生成AIを創作に取り入れたことでも話題! 新芥川賞作家・九段理江が文学について思うこと
起こらなかった無数の現実を想像してしまう。
「最初に浮かんだのは、アンビルトというモチーフなんです。建築家のスキルって数学的で言語化とは遠いものだと思っていたのですが、実は構想を実現させるにはいま建てる意味や価値を説得できなくてはいけない。言葉を重ねていかないと崩れてしまうわけで、ものすごいバランスを求められる職業なんだなと。それで建築家を主人公にして書きたくなりました。沙羅が関わる建物を刑務所にしたのは『ケーキの切れない非行少年たち』という新書を読んだのもきっかけのひとつです。今の社会は多様性や寛容を強く要請してくるけれど、寛容さと必要な支援のバランス、みんなが幸せになれる、息苦しくない寛容ってどんなものだろうとよく考えていたんです」
そんな土台に、ヒトの言葉とAIの言葉、寛容や多様性の受容と矛盾、支配と被支配等々、現代社会を混沌とさせている対立を幾重にも積み上げた〈バベルの塔〉を、読者の眼前にリアルに描き出す。「いま見えている現実というのも偶然の連なりでそこにある現実でしかないと思っていて、だからこそ、起こらなかった無数の現実ってどうだったのだろうと想像してしまうんです。
そうしたらある研究者の方に『九段さんってロマンティストですね。