宮城を中心に異例の売れ行き!? 被災地での生活者のリアルを描く、芥川賞受賞作『荒地の家族』
「そのときどきで、震災をめぐる小説は書かれてきたと思うんですけれど、僕はいまようやく書いてみようという気持ちになれたというか。長い時間軸を経たからこそ見えてきたものがありました」現役書店員の顔も持つ佐藤厚志さんが第168回芥川賞を受賞した『荒地の家族』は、宮城県を中心に異例の売れ行きを見せている。
311から10余年という年月が何をもたらしたか。生活者のリアル。
主人公の坂井祐治は、ひとり親方で造園業を営む40歳。震災の2年後に最初の妻を亡くし、2番目の妻とはある不運がもとで離婚した。高齢の母の住む実家に戻り、ひとり息子を育てるシングルファーザーだ。
「インフルエンザをこじらせた先妻・晴海の死もそうですが、震災で死んだというふうに言い切れない死がいっぱいあって。
その無念というか行き場のない思いはもうどこでも拾われないですよね。それを拾えるとすれば小説だと思うんです」
再婚した知加子との生活は数年しかもたなかったが、やり直しのきっかけをつかもうと、祐治は知加子の職場に押しかける。だが、知加子と接触することさえ阻まれる。災厄に立ち向かうとき、元の生活を取り戻したいという気持ちは同じでも、どこの地点から再出発したいか、断ち切って前に進みたいか、そのアプローチは人それぞれだろう。