個々は上手いのに組織的なプレーができず勝てない。試合に勝つためには圧をかけて教え込むことも必要?
一人ひとりの実力は相手チームと負けてないのに、パスやポジショニングなど組織的なプレーが上手くできず、試合に勝てない子どもたち。
楽しく、真剣にやることが大事だと思って指導してきたけど、考えさせて導くコーチングだけでなく、勝たせるためにちょっと圧をかけて教え込むことも必要?と悩むお父さんコーチ。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、指導において大事なこと、組織的なプレーができるようになるアドバイスを送ります。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<ドリブルで相手の逆を作る動きが苦手な子どもたち。相手の動きを予想できるようにするお勧めの練習は?
<お父さんコーチからのご質問>
息子がいるU-9でサポートしてるパパさんコーチ5か月の者です。自分も小中と地域の社会人リーグでサッカーをしていました。自分なりに色々見て調べてサッカーのスキルをあげてきたつもりです。
指導者としては初めてだらけのことなので、池上さんを参考にさせて子ども達に色々声を掛けてあげています。
しかし試合になり強いチームと戦うと、個々の実力は負けてはないと思うのですがパスやポジショニングや組織的な部分で負けてしまい子ども達のモチベーションが下がってしまいます。
僕は「サッカーは楽しくやるスポーツだよ!まずは練習から楽しく真剣にやろう」と言っています。
試合に勝つ事は、やる気やモチベーションに繋がると思いますが、多少の圧力をかけてまでもコーチングだけではなく、ティーチングを行うべきなのでしょうか?
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
主たる悩みがはっきりとわからないのですが、最後に「多少の圧力をかけてまでもコーチングだけではなく、ティーチングを行うべきか」と書かれているので、教え込むというか、子どもに何かを「やらせる」イメージをお持ちなのかもそれません。
サッカーの指導において、時としてティーチングは必要です。小学生の間に知っておいたほうがいいことが9歳でもあります。
特にこの年代からは、サッカーはこんなスポーツなんだという理解を深めなくてはなりません。
具体的には「味方をサポートするとしたら、どこの場所がいいかな?」とか「どこに動いたらボールがもらえるかな?」といった声掛けです。
そういったことは、この連載のほかの回でもずっと伝えています。
味方のサポートをしないと、サッカーにならないよということを教えてください。負けていると思われる「組織的な部分」こそ、まさしくサッカーの根本です。まずは、サッカーってこういうものだよと理解させるところからスタートしてください。
では、仲間と協力してゴールするとはどういうことなのか。例えば、今年度の全日本少年サッカー大会は、JFATV(日本サッカー協会のYouTubeチャンネル)でほとんどの試合を観ることができます。そのなかで私がお勧めしたいのは川崎フロンターレのジュニアチームの試合です。彼らは体格が大きいわけではないし、スーパーな選手もいません。ただ、全員が賢いプレーをします。
確か中盤の選手たちは5年生だったと思います。ご相談者様が指導なさっている子たちと2歳違いくらいです。2年後にあのような動きを目指すとしたら、今からポジショニングやサポートを認知するトレーニングをしてほしいと思います。
川崎フロンターレの試合も!
JFA 第45回全日本U-12サッカー選手権大会のフルマッチなど動画はこちら>>※JFAのサイトに飛びます
今よりずっとコロナが落ち着いていたころ、私が主宰している交流サイトのオフ会を行いました。その際に全国高校選手権を観ておられますか?とコーチの方々に尋ねたら「観ていない」「面白くなかった」という声が多かったです。選手たちがいい判断ができないので、体がぶつかるフィジカル勝負が多かったようです。素早い判断でプレーすれば、相手とコンタクトしなくてもかわせるはずです。コーチの方からも「そこが残念だった」という声が聞かれました。
高校生でこうなってしまうのは、小学生からの育成で仲間とプレーする重要性、サポートの意味を教えられていないことも一因でしょう。
前述したように、全少で組織的なプレーをするチームはフロンターレくらいでした。
オフ会では「日本では、リスペクトとコレクティブが別々に理解されているけれど、これはつながっているんですよ」と話しました。皆さんもご存知のように、リスペクトは「尊重する」、コレクティブは「組織的」という意味です。私がジェフ時代にたくさん勉強させていただいたオシムさんは、こう話していました。
「味方が動いているから使ってあげる。動いた味方を尊重するからパスを出す。そうすると、サッカーは組織的なものになる。リスペクトとコレクティブはつながっている。
いかがでしょうか。日本のサッカー指導者たちが、そういう理解をしてくれると、サッカーの見方や育成は変わってくると思います。
そして、このようなことが海外でいう「スポーツ教育」なのです。ところが、日本のスポーツ教育は「頑張る・耐える・やり抜く」といった精神論がいまだ主役です。コーチが伝えていくべきことは何か。それをもっと勉強していただく必要があります。
最後に私のチームのことを伝えます。
一方、私のチームは練習を週2回。試合は月に1回か2回です。それでも、4年生、5年生が、ハーフラインからシザースパスを5本通してゴール前まで持ち込みます。
私は組織的なサッカーを教えています。もちろん勝敗などまったくこだわっていません。教えている子たちがどんなレベルで、いまどこまで到達しているか。次にどの様な課題を出すべきか。そういったことを観ながら練習を進めます。
課題を見つけるために試合をします。結果にもこだわるべきだという指導者は多いですが、大人が黙っていても子どもは当然勝ちたいに決まっています。じゃあ、そのために練習で何をしたらいいかな?と、一緒に考えてあげるのがコーチの役目です。
池上正さんの指導を動画で見る>>
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
私のチームの選手は試合が終わると、一人ひとり保護者の前で感想をしゃべります。
その日は1分け3敗。いっぱい失点しましたが、子どもたちは「楽しかった」「こんなことができた」「パスがうまくいった」などと非常にうれしそうでした。
私は同時に保護者にこんな話をします。
「どうでしたか?お父さんやお母さんが見ていると、(たくさん失点したので)そうは感じませんよね?もっと頑張ったらと思いますね?でも、子どもたちは楽しいんですよ」
親御さんたちは、もっと頑張ってほしいのにという顔をされています。でも、回を重ねると、出来なかったことよりも、子どもが出来たことに注目し始めます。
圧力をかけるとか、やらせなくてはと考えず、「大事なことを子どもに伝える」という姿勢を持ってください。
池上正さんの指導を動画で見る>>
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。
楽しく、真剣にやることが大事だと思って指導してきたけど、考えさせて導くコーチングだけでなく、勝たせるためにちょっと圧をかけて教え込むことも必要?と悩むお父さんコーチ。
今回もジェフユナイテッド市原・千葉の育成コーチや、京都サンガF.C.ホームタウンアカデミーダイレクターなどを歴任し、のべ60万人以上の子どもたちを指導してきた池上正さんが、指導において大事なこと、組織的なプレーができるようになるアドバイスを送ります。
(取材・文島沢優子)
池上正さんの指導を動画で見る>>
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
<<ドリブルで相手の逆を作る動きが苦手な子どもたち。相手の動きを予想できるようにするお勧めの練習は?
<お父さんコーチからのご質問>
息子がいるU-9でサポートしてるパパさんコーチ5か月の者です。自分も小中と地域の社会人リーグでサッカーをしていました。自分なりに色々見て調べてサッカーのスキルをあげてきたつもりです。
指導者としては初めてだらけのことなので、池上さんを参考にさせて子ども達に色々声を掛けてあげています。
しかし試合になり強いチームと戦うと、個々の実力は負けてはないと思うのですがパスやポジショニングや組織的な部分で負けてしまい子ども達のモチベーションが下がってしまいます。
僕は「サッカーは楽しくやるスポーツだよ!まずは練習から楽しく真剣にやろう」と言っています。
試合に勝つ事は、やる気やモチベーションに繋がると思いますが、多少の圧力をかけてまでもコーチングだけではなく、ティーチングを行うべきなのでしょうか?
<池上さんのアドバイス>
ご相談ありがとうございます。
主たる悩みがはっきりとわからないのですが、最後に「多少の圧力をかけてまでもコーチングだけではなく、ティーチングを行うべきか」と書かれているので、教え込むというか、子どもに何かを「やらせる」イメージをお持ちなのかもそれません。
■時としてティーチングは必要
サッカーの指導において、時としてティーチングは必要です。小学生の間に知っておいたほうがいいことが9歳でもあります。
特にこの年代からは、サッカーはこんなスポーツなんだという理解を深めなくてはなりません。
上手な子どもがひとりでドリブルで抜いて行ってゴールするのではなく、みんなで協力し合ってゴールまでつないでいく。守るときも、誰かが抜かれたら責めるのではなく、仲間の失敗をカバーする。それがサッカーだということを伝えることもコーチの役目です。
具体的には「味方をサポートするとしたら、どこの場所がいいかな?」とか「どこに動いたらボールがもらえるかな?」といった声掛けです。
そういったことは、この連載のほかの回でもずっと伝えています。
味方のサポートをしないと、サッカーにならないよということを教えてください。負けていると思われる「組織的な部分」こそ、まさしくサッカーの根本です。まずは、サッカーってこういうものだよと理解させるところからスタートしてください。
■全員が賢いプレーをする川崎フロンターレジュニアの試合を参考にして
では、仲間と協力してゴールするとはどういうことなのか。例えば、今年度の全日本少年サッカー大会は、JFATV(日本サッカー協会のYouTubeチャンネル)でほとんどの試合を観ることができます。そのなかで私がお勧めしたいのは川崎フロンターレのジュニアチームの試合です。彼らは体格が大きいわけではないし、スーパーな選手もいません。ただ、全員が賢いプレーをします。
確か中盤の選手たちは5年生だったと思います。ご相談者様が指導なさっている子たちと2歳違いくらいです。2年後にあのような動きを目指すとしたら、今からポジショニングやサポートを認知するトレーニングをしてほしいと思います。
やっていけば必ず変化が起きるでしょう。
川崎フロンターレの試合も!
JFA 第45回全日本U-12サッカー選手権大会のフルマッチなど動画はこちら>>※JFAのサイトに飛びます
■選手権でも「良い判断」ができなくてフィジカル勝負になるチームが多い
今よりずっとコロナが落ち着いていたころ、私が主宰している交流サイトのオフ会を行いました。その際に全国高校選手権を観ておられますか?とコーチの方々に尋ねたら「観ていない」「面白くなかった」という声が多かったです。選手たちがいい判断ができないので、体がぶつかるフィジカル勝負が多かったようです。素早い判断でプレーすれば、相手とコンタクトしなくてもかわせるはずです。コーチの方からも「そこが残念だった」という声が聞かれました。
高校生でこうなってしまうのは、小学生からの育成で仲間とプレーする重要性、サポートの意味を教えられていないことも一因でしょう。
■オシムさんが語った、組織的なプレーをするために大事なこと
前述したように、全少で組織的なプレーをするチームはフロンターレくらいでした。
それ以外は、ボールが来たら蹴ってしまったり、スーパーな子どもに頼ってしまうチームが目につきました。
オフ会では「日本では、リスペクトとコレクティブが別々に理解されているけれど、これはつながっているんですよ」と話しました。皆さんもご存知のように、リスペクトは「尊重する」、コレクティブは「組織的」という意味です。私がジェフ時代にたくさん勉強させていただいたオシムさんは、こう話していました。
「味方が動いているから使ってあげる。動いた味方を尊重するからパスを出す。そうすると、サッカーは組織的なものになる。リスペクトとコレクティブはつながっている。
同じものなんだ。選手も、コーチも、そういう感覚を持たないといけない」
■大人が何も言わなくても、子どもたちは当然勝ちたいもの
いかがでしょうか。日本のサッカー指導者たちが、そういう理解をしてくれると、サッカーの見方や育成は変わってくると思います。
そして、このようなことが海外でいう「スポーツ教育」なのです。ところが、日本のスポーツ教育は「頑張る・耐える・やり抜く」といった精神論がいまだ主役です。コーチが伝えていくべきことは何か。それをもっと勉強していただく必要があります。
最後に私のチームのことを伝えます。
先日、今年初めて試合をしました。ほかのチームは人数も多く、そこから選ばれた子が出てきます。練習も試合もたくさんやっています。
一方、私のチームは練習を週2回。試合は月に1回か2回です。それでも、4年生、5年生が、ハーフラインからシザースパスを5本通してゴール前まで持ち込みます。
私は組織的なサッカーを教えています。もちろん勝敗などまったくこだわっていません。教えている子たちがどんなレベルで、いまどこまで到達しているか。次にどの様な課題を出すべきか。そういったことを観ながら練習を進めます。
課題を見つけるために試合をします。結果にもこだわるべきだという指導者は多いですが、大人が黙っていても子どもは当然勝ちたいに決まっています。じゃあ、そのために練習で何をしたらいいかな?と、一緒に考えてあげるのがコーチの役目です。
池上正さんの指導を動画で見る>>
■たくさん失点をしても子どもたちが「楽しい」と言う理由
(写真は少年サッカーのイメージです。ご相談者様、ご相談内容とは関係ありません)
私のチームの選手は試合が終わると、一人ひとり保護者の前で感想をしゃべります。
その日は1分け3敗。いっぱい失点しましたが、子どもたちは「楽しかった」「こんなことができた」「パスがうまくいった」などと非常にうれしそうでした。
私は同時に保護者にこんな話をします。
「どうでしたか?お父さんやお母さんが見ていると、(たくさん失点したので)そうは感じませんよね?もっと頑張ったらと思いますね?でも、子どもたちは楽しいんですよ」
親御さんたちは、もっと頑張ってほしいのにという顔をされています。でも、回を重ねると、出来なかったことよりも、子どもが出来たことに注目し始めます。
圧力をかけるとか、やらせなくてはと考えず、「大事なことを子どもに伝える」という姿勢を持ってください。
池上正さんの指導を動画で見る>>
池上正(いけがみ・ただし)「NPO法人I.K.O市原アカデミー」代表。大阪体育大学卒業後、大阪YMCAでサッカーを中心に幼児や小学生を指導。2002年、ジェフユナイテッド市原・千葉に育成普及部コーチとして加入。幼稚園、小学校などを巡回指導する「サッカーおとどけ隊」隊長として、千葉市・市原市を中心に年間190か所で延べ40万人の子どもたちを指導した。12年より16年シーズンまで、京都サンガF.C.で育成・普及部部長などを歴任。京都府内でも出前授業「つながり隊」を行い10万人を指導。ベストセラー『サッカーで子どもがぐんぐん伸びる11の魔法』(小学館)、『サッカーで子どもの力をひきだす池上さんのことば辞典』(監修/カンゼン)、『伸ばしたいなら離れなさいサッカーで考える子どもに育てる11の魔法』など多くの著書がある。