2021年11月22日 22:10
狂言誘拐があぶり出す虐待の連鎖…現代社会問題を映す、降田天の社会派ミステリー
「日本では、誘拐は通報されるとまず捕まります。いかに警察を介入させないようにするかを考えるのは、難しかったですね」(萩野さん)
だが、誘拐事件は、兄弟にとっても予想外の事態に発展してしまう。そこから8年の月日が流れ、第二部は始まる。市民の通報で、幼い兄妹が発見される。ひとりは餓死、ひとりは極度の衰弱。現場に臨場したのが狩野だ。
「この規模の事件になると、誰かひとりの推理で解決させるわけにはいきません。組織捜査で描かなくてはいけないのですが、警察組織のしくみなどをちゃんと知らなくて、調べながらでした」(鮎川さん)
本書最大の美点は、安易な同情や共感を許さないフェアな視点だ。
「大切な人のために罪を犯す物語を以前にも書きました。しかし、美しい行為として消費してしまうだけでいいのか。本書でそれについて語り直したい気持ちもあったんです」(萩野さん)
二転三転していく事態はやがて思いがけない形でつながる。現実と地続きになった社会派ミステリーだ。
『朝と夕の犯罪』定職にも就かない父親と放浪生活を送っていたアサヒとユウヒ。彼らの狂言誘拐があぶり出す、虐待の連鎖とサバイバル困難社会の悲劇。