2022年10月2日 16:00
宮田裕章「ダ・ヴィンチが今の時代に生きていたら『モナ・リザ』は描かなかったでしょう」
人となりはわからないけれど、でも確実にそこにいて、こちらに向かって微笑んでいる。“万能の天才”と呼ばれたレオナルド・ダ・ヴィンチが、医学や建築などの学問に精通していたのは、結局「モナ・リザ」を描くため。超遠近法で臨場感を持たせ、輪郭をぼやかせるスフマート加工で立体的な陰影を生み出し、死体の解剖で得た知見で筋肉の構造を把握し、あの微笑みを描いた。そこには静止画とは違う、笑いかけてくるような時間があるんです。今でいうiPhoneのライブフォト(画像の前後1.5秒ずつの映像を記録する機能)のような感じでしょうか。
――時間を閉じ込める感じですね。
そうです。その鑑賞体験は、「モナ・リザ」と微笑みを交わした時に初めて完成する。
長い人類の歴史において本質的に大事なのは、「他者と肯定的に関わること」じゃないかとハッとしました。生を受け、他者とポジティブな感情で結ばれることで、文化やコミュニティが形成されていく。その根源を、「美」という形で表現したことに衝撃を受けました。自分もそういった本質に繋がる仕事がしたいなと。
――そこで絵画の道ではなく、科学へと進むのが興味深いです。
油彩画というのは当時の技術の頂点。