奥深い“羊毛フェルト”の世界へ…引きこもり大学生×少女のヒューマンコメディ
実際の製作工程はひたすら針を刺していく単調かつ地味な動きの繰り返しだが、ふたりのかけ合いや、申し訳ないけど笑わずにはいられない失敗、心に浮かんでは消える雑念・妄想などの賑やかな描写で、読み手を飽きさせない。
「自分でも花原と同じ順序で作っているのですが、そのとき気付いたことやあり得そうなことを、絵的な面白さも重視して物語に落とし込んでいます。羊毛フェルトは効率よくできないというか、一針ずつ進めていくしかないので、急ぐのを諦めて時間をかけてやろうっていう開き直りの境地に至ることができるんです」
パンダ、カワウソ、トイプードルなど、花原はレベルを上げながらいろんな動物を作るのだが、気になるのが弥生の反応。的確なアドバイスをしながらも、夢中になっている彼を見て複雑な感情を抱いてしまう。
「弥生はものを作りたい人というより、他者に認められたい思いが強いんです。しかも彼女の場合は、母親がプロの作家で、自分も大人になったら勝手に上手くなると思い込んでいた節があって、実際はそうじゃないと気付き始めてもいる。どちらも私の経験を反映させた、思い入れのあるキャラクターですね」
“繊維の彫刻”とも称される奥深い世界の一端に触れながら、ふたりが乗り合わせた舟の行方を見届けよう。