岩本沙弓の”裏読み”世界診断 (10) 「人民元」変動スピードをいかに抑えるか? 日本が”反面教師”の中国通貨戦略
自分たちの懐具合も危うくなったために、欧州の金融機関を中心に新興国に投資していた資金を撤収したという背景があります。
したがって、欧州債務危機の最悪期を脱出した現在、再度投資資金が中国に積極的に戻ってくるかどうかはさておき、少なくとも流出の動きは収まるものと考えられます。
また欧州危機が再燃しても、必要に迫られた人たちはすでに撤収済みとなれば、さらなる資金の流出も限定的かもしれません。
人民元が上昇するにしても下落するにしてもそのスピードが速くなる可能性が低いので、今回の制度変更が実施されたと考えるのが妥当でしょう。
なぜ変動のスピードを最小限に抑える必要があるのか-。
こうした極めて小幅の通貨切り上げを長期間に渡って中国が試みているのは、日本の状況を反面教師としているため、と考えられます。
中国は日本がたどってきた通貨変遷の歴史を非常に熱心に研究している、これはすでに1990年代半ばで言われていたことです。
我が国は1971年のニクソン・ショックで米ドルと金の兌換が停止された際にも、1985年のプラザ合意の際にも急激で大幅な円高を一方的に受け入れてきました。
そのため、そうした動きに着いて行けない中小企業などを中心に、甚大なる経済的ダメージを受けることになりました。