「一種の鎖国状態にして、身内を大切にしたのでしょう。
そのため出雲弁には争ったりする言葉はありません」(藤岡さん)。
松本清張の小説『砂の器』は、映画やTVドラマにもなったので内容を知っている人も多いかもしれない。
ジャンルは推理小説で、東北訛(なま)りと「カメダ」という言葉が事件の手がかりとなる。
だが、実はそれは東北訛りではなく、似た発音をする島根県「亀嵩(かめだけ)」だったということで、出雲弁は広く知られることになった。
しかし、藤岡さんの説が正しければ、実は出雲地方の言葉こそが、太古に日本語として使われていた“標準語”であり、それが東北地方にまで伝わっていったと考えられるのだ。
「まず出雲弁があって、それが時間をかけて東北にも伝わり、残ったということです」。
『古事記』や『日本書紀』の舞台となった出雲国。
朝鮮半島にあった新羅(しらぎ/しんら)の余った土地を、出雲の創造神・八束水臣津野命(やつかみずおみつぬのみこと)が引いてきて、現在のような地形になったという「国引き神話」なども残されている。
まさに“神秘の国”である。
出雲弁も、そうしたいにしえの時代からもたらされた文化なのだろう。