男性ふたりの間で板挟みに! 「求塚」に学ぶ、選ばぬ先の地獄【能楽処方箋】
■男たちの愛ゆえに地獄に落ちた乙女「求塚」
今回取り上げられたのは「求塚(もとめづか)」という曲。
この曲は『万葉集』や『大和物語』にも描かれている神戸市東部に伝わる伝承をもとに描かれたものです。それはふたりの男に求婚された菟名日処女(うないおとめ)という娘が、どちらかを選ぶことができず、最終的に自ら命を絶ってしまい、さらに男たちも娘の後を追ったという話。
しかし、死んだら終わりではないところが能楽の凄まじさ。能の「求塚」では、娘は死してなお地獄の責めを受け続ける……という何とも救いのない話です。
「求塚」あらすじ
春のある日。旅の僧侶の一行が生田川にさしかかると、菜を摘む女たちがいました。僧が女たちに「求塚」という古い塚の場所を聞くと、皆知らないと答え去っていきます。しかしそのうちのひとりは残り、僧を「求塚」へと案内し、その由緒を語り始めます。
それは昔この土地にいた菟名日処女という美しい娘と彼女に恋をするふたりの男の悲恋の話でした。
ふたりの男に求婚され戸惑った娘は生田川に身を投げ、男たちも後を追った……そうして建てられたのがこの塚(*)「求塚」であると。実はこの菜摘女こそが、菟名日処女の亡霊でした。
彼女は自らの正体を明かし、「この身を助けてください」