女の節目~人生の選択 (19) vol.19 「今」
新婚のとき奮発して買った贅沢なダブルベッドは、すでにこの部屋にはない。
今は、毎日毎日、階下のゴミ集積所へ二袋分くらいのものを捨てに行く。一日二袋というのはちょっと頼りないペースだが、毎日毎日コツコツ捨て続けることのほうが大切だ。未練が断ち切れずにいるものは、部屋で組み立てた巨大な段ボール箱に放り込んでおく。機会があればまだ着たいと思う服、廃番で二度と買えない使い古しの文房具、古書店で値はつかないが私にとっては大切だった小冊子の類。数日経って、わざと乱雑に放り込んだ箱の中を覗くと、渦巻いていた未練が少しだけ減じているのを感じる。目をつぶって、次はゴミ袋に放り込む。
今は、引き出しの奥に溜め込んでいた日用品のストックをばんばん出している。
旅行するたびつい持ち帰っていた宿のアメニティ、シャンプーやコンディショナーの小ビンを、シャワーの脇にずらりと並べて順番に使いきっていく。家族と旅しているときは持ち帰るのが当たり前で、恋人と旅すると「貧乏性だなぁ」と笑われ、女友達と旅すれば「えっ、私は自分で選んだ香りのしか使わない、絶対」と呆れられた、さまざまな小ビン。一人暮らしの頃は近所の銭湯へ通うときの必需品だったのだが、今は、銭湯へ行くより旅に出る頻度のほうが増え、いつの間にかものすごい数が余るようになった。