組み合わせることによって、思考が促されたり、自分なりの意見が醸成されたり、あるいは、人に何かを伝えたりすることができるようになります。
もちろん、同じイチゴでも、「すっぱくておいしい」と思う人もいれば、「すっぱくてまずい」という人もいます。焼銀杏を「いいにおい」という人もいれば、「くさい」と鼻をつまむ人もいます。同じお風呂のお湯でも「熱い」という人もいれば、「ちょうどいい」という人もいれば、「ぬるい」という人もいます。感覚に正誤はありません。
五感のセンサーは千差万別。一人ひとり違うからこそ、子どもの作文にも個性が生まれるのです。
子どもが五感を使って表現したことに対して、親であるあなたにできることは、できる限りホメてあげることだけです。とくに、お友だちと違う表現をしたときは最大級にホメるチャンスです。「○○くんの五感センサーはかっこいいね!」という具合です。自分のセンサーをホメられた子どもは、自信を深めて、さらにそのセンサーに磨きをかけていくことでしょう。