手の移植を介して初めて感じ取ったものとは…現役医師・朝比奈秋による最新小説
ハンガリーの大都市デブレツェンの病院で働く看護師のアサト。骨肉腫との診断で左手の切断手術を受けたが、のちに誤診であったとわかる。その病院には、手の移植手術の権威ゾルタン医師がいて、労働者階級のポーランド人の手の移植をした。だが、接合された左手には、消えない違和感と強烈な拒絶反応が起こり…。本書は、あまたの読書家から熱い視線を浴びる朝比奈秋さんの最新刊だ。
「手の移植をしたニュースを何かで見て衝撃を受けたんです。手の移植は世界的に見ても稀な手術で、そもそも教科書にも載っていない。前後してクリミア併合が起きて、領土が行ったり来たりするというのはどういうことなのかと、興味を持ちました。
小さな院内で他人の手が意思に反してくっつけられる、個人のこぢんまりした話が、領土が勝手に分断されたり併合されたりする大きな問題と自然と結びつきました」
アサトは日本人で、妻のハンナはクリミアのウクライナ人だ。マイダン革命以後、街の雰囲気が変わると夫婦で脱出したこともある。ハンナは看護師でもあり、紛争地に乗り込んで取材をするジャーナリストでもあるが、彼女が夫の故郷の島国をうらやましく思う感覚を、アサトは手の移植を介して初めて感じ取る。