男性ふたりの間で板挟みに! 「求塚」に学ぶ、選ばぬ先の地獄【能楽処方箋】
さらに彼女が死んだことで、「菟名日処女がいない世に生きながらえても仕方がない」と男たちが刺し違えて後を追ってしまうのです。
皆、菟名日処女のせいで死んだのだと、死してなお地獄へ落とされ、責められ続けます。
地獄に落ちてもふたりの男は彼女の手を引っ張り合い、おしどりは鉄鳥となって彼女の脳をついばみます。それだけでなく、さまざまな地獄の責めが彼女の身を焼き尽くすのです。
■罪は存在そのものか、それとも選択の放棄ゆえか
物語を追うと、菟名日処女はふたりの男の恋情に板挟みになって死んだ気の毒な娘……そんな印象を受けます。死んで地獄に落ちるだけでなく、男たちや鳥まで追ってくるとは、あまりに悲惨な状況。
一体彼女が何をしたというのでしょうか。
金子先生「彼女に罪があるとすれば、それは選択を放棄したことではないかと思っています。
男のうちどちらかひとりを選べない、ということは片方を捨てることができないということ。最終的に自分で決断するのではなく、『おしどりを射た方と結婚します』というのは、運任せというか、自ら考えることを放棄してしまっていますよね」
結果的に一羽のおしどりが彼女の提案ゆえに命を落としてしまい、男たちの決着もつかない。