触感や匂いまで感じるタッチの美しさ…江戸の職人を描く『神田ごくら町職人ばなし』
桶職人、刀鍛冶、畳刺しなど、職人の仕事ぶりや気概、矜恃にフォーカスした『神田ごくら町職人ばなし』。一度読んだら虜になる傑作だ。その著者が坂上暁仁さん。
1ページ、1ページに見惚れる。伝統の手仕事を担う職人のリアル。
「江戸の町を細部から大枠まで実際にその手を動かして生み出しているのは職人さんたちだと思っています。江戸という世界観に肉薄してストーリーを練り、作画するためには、必要な知識やビジョン、アイデアが脳内に沈殿できた段階でやっと執筆に取りかかれるんです。どの職人さんを題材にするかを決めたら、ネットや図書館などで資料を集め、毎回ゼロ知識から勉強しています。
最近ではYouTubeやSNSなどで情報発信をされている職人さんや組合も多いですし、刀鍛冶の名工や藍染め工房など実際に職人さんたちの作業工程を見たり、お話しさせていただいたこともありました」
各編の主人公が女性というケースも多く、いっそう興味深い。
「史実では女性の職人はそんなにポピュラーではないですが、都の奥御殿を修理する女大工の話が『西鶴諸国ばなし』に載っていたという記述を本で見かけたことはあります。“仕事”や“技能”を描くにあたって、ジェンダーや性別を、自分は特段意識していません。