2024年2月8日 18:00
俳優・松村北斗の魅力を紐解く…感性と表現力が光る『夜明けのすべて』
と語っていたが、「上手さ」という技巧を感じさせない点に、松村さんの卓越した感性と表現力が光る。
「どこを切り取っても人生が乗っている」人物理解度
先に述べたリアルな作風は、俳優においては「セリフに乗っかる」「強い芝居を中心に構築する」アプローチができない。特に山添くんは、自分がパニック障害であることを周囲に隠している人物。かつパニック障害と紐づいた倦怠感やローテンションは周囲(いわんや観客)に「やる気がない」という誤解も与えてしまい、その奥にある真実にまで到達できない他者もいる。だが本人の心身にはパニック障害と闘ってきた歴史が刻まれている。リアリティを重視し、そうした悩みや苦しみを「ダイレクトには見せない」方向にかじを切った本作は、人生の密度を見せなくても伝わるくらいに上げるという意味で――演じるうえで実に難易度が高い。
例えばPMS(月経前症候群)の症状でイライラを爆発させてしまった藤沢さんへの「軽い会釈でやり過ごす」シーンや「お疲れ様です」の発声一つとっても山添くんのパーソナリティが見えてくるし、その彼が他者に心を開いていくグラデーションにまるで不純物が見えないのは、松村さんの役作りの強度がゆえだろう。