【シネマモード】ベートーヴェンの名曲をカラダで表現――東京で叶った、圧巻のステージの裏側
圧倒的な“団結”が目の前に現れるのですから。それこそ、人類が手を取り合う理想的な世界を願うこの曲の魂なのです。
ベジャールは、すでに完璧であるこの曲を視覚化することで、「第九を」あえて違ったアートフォームに転換させ、多面的な豊かさを添えました。聞こえない人にも交響曲を楽しませ、聞こえる人にはより深く曲が持つ意味を考えさせる機会を与えてくれたのです。
その大きな助けとなっているのが衣装でしょう。ベジャールは4つの楽章に、「地」「火」「水」「風」と自然の中の4つのエレメントを象徴させました。そしてそれぞれの楽章に登場するダンサーたちに「褐色」「赤」「白」「黄」の衣装を身に着けさせたのです。さらにそれぞれは、4つの人種、4つの大陸をも意味し、最後に全てが一緒になり、手を取り合うのです。
この様子は、違ったエレメントが調和することで、ひとつの世界が成り立っていることを瞬時に理解させてくれ、例え歌詞の原案であるフリードリヒ・フォン・シラーによる詩「歓喜によせて」の意味を知らなくても、「すべての人々は兄弟となる」というメッセージの本質を体感させてくれるのです。
振り付けを観ていて感じたのは、ベジャールには音が見えていたのではないかということ。