戦争という時代にも笑いを生み出そうとした人間の喜劇「円生と志ん生」
■たとえこの世が涙の谷でも「笑い」をつくり出すのが噺家の仕事
もっとも笑い、もっとも深く胸を打つのが、終幕近くの修道院の場面です。
この世にあるものは、いつか必ず滅びる。
生きることは、つらいこと。
そう語る院長に、ならばこの世に笑いをつくり出すのが噺家の仕事と語る円生と、つらい浮世を乗り越える笑いの力を披露する志ん生。「この世に(笑いが)ないならつくりましょう。あたしたちは人間だぞという証しにね」
左から大森博史、大空ゆうひ(撮影:谷古宇正彦)
聖書の引用と落語のネタの掛け合わせで、おなかがよじれるほど笑った後だけに、この深い言葉が刺さります。
生前の井上ひさしさんは、「笑い」についてこのように語っていました。
「『生きていく』そのものの中に、苦しみや悲しみなどが全部詰まっているのですが、『笑い』は入っていないのです。
なぜなら、笑いとは人間が作るしかないものだからです」「笑いは、人間の関係性の中で作っていくもので、僕はそこに重きを置きたいのです。人間の出来る最大の仕事は、人が行く悲しい運命を忘れさせるような、その瞬間だけでも抵抗出来るようないい笑いをみんなで作り合っていくことだと思います」