2023年2月16日 18:30
中国の若者たちが羨んだ、貧しい農民夫婦の物語『小さき麦の花』
現象が起きたのだ。
9月上旬に『小さき麦の花』は興行収入1億元(約19億円)を突破。コロナ禍で商業映画の多くが公開を控えていたという特殊な事情もあるが、この異例のヒットは「奇跡」と呼ばれた。それだけでなく、映画を配信で見ることが定着している中国で、名もなき農民が主人公の作品が、日本以上に市場で冷遇されているアート系映画を劇場で味わうという体験を促した意義も大きい。
憶測を呼んだ突然の上映打ち切り
しかしこの映画は、予想外の展開を迎える。9月下旬、突然上映が打ち切りになったのだ。例年、10月1日の建国記念日の連休の時期は愛国的な作品が優先的に上映されるため、その入れ替えのためだとも考えられるが、配信サイトからも削除されたのは不可解だ。10月の中国共産党大会を前に、克服したはずの貧困の描写や、善行を積んでも報われない農民の姿など、政府のキャンペーンと相容れない内容を含んでいることが当局にとって不都合だったのでは……等々、様々な憶測を呼んだ。
しかし、劇場公開されているということは検閲自体は一度クリアしているわけで、どれも推測の域を出ない。
リー・ルイジュン監督
こうした状況に配慮して、予定されていた日本のメディアのリー監督へのインタビュー取材も中止になった。