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エアアジア・ジャパン就航への課題とは - CEO交代の裏で起きていたこと

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エアアジア・ジャパン就航への課題とは - CEO交代の裏で起きていたこと
●日本では「航空運送事業許可=就航」にならないわけ
2015年末、エアアジア・ジャパンは突然のCEO交代を発表した。航空業界には、「2016年春の就航を目指しているのに、オペレーションのプロである小田切義憲氏がいなくなって大丈夫なのか」と思った人も多いはずだ。果たしてエアアジアグループCEOのトニー・フェルナンデス氏の決断は吉と出るのか、"離陸"への課題を整理してみた。

○日本ならではの"仮免許"を理解できず

今回のCEO交代は、日本での開業準備が遅れ就航開始のめどが立たないことに業を煮やしたマレーシアのエアアジア本社が、「なぜAOC(航空運送事業許可)が出ているのに就航開始にこんなに手間取るのか」と航空局交渉を取り仕切っている小田切氏に激怒し、今回のトップ交代につながったと言われている。しかし、エアアジア本社は今の日本ではAOCが"仮免許"でしかないことをきちんと理解していなかったようだ。

2014年7月に新生エアアジア・ジャパン設立当初、就航は2015年6月を予定していたが、AOCを取得できたのは2015年10月になってからである。アジア各国では「AOC=就航開始」という図式が出来上がっており、日本でもスカイマークのような新興航空会社が立ち上がった頃は同様の位置付けで、AOCが下りれば程なく就航を迎えられた。しかしその後、日本もLCC(低コスト航空会社)時代に入り、当局による事業審査の基準やプロセスに強度の変化が出てきた。


日本でも新興航空会社が立ち上がった時代、つまり、「AOC=就航開始」となっていた時代は、LCCに対して行われたような「リスク管理のための安全弁や補強措置を要求しつつも経営が重たくなることには一定程度配慮する」というような比較的シンプルな審査承認ではなかった。つまり、機体メーカーのマニュアルを踏襲するだけでなく、"JCAB(航空局)コスト"とも言われた審査現場前線での非常に厳しい詰問をクリアしなくてはならなかった。

LCC時代に入ってからはいったん、審査プロセスに緩和の変化が見られた。対象LCCであるピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)、ジェットスター・ジャパン、エアアジア・ジャパンには全て、ANAまたはJALが生産体制面の支援をすることを言明し、整備・運航の折衝に長けた人材を送り込みもしていた。そのため当局としても、「大手の後押しがあるなら大丈夫だろう」という認識に立って行われたという側面がある。大手エアライン側からも、「今までのような仔細・厳格な審査が続けば就航に時間がかかりすぎ、LCCの経営に支障をきたす」との当局への働きかけがあったとも聞く。

しかし、同じLCCでも春秋航空日本のように日本の大手が支援・関与しないケースについては、当局審査は以前の厳しさに立ち返ってきているように見え、AOCが"仮免許"の位置づけであることがより鮮明になってきた。大もとの事業許可(AOC)は、事業会社としての資金面・機材面の信頼性がある程度担保されれば早い段階で下りるのだが、いざ実運航に直結する規程・社内管理など細部の運用に関わる事項については、規程の様々な項目の折衝で厳しい審査の目が向けられるのだ。


○実務審査に厳然と残る大きな壁

以前から特に手ごわい審査とされているのは、「整備管理規程」と「運航管理規程」の審査だ。例えば、「運航整備士を本来必要ない地方基地の出発前点検にも配置する(させられる)のか」「整備会社への重整備外注にあたってどのような管理体制を敷くのか、それを実行できるスタッフはいるのか」「技術部長は大手の経験何年以上のものであることを条件にする(させられる)のか」「乗員の機種移行訓練では実機での飛行を最低何回行うのか」などといった、整備や運航の業務実施の細目に関する規程である。

当局が「これならちゃんと安全に運航を行える」と認めてくれるまで交渉を詰めていかなければならず、航空会社にとっては大変な労力・スキル・交渉力を要するものだ。つまり、航空会社はできるだけコストをかけない方式にしたいと考え、当局は何かあった時に審査不備を指摘されないよう(何かが起こらないよう、と当局は言う)できるだけ確実・安全な方式を要求する。このせめぎ合いが少なくとも1年は続く。

これを乗り切るためには、技術やオペレーションのエキスパートが必須なだけでなく、品質保証や安全審査というニッチだが航空会社の安全管理に必須の分野の熟練要員も必要なのだ。ここがそろわないと、いくらAOCがあっても就航のめどは立たない。現在のエアアジア・ジャパンが就航に必要な人材を確保できていなければ、審査は延々と続くことになる。
トニー氏がここまで認識していたかといえば疑わしい。

エアアジア・ジャパンがANAと合弁会社で日本市場に初上陸した際、会社設立から約1年後の2012年8月に就航を果たした。創業から就航までがスムーズに進んだのは、パートナーのANAが有する経験と当局への与信に助けられたものであることをトニー氏は自覚していなかったと思われる。

エアアジア・ジャパンは小田切氏に代わって、スカイマークの前経営トップである井手隆司氏と有森正和氏を招聘(しょうへい)した。「航空の専門家を入れ経営体制を強化」としたエアアジア・ジャパンではあるが、当局の技術・運航部門との今後の許認可面の折衝がスムーズに進むか、まだ課題は多いように思われる。

●就航までに必要な70億円の調達に親会社のエアアジアも課題あり
○事業計画と資金に問題は?

現在エアアジア・ジャパンは中部空港(セントレア)を拠点に、札幌/仙台/台北にA320を2機使用して運航するとしている。国内2路線は大手のほか、エアドゥやアイベックスエアラインズとも競合するし、台北は日本のLCC2社(ピーチ、バニラエア)が成田から就航する激戦地である。格安運賃で新規需要を創出するというLCC方式は当初は機能するだろうが、既存エアラインの半額以下、時に破格のバーゲン運賃を提供してまずは消費者の注目を得て知名度を上げていく手法を当初は取らざるをえず、採算は二の次となろう。


この場合、問題は資金が持つかだ。エアアジア・ジャパン設立時の資本金は20億円だが、日本における新規航空会社設立の歴史を見ても、就航までに最低60億~70億円を集めることが必要だ。それは既存株主の増資で行うしかないが、親会社であるエアアジアの経営状況が良くない。直近期は辛うじて収支はトントン持ちこたえたが、実質は赤字でキャッシュフローは厳しいと言われる。

ここにきて、各国でジョイントベンチャーを展開するエアアジアのビジネスモデルに陰りが見え、順調に伸びているタイ・エアアジア以外は長距離のエアアジア Xを含め業績が芳しくなくエアアジア本社に、どれだけ日本への増資余力があるのか注目される。エアアジア・ジャパンの主要株主である楽天への出資要請も行われているようだが、本国・マレーシアからの出資がない中では他社が応じるとは考えにくく、当面はエアアジア本社からの資金でつなぐと見るのが妥当な線と思われる。

しかし、事業開始が遅れるほど機材のリース料(1機月額4,000万円超)、人件費(開業要員の250人がそろえば月額1億円)、乗員訓練費などが次々とキャッシュアウトしていく。加えて、開業できたとしても当面は赤字事業にならざるを得ないだろうから、資金繰りは早晩再び大きな問題となってエアアジア本社にのしかかる可能性が大きい。


ただ、今は原油価格低落と円高局面という日本の航空業界にとっての僥倖(ぎょうこう)がある。井手・有森両氏が今後、"守備範囲"である資金調達でどのような手腕を発揮するのか見守りたいところだ。

○中部でピーチの成功を再現できるのか

一度、他社に目を移してみよう。国内LCCで成功を果たしているピーチを見てみると、早々にLCCターミナルを作り同社が関空をハブとして急速な拡大を行える環境を整えた関空運営会社の全社的支援体制、そして何より、その事業拡大を支え得た関西経済圏の"地力"という背景がある。

LCCが成り立つには、東南アジア各国のLCCが拠点とする都市と同様、「安い運賃が提供されれば、その事業計画を支えるに足る新規需要が創出される」ことが不可欠なのである。同時に、昨今の航空の成長を支えるインバウンド旅客を惹きつける要素があるかも決め手になる。関空で言えば、京都だけではない関西の観光資源のことである。

名古屋・中部圏にどれだけの新規需要が眠っているのか、また、エアアジア・ジャパンがそれを掘り起こせるのか。
「LCCターミナルの建設」を言明したセントレアの支援、そして、中部経済圏の民力と吸引力が、エアアジア・ジャパンの浮沈を握っていると言えそうだ。

○筆者プロフィール: 武藤康史
航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上におよぶ航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。

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