戦争という時代にも笑いを生み出そうとした人間の喜劇「円生と志ん生」
こんにちは、島本薫です。
「お芝居を観に行かない?」とお誘いすると、「いやいや……」と言われてしまうことが多いのですが、敬遠される一番の理由は「難しそうで敷居が高い」と思われていることのようです。
では、難しいことをやさしく、それでいて深く、とんでもなく面白く取り出してくれるお芝居なら、どうでしょう。
落語ブームの続く今日この頃。今回は、ユーモアとペーソスあふれる井上ひさしさんのお芝居、こまつ座「円生と志ん生」をご紹介します。
■「円生と志ん生」~戦後の満州に“居残り”となったふたりの落語家の物語~
これは「語る」ことに命をかけ、ピカピカに芸を磨き上げた人間の喜劇です。
敗色の濃い1945年夏のこと。
空襲続きで寄席も焼け、落語家は収入のあてもなく、たまの高座も着物ではなく国民服で務めるようなありさまだ。
しかし、関東軍の慰問に行けば、白いゴハンがたらふく食べられて、お酒だって飲み放題、おまけにご時世だからと遠慮せず、好きな噺が何でもやれるというではないか。そこで満州に渡ったのが、五代目古今亭志ん生と六代目三遊亭円生(※正しくは圓生)だ。
ところがソ連の参戦で軍はさっさと逃げを決め、残されたふたりは南端の大連まで落ち延びたものの、町が封鎖されて帰国できなくなってしまう。