30代で東京の商社を辞めて、和紙職人になった女性の「急がば回れな人生」
「職人」と聞くと、一生を職人として生きようと早いうちから決意し鍛錬している人、なんて勝手な印象があったけれど、重要無形文化財に指定されている細川紙の職人である谷野裕子(たにの ひろこ)さんは、そんなイメージとは少し違った。
谷野裕子さん
東京の商社から埼玉の和紙職人へ
埼玉県ときがわ町に、古い給食センターをリノベーションした「手漉すき和紙たにの」の工房がある。豊かな森林と綺麗な水に恵まれたこの地域は、昔から和紙の生産地として有名だった。
工房を覗いてみると、職人が和紙を作っている。その光景に、「紙って作るんだって妙なところに感動」し、その後も和紙の美しさが頭から離れなかった。そこで、今の彼女の工房からそう遠くない場所に昔から続く工房を持っていた和紙職人に「弟子はいらないか」と聞いてみたけれど、答えは「いりません」。和紙業界の斜陽化を考えれば、仕方がなかったと振り返る。そんなある日、埼玉県の広報誌を眺めていると、和紙作りの継承者を募集していた。「いらないって言ってたじゃん、募集してんじゃん」と、すぐに応募した。18歳の若者から定年後の人まで応募者は100人、200人はいたという。研修に参加できるのは15人。